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説明

――未開のダンジョン 第4階層 ゴルド領首都ヴォーマ 大聖堂


ヴォーマはゴルド領の首都であるため大聖堂がある。ステータス確認は聖堂ではなく大聖堂でなくてはできないため好都合だった。他にやることもないので悠仁達はガリオンと話をしてからすぐに大聖堂へ向かい、受付前の広間で状況確認をしていた。


「…ちょっと考えたんだけど。」


ミーナがおずおずと手を挙げて発言の許可を求めてくる。


「どうした?」


「ここ大聖堂じゃない?ログアウトできないのかなって。」


「…確かに…。」


悠仁はミーナの発言を聞くまで頭から抜けていたが、聖堂と言えば冒険者が現実世界との行き来をする窓口である。ここ最近は物凄い勢いで事態が進行していたので忘れてしまっていたが、そもそも悠仁達が聖堂に来る理由の9割はログアウトのためである。


もう何日も現実世界に帰っていない気がする。帰れるなら帰りたいものだ。特にカインは会社のこともあるだろう。既に現実世界のほうでは騒ぎというか、問題になっているかもしれない。


「…俺もそろそろ連絡しねぇと…。」


案の定カインが心配している。


「んじゃログアウトしてみるか…。一応ダンジョンの中っていうイメージなんだけどどうなるんだろうな。」


悠仁は受付に向かい、受付嬢にログアウトの申請を行う。


「すみません、ログアウトをしたいのですが。」


「はい、ではこちらに腕を通していただけますか?」


受付嬢に促されて、現実世界の受付にある機械と同じものに腕を通す。だが…。


ピーッ!


いつもは緑色に点灯するはずのランプが赤色に点灯した。お互い当然ログアウト処理が進むと思った2人は顔を見合わせる。


「少々お待ちください。」


命の危険もあるため、ログアウトのシステムは非常に柔軟に作られているはずである。ただ何でもかんでも無条件でログアウトできるわけではなく、そのログアウトができない時の大きな理由が『規約違反』である。


運営が定める規約に違反したプレイヤーは逃亡防止のためにログアウトができないことになっている。規約に違反しているかはAIが自動で判断するため、逃れるのは難しい。体の操作を全て機械に預けている以上、思考まで読まれてしまっている。よってそれが「故意」なのか「過失」なのかまで判断されてしまうのだ。


なので今回ログアウトができないことで考えられるのは『規約違反』をしたかどうかであるため、精査する必要があるのだ。


「は、はい…」


今までログアウトができなかったことなど無く、ログアウトができない状況は『規約違反』の場合が99%を占めると悠仁自身も知っているのでかなりの緊張が走る。特に悪いことをしていないのに手が震える。後ろで悠仁の様子を伺っているメンバーも黙り込んで動向を見守っている。


「…おかしいですね…。」


受付嬢が後ろの機械を操作しながら呟き、しばらくして振り向き、結果を悠仁に伝えてくる。


「規約に違反した形跡がありません。なので何か処分があるとかそういったことはないのですが…。」


受付嬢は不思議そうに、自分に確認をするように続ける。


「ただ、システム側がログアウトを許可しないので、申し訳ありませんがYuji様は現在ログアウトを行うことができません。」


一瞬、聖堂のざわめきが遠くなった。


出られない。この体は、この世界から出られない。頭に浮かんだのは理屈ではなく妙に具体的な絵で——裏路地の雑居ビルのポッドの中で目を覚まさないままの自分の体と、それから、施設の受付の「お帰りなさいませ」だった。あの挨拶は帰る側の人間に掛けられる言葉だ。帰れなくなった人間には、誰が、何と言うのだろう。


背筋を、細い氷が一本、降りていった。


「そんな……悠仁さんだけ、ログアウトできないんですか……?」


アリスが青ざめた顔で腰を浮かせる。


「おいおい、冗談だろ……。規約違反もしてねぇのにかよ。」


カインの声からも、いつもの軽さが消えていた。動揺する一同をよそに、受付嬢は続ける。


「保険には加入していますか?」


ここでいう保険とは、生命保険等ではなくALGOが提供するプレイヤーの保護に関する保険だ。何らかの理由で現実世界に戻れない場合生命維持に問題が起きた時などに処置を行ってくれるサービスだ。


「はい、オプションであったので一応入っているはずです。」


「では、現実世界ではもう少し何事も無く過ごせるはずですので、それまでに問題を解決していただければログアウトができると考えられます。何かお心当たりはありますか?」


規約違反が原因でない以上他に理由があると考えるのは当然である。受付嬢は聖堂では確認できない他の原因についての心当たりを聞いてくる。


「まぁ…一応あるんですけど、それは何とかします…。それより…。」


事が特殊なので説明するのが面倒だと判断した悠仁は、ログアウトできない件は適当に流すことにして本題に入ることにした。


流すことにした、というのは半分だけ本当だった。胸の奥では、あの赤いランプの色がまだ点いている。この世界から出られない――その言葉の重さを量りにかけるのは、全部が終わってからでいい。今は目の前の手続きだ。


「ステータスの確認を行いたいのですが、大丈夫ですか?」


ステータスの確認はそう頻繁に行われるものではなく、必要になってくるのはある程度冒険が進んだときである。つまりヴァリエスタ等で確認をする冒険者は非常に稀で、こういったある程度進んだ街の大聖堂で行うのが基本の流れになる。そのぶん確認の依頼が立て込んで滞っている場合もあるため、まずは可否を尋ねる。


「えっと…。少々お待ちください。」


受付嬢は再度後ろの端末を動かして確認をする。


「ステータスの確認ですと現在3人の冒険者が行っております。確認をするためにはポッドに入っていただく必要があるのですが、そのポッドは当聖堂に5台設置されているため2人まででしたらすぐに確認をすることが出来ます。お連れ様がいらっしゃるようですが、全員ステータスの確認を希望ですか?」


「はい、全員ステータスの確認が必要になったので…。」


成り行きだが、いい機会である。


「わかりました。それではまずお二人確認をした後に残りの方の確認を行うのが一番早く終わると思いますが、いかがですか?」


受付嬢が予定の提案をしてくる。特に問題もなかったのでそのまま申請を通してもらうことにした。


「それで結構です。お願いします。」


「わかりました。では全員分のプレイヤーカードをお預かりして本人確認が済んだ後は順次ステータスの確認を行います。お連れ様の中に上位職の方はいらっしゃいますか?」


受付嬢が職についての質問をしてくる。


「ええ、一人。カーディナルが。」


「まぁ、カーディナルですか。それはすごいですね。実はステータス確認に手数料がかかることはご存知だと思うのですが、下位職が8金貨でいいのに対して上位職の方は15金貨かかってしまいます。」


「随分と変わりますね…。」


金貨7枚。日本円にして70万円だ。随分と大きな差があるものだと感じるが、システム手数料なので仕方がない。


「大丈夫です。それでお願いします。」


「わかりました。では上位職1名、下位職5名なので合計55枚の金貨をお支払いただきます。」


パーティーの資金では賄いきれなかったため、悠仁は自分の財布からも出す。本来は必要経費なので全て資金から払いたかったがそうもいかないため後でメンバーにカンパしてもらうことにする。


「ではこれで。」


「…確かに、金貨55枚を頂戴します。領収書は必要ですか?」


「え!?領収書でるんですか!?」


HOPEの世界で支払いをして領収書が出るなんて初耳だったため、悠仁は驚いて声を上げてしまう。その声を聞いたメンバーは当然驚いてこちらを向く。


「ふふ、冗談です。」


「で、ですよね…。」


「必要があれば支払った時の記録が残っていますので聖堂であればどこでも確認できます。」


お茶目な受付嬢のジョークだったようだ。ひとまず受付を済ませることができたので、受付嬢は手続きを進める。


「ではまず2人、ステータスの確認を行います。先に行かれる方はこちらにプレイヤーカードを提出してからポッドへお進みください。」


「わかりました、それじゃあ…。」


悠仁はメンバーの中から自分と一緒に先に行くメンバーを選ぶ。


(とりあえずマスターとサブマスターで行けばいいだろ…)


そう考えた悠仁はサブマスターの名前を呼ぶ。


「アリス、行こう。」


「はい!あぁ!ごめんねフェリス…。」


急に声をかけられたアリスは驚いたように椅子から立ち上がるが、あまりの勢いに肩に乗っていたフェリスが落ちそうになる。


「よかったじゃないAlice、ご指名よ。」


「も、もうそんなんじゃないって!」


ミーナがアリスをからかうとアリスは少し顔を赤くして悠仁の場所までやってくる。悠仁とアリスが受付の前に並び、2人が揃ったところで受付嬢が話を進める。


「では、こちらにプレイヤーカードの提出をお願いします。提出をし終わったらお二人の左斜め前方にあるドアに入っていただき、中の職員の指示に従ってください。プレイヤーカードは終わった時にお返ししますので、帰ってきたらもう一度こちらに足を運んでください。」


「わかりました。時間はどのくらいかかりますか?」


アリスが所要時間について質問をする。


「特に問題が無ければ25~30分程度で終わります。他に質問がありましたら中にいる職員にお尋ねいただければお答えできますのでそちらでお願いします。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「いえ、ではあちらへどうぞ。」


悠仁とアリスは指示に従って歩き出し、初めてのステータス確認を行うのだった。

ログアウト禁止処置 (システム)

HOPEの世界からのログアウトがシステム的にロックされている状態。規約違反をした冒険者の逃亡を阻止するために存在するシステムであるが、他にも不正な手順でログアウトをしようとする冒険者もこれに引っかかってしまう。後者の場合原因が解消されればログアウトができるようになるが、前者の場合には、その違反内容によって処罰が決められ、一定期間のログイン禁止処置が行われたり、アカウント抹消、所謂BANをされたりすることがある。一番重い処罰の中には、その地域の法執行機関への身柄受け渡し等もある。


利用者の生命維持に関する保険 (システム)

HOPEの利用登録をする際に入ることのできるオプション。何らかの理由でログアウトができない場合などに現実世界にある体の生命維持や、健康の維持を行ってくれるサービス。月額利用料に代金が上乗せされる。入ることが推奨とされており、契約時にも強く勧められる。この保険があればある程度の期間であれば何の問題もなくログインを続けることができる。


ステータス確認 (システム)

ゲーム内で行うことのできる操作。大聖堂にて自身のステータスの詳細を確認することができる。基本的な体力、魔力、STR(筋力)MGC(魔法適性)DEF(耐久度)DEX(器用さ)AGI(俊敏性)の他にも、持っているスキルの確認などの付加情報まで確認することができる。確認するためには手数料を支払う必要がある。

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