上級指揮官
――未開のダンジョン 第4階層 ゴルド領 ヴォーマ
「全員分の席が無くて申し訳ないが。」
案内をしてくれた兵士が部屋の中央に置かれたテーブルへ促すように手を向ける。メンバーに促されて悠仁とアリス、村長が席につく。兵士は奥にある机でなにやらゴソゴソと書類をいじっていたようだがしばらくすると白紙の羊皮紙を持って席に着く。
「さて、まずは自己紹介を。私はゴルド軍上級指揮官のガリオンと申します。実質軍を任されている身です。以後、お見知りおきを。」
悠仁達に声をかけてここまで案内をしてくれた兵士はこの領地にある軍のお偉いさんだったようだ。確かに周りにいた兵士よりも貫禄と威厳があった。それに続いてひとまず悠仁とアリスが自己紹介をする。
「Yuji殿にAlice殿、そしてクラン『パーチ』の皆様、まずはお礼を。本来であれば軍が行わなくてならない村人の救出を行っていただきありがとうございます。領主に代わりお礼申し上げます。」
ガリオンが頭を下げてくる。ウェイルの時も同じだったが、領主や軍というのは領民を命をかなぐり捨てても守らなくてはならないようだ。
「いえ、皆さんに助けられている冒険者です。このくらい当然です、人は『助け合い』というでしょう。気になさらないでください。」
「そういっていただけると助かる。」
悠仁はひとまず当たり障りの無い返答をする。多少『助け合い』の部分の語気を強めたことにガリオンは気付いていたようだ。自己紹介の後は村に来るまでの状況の説明、村長に対しての事情聴取などが行われた。
聴取の間、ガリオンは一度も話を遮らなかった。要点だけを短く問い返し、村長の言葉が詰まると黙って待つ。軍人の聞き方というより、失った者の話を聞き慣れた人間の聞き方だった。
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「…なるほど、ここまで情報が揃っているとエンフィールドの出現は間違いないということになる…。」
ガリオンは濃い顎鬚をゾリゾリと撫でながら困ったように情報をまとめた羊皮紙を眺める。どうやら村を襲ったのはエンフィールドというモンスターで間違いないようだ。
「その、エンフィールドというのは何なんですか?」
「あぁ、Yuji殿は直接見たわけではないのだから知らないのは無理は無い。実は…」
ガリオンは悠仁に分かりやすいように説明を始める。
「エンフィールドとは最近急に我が領内に発生したモンスターで、非常に獰猛で生物のようであればなんにでも攻撃を行いそれを喰らい尽くす、そう聞いている。」
「聞いているってことはガリオンさんも見たことは。」
「お察しの通り、私もまだ実際に見たことがない。巡回の兵士や被害にあった者が見てきた情報を聞いて想像をしている段階になっている。ただ、それらの情報は全て共通点があることから、同一個体の起こしている襲撃に間違いないかと。」
「なるほど…。」
それを聞いて悠仁は考え込む。『最近』という言葉が非常に気になった。
「すみません、最近というと正確にはどの位前から?」
「ふむ、そうだな。」
ガリオンは席を立ち、自身の机に乗っていた書類を手に取り少し眺めた後に帰ってくる。
「正確には5日前になる。もちろんそれよりも先に発生していた可能性はあるが、一番初めに被害が出たのがこの日だ。」
「5日前ですか…。」
「何か気になることでも?」
日付を聞いてまた考え込む悠仁にガリオンが問いかける。何でもいいから情報が欲しい、そんなところだろう。
悠仁は今現在考えていることを話し始める。
「はい、実はここへは馬車や徒歩で来たわけではないのです。この領地に入る前にはバーゴルドンにいたのです。」
「バーゴルドン?あの東の島だと認識しているが…。」
聞きなれない地名を聞いてガリオンは思い出すように腕を組む。
「そのバーゴルドンで間違いはありません。そしてバーゴルドンを出たのはほんの1日前になります。」
「ご冗談を、バーゴルドンから此処まではまともに進んでくれば休憩も含めて1ヶ月以上はかかる。」
ガリオンの言っていることは尤もだ。悠仁もまともな冒険をしていれば同じような反応をするだろう。しかし事実なのだから仕方がない。
「実は初めウェイル領にいたのです。」
「おぉ!ウェイル領に!ウェイル殿は御壮健でしたかな?」
ウェイル領の話が出るとガリオンは嬉しそうに声を上げ、身を乗り出してくる。
「それはもう。私達に戦闘まで見せてくれました。」
「それは何よりだ。実は私はウェイル殿に剣の指南をしてもらったことが…、と、すまない話が脱線した。続けてもらえるかな。」
ガリオンは恥ずかしそうに座りなおして話の続きを促す。
「はい。そのウェイル領で活動をしている時に新しいダンジョンが発生しまして、そのダンジョンが今までに無いような構造をしていたのです。」
「ほう、今までに無いというのは?」
「迷宮が生成されるのではなく、実際に世界各地を階層として形成されているのです。」
「…もう少し詳しく頼む。」
簡潔に説明しすぎてしまい、ガリオンは理解ができないようだった。
「言葉を削りすぎました。ウェイル領内にダンジョンが発生し、それに入ったところそのダンジョン内は実際にある土地に繋がっていました。第1階層と第2階層がどこだったかはわからないのですが、第3階層ではバーゴルドン、そしてここゴルド領が第4階層になります。」
ガリオンはその話を黙って聞いている。その沈黙は続きを促しているようだった。
「そして階層を進むにあたって必要になるのが鍵です。そのエリアの特定のモンスターを討伐するとドロップする鍵でその階層にあるログハウスの鍵を開けることで次に進むことができるのです。」
「…今ログハウスと言ったか?」
ガリオンは眉をぴくりと動かしてログハウスについて言及する。
「はい、ウェイル領に発生したダンジョンも、入り口はログハウス型で、各階層を繋いでいる扉もログハウスでした。それが何か?」
「ログハウス…。ちょっと待ってくれ。」
ガリオンは再度席を立ち、先ほどしまった羊皮紙の束を取り出してじっくりと読み進める。
「…あった、これだ。」
ガリオンは1枚の羊皮紙を持って戻ってくる。
「ログハウスで思い出したのだが、実は5日前に哨戒していた兵士からこんな報告が…。」
テーブルに羊皮紙を置き、悠仁のほうへ出してくる。その内容は5日前に領地の南と東に正体不明のログハウスが出現したと言う報告だった。
「これは…。」
「ログハウスの出現報告だ。この地域では採れない新鮮な木材を使って作られていたようで目に留まったらしいのだが、特に害がなかったとの報告だったので放置していた…。」
「同じ、5日前ですね。」
エンフィールドの発生も5日前、ログハウスと何らかの関係があってもおかしくはない。
「ええ、つい脅威度の高いエンフィールドに目が行っていたが、これはYuji殿の話を聞くと無関係には思えませんな。」
「私もそう思います。」
エンフィールドの発生とログハウスの発生の日はほぼ同じ、無関係ではないだろう。ログハウスの位置も分かった今、鍵の手がかりはエンフィールドということになる。そしてそれはほぼ確信に近い。
「…ガリオンさんはこのエンフィールドをどうするおつもりで?」
アリスがガリオンに尋ねる。
「まず間違いなく討伐ということになるでしょうな。領主様もきっとそのおつもりだ。こちらでも軍の編成を進めている。」
「軍をあげて討伐…。ガリオンさん、お願いがあるのですが。」
「…聞きましょう。」
悠仁がガリオンに要望を伝え始める。軍をあげて討伐をしてくれる。このダンジョンの攻略を済ませたい悠仁達からすればこれは絶好のチャンスである。
「エンフィールド討伐に参加させていただけませんか?」
「なるほど…、大体予想はしていたが。」
規律の取れた軍、部外者の立ち入りを好まない者も多いだろう。だからこその提案、ここで先ほどの言葉が活きてくる。
「領民を救ってくれたパーチの皆様のお願いだ、聞きたいのですが条件がある。」
やはりすんなり了承とは行かないようだ。
「その条件とは?」
「はい、ステータスが基準を満たしていたら私の権限で同行を許可しよう。信用していないわけではないが、口頭での申告ではなく、聖堂の印が押してある書面での申告でお願いする。」
「ステータス…。」
悠仁達は一度もステータスの確認をしたことがなかった。ステータスの確認は聖堂で行う必要があり、確認の申請には手数料が取られる。そしてそれはけして安いものではない。それの確認は冒険をする際に必ず必要というわけではないので、確認していない冒険者も少なくなく、悠仁達もその一部だ。つまり全員がそれぞれのステータスを知らないことになる。
「…わかりました。実はステータスの確認を行っていないので、明日聖堂で発行してもらったものを持って再度こちらに足を運ばせていただきます。」
それなりにレベルが上がっているだろう悠仁はいい機会だと考えてその条件を飲む。ステータスの確認は必須条件ではないがその地域のモンスターを討伐できるかを確認する際の指標にもなるので知っていて損はない。
これから旅をする上で参考になるのは間違いない。
「では、その確認は私が行うので、明日持ってきていただければ。もちろん今日でもいいが、無理はしないでくれ。申し訳ないが手数料は軍の予算から出すわけにはいかない故…。」
「それは大丈夫です、こちらで出しますので。」
さすがに今日初めて出会った冒険者に軍の予算を使うわけにはいかないだろう。しかもそれなりに高額だったはずだ。
「では、明日お待ちしている。おい!誰かいるか!」
ガリオンが外に向かって声を出すと兵舎の前を警護していた兵士が中に入ってくる。
「ガリオン様、お呼びでしょうか。」
左胸に右の拳を当てて敬意を表しながら兵士が尋ねる。
「パーチの皆様がお帰りだ。練兵所から送って差し上げろ、それとハシル村の村長を村民がいる場所へお連れしろ。」
「はっ!ではパーチの皆様こちらへ。ハシル村の村長殿はしばしお待ちを、兵士を連れてまいりますので。」
元気の良い兵士はドアを出て城下町のほうへ悠仁達を連れて行った。
兵舎を出ると、外は鉱石灯の柔らかい明かりに包まれていた。討伐への同行という切符は、まだ条件付きで手の中にある。それでも、やるべきことが一本の線に並んだというだけで、身体は妙に楽になっていた。




