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対エンフィールド⑤

「では、急ぎ頼むぞ。」


「はっ!」


ガリオンは馬車数台を見送った。悠仁がガリオンと方針を話し合った後、ガリオンは補給物資と追加の人員を運んでくるように兵士に指示を出していた。その補給物資が届き、荷下ろしが済んだため、今しがた負傷兵を乗せて街へ送り返したところだった。


送られてきたのは失った兵の8割程度。完全には元の数を揃えることはできなかったが、作戦上支障がないレベルまで回復した。合流した兵士が落ち着いた頃、ガリオンは兵士を集めて指示を出し始めた。


新しく来た兵士たちは、岩陰の血の跡と空いたままの馬の鞍を見て、状況を言葉より先に理解したようだった。誰も冗談を言わない。装備を確かめる音だけが、補充された数の分だけ増えた。


「今より部隊の再編成を行う。1分隊の人数は10人未満を基本とする。構成は必ず前衛と魔法兵を合わせて組み込み、最低でも4人の前衛を配置せよ。足りない場合は他の分隊と合わせて10人を超えても構わん。さぁ、分かれろ。」


分隊に分かれることには慣れているのか、兵士たちは一斉に分隊を作成し始める。悠仁達も集まって、作戦の詳細を詰めていく。


「さて、じゃあ俺達も確認だ。基本的にこの作戦は前衛と魔法職の連携が重要になる……、いつもそうなんだけどな。」


悠仁が話を始めると、メンバー全員は耳を傾け始めた。


「ただ、前衛がカイン一人じゃ厳しい…、ってことでフルール、カインと一緒に前衛に回ってもらってもいいか。攻撃を受ける必要はないから防御面は心配ないんだが、俊敏性が高いフルールにしかできない仕事がある。」


「わかりました。…じゃあカイン、よろしくね。」


「あいよ、任せとけ。」


フルールがカインの横にぴっとりとくっ付く。仲が良くて何よりだ。


「さて、次は後衛だ。ミーナは近接攻撃じゃなくて魔法攻撃側として回ってくれ。使う矢に魔法が付与されてるものはあるか?」


「え、えぇ…。かなり高価だけど…。物理攻撃と魔法攻撃、両方同時にできるから…。でも5本くらいしかないわよ?」


「あぁ、うまく使えばそれで十分だ。アリスは補助魔法を主に行動を。カインが危ない時だけ防御魔法をかけてくれ。今回大切なのはステラだ。その即時発動の魔法がとても重要になってくる。俺もなるべくサポートするが、頼むぞ。」


「……はぁい。任せて。……で、なんで、スクロール?」


「あぁ…、理由を説明してなかったな…。これは俺の仮説なんだが…。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……なるほど。それなら、あの防御力も、納得……。」


悠仁の説明を聞いたステラが、納得したように一人で頷いている。気だるげな半眼に、ほんの一瞬だけ研究者の熱がよぎった。


「今はそんなモンスターがいるんですねぇ…」


「年寄かよ…」


フルールのつぶやきに、カインが静かに突っ込みを入れる。


「まぁそんな訳だ。ただ気を付けるのが、これがただの仮説なだけであって、まだ確証がないこと。これだけは覚えておいてほしい。この理論で行くと、別にステラが攻撃の要を担わなくてもいいんだが、それでも安全第一ってことで。」


「……わかってる。命は、スクロール何枚使っても、返ってこないから。……今日は、出し惜しみ、しない。……高いんだけど、ね。」


ステラは腰のポーチをぽんと叩いた。意気込みは声に出ないが、その束の厚みが何よりの返事だった。


悠仁達が作戦の詳細を詰めている間に、ゴルド軍の方も大方説明が終わったようで、締めの言葉を述べているところだった。


「報告によればヴォーマより東の村は、ほぼ全てエンフィールドの被害にあったらしい。ここで仕留めなければ、奴はヴォーマの西や、ヴォーマそのものを襲う可能性がある。それだけは何としても阻止せねばならない!そんなことは分かっていると思うが、もう一度気を引き締め直してかかれ!では出発は10分後!解散!」


ガリオンの大きな声が響き渡り、兵士は出発に備えて装備の確認に入った。分隊内で話をして、消耗品の補充や交換を行っているようだ。ガリオンの傍付きの兵士が悠仁達の方へ走ってきて、こちらに敬礼をした。


「パーチの皆様!お聞きのように出発は10分後になりました!この作戦立案に協力してくださった皆様を危険に晒すのは気が進みませんが、どうか参加していただければと思います!」


兵士の敬礼はお辞儀に変わった。ガリオンの指示なのか、それともこの兵士の独断の行動なのかはわからないが、こんなことをされたら黙っていないメンバーがパーチにはいる。


「任せとけ!乗り掛かった舟だ!最後まで戦ってやるぜ!」


悠仁の横をすり抜けて、カインが兵士の肩をつかんで顔を上げさせる。そう、カインは困ってる人間に頼まれたら絶対に断わらない。そんな男だった。


「…ありがとうございます…!」


兵士は少し涙声になりながら再度敬礼をして、ガリオンの元へ戻っていった。


「ま、お前ならそういうと思ってたよ。」


兵士を見送っていたカインの背中を、悠仁は拳で押す。


「あんたが死んだら意味ないんだから、しっかりしなさいよ。」


それに続いてミーナも背中を押す。


「ま、私が面倒見てあげるから。」


フルールもそれに続く。


「……何これ。……ちょっと、楽しい、かも。」


「えーっと、じゃあ私も…!」


ステラとアリスもそれに続いてカインの背中に拳を当てる。この中で一番死に近いのはカインだ。みんなそれは分かっている。恐らくカイン自身もそれは理解しているだろう。それでも行くというのだ、それならもう誰にもカインのことを止めることはできない。


「…俺一人じゃこえーから、みんな、頼むぜ。」


カインは振り向いて、みんなが自分を押してくれていた拳に自分の拳を合わせる。


「よし!絶対にあいつを倒して早く戻って祝杯だ!絶対死ぬなよ!」


「「「「「おぉーーーー!!」」」」」


全員で拳を突き上げてパーチのメンバーは絶対に帰るという気持ちを再度胸に刻んだのだった。


円陣が解けた後も、掌には互いの拳の感触が残っていた。士気というものは兵の数や装備ではなく、こういう小さな熱の受け渡しでできている。ガリオンの軍にも、同じ熱が行き渡っていくのが遠目にも分かった。

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