証明
――未開のダンジョン 第4階層ゴルド領首都ヴォーマ ゴルド城前 兵舎
「ガリオン様!冒険者のお二人を連れてまいりました!」
一般兵の大きな声が辺りに響き渡る。ステータス確認書の提出をしにきたところ一般兵に案内してもらえたのだ。兵舎には悠仁とアリスのみが足を運んで、残りのメンバーはアイテムを捌きに行ったり、消耗品の買出しへ行っている。
「入ってくれ。」
中から重い声が聞こえる。その声を聞いた兵士はドアを開けて胸に拳を当てて直立している。
「お前は下がっていい。ご苦労だった。」
「はっ!」
兵士は悠仁とアリスの横を通り過ぎる時に会釈をしてそのまま訓練へ戻っていった。
「随分と早い再会になりましたな。」
机に広げてある書類から目を外して悠仁とアリスを見る。威圧されているわけでもないのに鋭い眼光に身が竦んでしまいそうになる。
「はい、思いの外早く確認が済みましたので。」
「ふむ……。かなり急いでいるように見える。」
「ええ、こちらにも色々と事情がありまして。」
こちらの世界の住人ではない悠仁たちとしては、何日もこちらにいるわけにはいかないため、早めにこの問題を解決して現実世界に戻りたいと考えている。そのためにはエンフィールドを倒すことが一番の近道なのだ。長期化すれば本当の死に繋がりかねない。ある程度の生命維持は現実世界で行われるだろうが、死者を蘇らせることはさすがにALGOであってもできない。
「そのようですな、では早速ですが確認させていただきましょう。」
その言葉に従って悠仁はメンバー全員分のステータス確認書を手渡す。
「……しっかりと聖堂の印が押されている。偽物ではないようだ。……っと失敬。疑ってるわけではないのだが、軍というのは規律を重んじなければならない場所である故、私のような上に立つ人物はこのようなことにも細かく気を配らないといけないのだよ。もし確認不足が露見したらあっという間に引き摺り下ろされてしまう。」
軍というのは意外と大変なようだった。まるで中世王族の跡継ぎ争いのように。
「いえ、お気になさらず。管理職の大変さは分かっているつもりですので。」
悠仁自身、部下を管理しなくてはならない立場だったため、その大変さは分かっている。石橋、もといミーナの教育では何回一緒に頭を下げたことか。
「そういってもらえると助かる。全てに目を通すのでそこに座って待ってくだされ。」
以前にも座ったことのある席へ促され、悠仁とアリスは席につく。テーブルの真ん中には一般家庭のように鉢にお菓子が盛られており、主に焼き菓子のようだった。
「……あぁ、そこの菓子は好きに摘んでくだされ。妻が持たせるのです。兵舎にはこのようなものは似合わないと言っているのだが、どうにも……。捨てるわけにもいかないのでここに置くのだが、客が多いわけでもないのでね。最後には私が全て食べるのだが、毎日これが続いていると胸焼けがしてしまって……。なるべく多く食べてもらえると助かる。」
ガリオンは苦笑いをしながらお菓子を勧めてくる。困ったような口調だが、その顔は笑っている。伴侶のことを愛しているのが、それだけでも伝わってくる。
武骨な兵舎の机に、家庭の焼き菓子の鉢がひとつ。似合わないと言いながら捨てもせず、客に配って減らしている。この人の強さの根がどこにあるのか、その鉢が勝手に白状しているようだった。
「いただきます、ありがとうございます。」
アリスは笑顔でそれに応え、一つ二つとお菓子をつまんでいく。
「わぁー、とてもおいしいですね!」
「これはなかなか……。」
悠仁も一つ貰ってみたが、中々に美味い。ビスケットほど硬くは無いのだが、クッキーほど柔らかくもない。甘すぎない味に、牛ではない他の動物の乳が使われているのがわかる風味が甘さの代わりになっている。
「妻が聞いたら喜ぶ。まぁ伝えたらもっと作ってくると思うから言えないがね。」
そう言いながらガリオンはアリスの顔をじっと見つめる。
「な、なんでしょうか……?」
お菓子を頬張っているところを見られて恥ずかしいのと、理由が分からず困るのとで少し俯きながらその視線のわけを聞く。
「あぁ、すまない。結婚した頃の妻の笑顔にそっくりだったのでね。つい見てしまったのだよ。取って食べる訳ではないから気にしないでくれ。」
「は、はぁ……。」
ガリオンは再び書類に目を通す。
「ほう……、Aliceさんはカーディナルなんですか。」
ガリオンは書類の一つに目を通しながらこちらに問いかけてくる。
「はい、縁がありまして。」
「魔力や魔法適性もなかなかだ……。冒険者歴は?」
「約1年半になります。」
「ほう……それはかなりのハイペースだね。」
ガリオンはその調子で他の書類にも目を通していく。
20分くらい経った頃だろうか、全部の書類に目を通し終わったのか確認書を持ってこちらへやってくる。
「お待たせした。書類はお返しする。」
そういって悠仁たちの正面の席に座り、書類をこちらへ差し出してくる。
「さて、単刀直入に言わせて貰うと、君達は合格だ。」
「それは同行しても構わないと?」
言葉の細かいところで認識の齟齬があったら困るため一応確認しておく。
「あぁ、その通りだ。回復を行うことのできるAliceさんや、ハンターの方がいたり、何より盾役のカインさんもいるようでバランスが取れている。もしもの時にはうちの新米を助けてもらいたいくらいだ。」
どうやらステータスはお気に召したようだ。一先ず同行していいことが分かった悠仁は一番聞きたかったことを尋ねる。
「それはなによりです。……それで、急かすようで申し訳ないのですが討伐はいつになりますか。」
「明日だ。」
ガリオンは即答する。
「明日、ですか。」
「あぁ、村が一つ襲われたところを見ると次の被害が出るのも時間の問題だ。奴が快楽目的で狩りをしているのか、捕食を目的として狩りをしているのかは分からんが、これ以上の被害が出ることは領主様が許すはずも無く、私も許さない。」
テーブルの上に置いた拳をぎゅっと握りこむ。相当な力で握りこんでいるのか手甲がカタカタと音を立てている。
「パーチの皆様には突然で申し訳ないが、そのつもりでいて欲しい。多少の消耗品であればこちらでも提供しよう。我が軍と行動を共にする以上それくらいは領主様も許すだろう。」
「それは助かります。」
割とポーションの使用率が高いパーチの戦闘方法からすると少しでも物資の提供をしてもらえるのは助かるというものだ。
「では明日、ゴルド領の東、ログハウスが出現した場所へ向かう。時間は日の出より1時間後だ。集合場所は城門。パーチの方々の馬はこちらで用意しておく。」
既に夜に近い。すぐに休息を取らないと間に合わなさそうだった。
「わかりました。では私のほうでもメンバーとの打ち合わせがありますので、失礼ですが戻らせていただきます。」
せめて1日空くと思っていたが、明日となるとメンバーとの打ち合わせを早急に行わなくてはならなくなる。物資の確認などもあるため悠仁とアリスは席を立つ。
「エンフィールドは中々に手強い相手と見える。十分な準備を。」
「……はい。」
ドアから出る悠仁の背中にガリオンが言葉を投げる。その言葉を聞いて悠仁は一度動きを止めて、再度動き出した。二人は自然と小走りになって宿屋へ戻った。
夜道を走りながら、悠仁は手の中の書類の束を握り直した。明日、と即答したガリオンの声が耳に残っている。ためらいのない即断は頼もしく、同時に、その速さの分だけ事態が悪いのだということも教えていた。




