対エンフィールド④
悠仁は一人の兵士に促されて、ガリオンの元へやってきていた。アリスは負傷兵の治療があるので置いてきた。
「お、さっきはさんきゅーな。」
「さっき?……あぁ、あれか、気にすんな。お前、怪我は大丈夫か?アリスに治療してもらってたみたいだけど。」
恐らくカインは撤退するときの最後に、悠仁がファイヤーボールでエンフィールドを制止したことを言ったのだろう。それよりも悠仁はカインの怪我が気になっていた。
「あぁ、撤退してすぐは無茶苦茶痛かったけどな、もう大丈夫だ。それで、話なんだが…。」
カインはガリオンへ視線を向ける。
「Yuji殿はエンフィールドに対してどのような作戦が有効だと思う。」
「エンフィールドに対して…、ですか。」
ガリオンから聞かれたのは、これからの作戦についてだった。
「まだ情報が少なすぎます。…ですがアレに関しての情報は、なかなか手に入れることができないでしょう…。」
あのような被害を出したことから、ガリオンは今までエンフィールドと同様のモンスターと戦闘したことがなかったのだろう。それは悠仁達も同じで、あのようなモンスターは見たことがなかった。ある意味新種のモンスター相手に対策を練るというのが無理な話だ。
「カインはどうだった、実際に戦闘してみて。」
「んー、まず近接攻撃は通らなかったな。あいつの毛、かてぇのなんのって。ノワールよりも硬かったぜ。」
「そうなると近接攻撃はやるだけ無駄ってことか…。攻撃は一切通らなかったのか?」
「いや、最大限の力で攻撃した時は、切るってよりは打撃に近いと思うけど、少し通ってた気がするな。」
近接攻撃は基本的に斬撃だ。もちろんそれ以外の打撃関連の近接攻撃も存在するが、それは戦士の上位職に適性のある武器だ。見たところ戦士で、剣での戦闘しかしてなかったこの軍では、上位職の者はいないのだろう。
「やっぱり魔法が一番効率的ですかね…。あの手の獣系モンスターは俊敏性が非常に高い。体力はさほどないと思いますが、攻撃を避けられる、近接攻撃が通らないほどの防御力となると、魔法中心に作戦を組み立てなくてはいけないかと…。しかし、魔法攻撃も効いていたわけじゃ…」
悠仁は自身の考えをガリオンへ伝える。悠仁がカインを助けるために放ったファイヤーボールは、ほぼダメージがないように見えた。
(ん…?無傷…?)
悠仁は頭の中に何か引っかかりを感じた。が、それが何かがわからない。
「ということは魔法攻撃も近接攻撃もダメというわけか…。なんというモンスターなんだ…。こんなのどんな大軍を使っても…。」
「いえ…ちょっと待ってください…」
光が見えない状況を嘆いているガリオンの言葉を止めて、悠仁は思考する。なぜ魔法攻撃が効くと思ったのか、その要因を呼び起こす。別に近接攻撃が効かないからといって、無条件で魔法攻撃が効くなんて都合のいい話が毎回通用するはずがない。事実、今回も魔法攻撃は効かなかった。なのに、なぜ効くと思ったのか。
「効いた瞬間があった…?」
悠仁は自分でその考えに辿りつくが、確信が持てない。それはいつだったのか。
(考えろ、なんでそう思った。根拠のない作戦は大勢の命を危険に晒す。考えろ…。)
目を閉じてぶつぶつと呟いている悠仁を、カインとガリオンは静かに待っている。数十秒も経った頃だろうか、悠仁がはっと顔を上げる。
「あった。確かに、攻撃が通った瞬間が。」
悠仁は自身がなぜその考えに至ったのか、その要因を思い出した。
「や、奴に魔法は効くのか…?」
ガリオンが悠仁の表情を見て尋ねてくる。
「確証はありません…。ただ、完璧なモンスターなんていたらおかしいんです。絶対に弱点があるはず。これがその弱点かはわかりませんが、無策よりはずっと希望があるのではないかと…。」
悠仁は自身の考えと予想をガリオンに話し始めた。
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――15分後
「なるほど…、私が見てない間にそんなことが…。」
「Yujiお前、すごいんだが見てるところが少しずれてるんだよなぁ…、だからAliceちゃんも…」
「アリスがどうしたって?」
「いや、なんでもねぇよ…。なんか不憫になっちまってな…。」
カインが何かを諦めたように顔を左右に振って下を向く。
「…?まぁいい。私はこう考えます。そして今のところ、これが最善の策だとも考えています。私たちはこの考えに基づいて、今から作戦会議と調整をするつもりです。」
「…なるほど、私もその案に乗らせてもらっていいかね…。」
ガリオンが再度悠仁の方へ向き直り、作戦を取り入れようとしてくる。
「…今お話ししたことは、あくまで私の予想にすぎません。違った場合にはゴルド軍に大きな被害が出る可能性があります。その責任は私には負うことができませんが、それでもよろしいなら…。」
「あぁ…、この件に関しては全て私の責任だ…。これからまた何人もの部下を死なせてしまうかもしれないが、このままおめおめと逃げ帰ったら、それこそ今まで死んでいった兵士が無駄死にになってしまう。」
ガリオンの意志は固いようだった。
「そこまで覚悟がおありなら、大丈夫だと思います。では、私はメンバーとの話し合いがありますので…。」
そう言って悠仁は席を立った。
「あぁ、ありがとう。私も今から作戦を立てて全軍に通達する。おい!手の空いている者は状況報告をしてくれ!」
ガリオンも立ち上がり、再度最新の状況確認を始めた。二人が立ったのを見て、カインも立ち上がって悠仁の横に並ぶ。
「おつかれさん。んで、どうするんだ?」
「今からメンバー全員を集めて作戦会議だ。お前には申し訳ないが、まだまだ働いてもらうぞ。その辺の兵士よりも、お前の方が頼りになるからな。」
「……任せとけって。お前の作戦を絶対成功させてやるからよ。」
カインは悠仁に拳を向けてくる。それを横目で確認した悠仁は、黙って拳を突き合わせた。
仮説はまだ仮説のままだ。外れれば人が死ぬ。その重さを分かった上で、押し付け合わずに半分ずつ持つ――拳を合わせるというのは、そういう作法なのだと思う。
悠仁の仕事は、火力と、勘定だった。
(基本の雷、CT明けまで——四つ)
魔法は撃った瞬間から、次に撃てるまでの空白を数える遊びになる。空白を焦って詰めれば、ペナルティで空白そのものが伸びる。だから数える。呼吸で四つ。その四つの間に立ち位置を直し、味方の頭数を数え、狐の目の向きを読む。
「≪駆けろ閃光 我に仇為す眼前の敵に 等しく死を齎せ≫——ライトニングボルト!」
決めた一本は、鷲の前脚の付け根、羽毛と獅子毛の縫い目に通した。あれの体で唯一「図案の継ぎ目」である場所。雷は正直で、通り道の抵抗がいちばん薄いところを選んで走る。継ぎ目の焦げた匂いが、初めて、あれに獣らしい悲鳴を上げさせた。




