到着
――未開のダンジョン 第4階層 ヴォーマ近郊 村を出た翌日
悠仁達は村人と野営し日を跨いだ。最初の戦闘から数えて20回を超える戦闘を行ってようやくヴォーマ近郊まで辿り着くことができたが、十分な休息が取れないまま、慣れない護衛対象がいる中での旅は心身ともに疲れるもので、悠仁達は疲弊していた。ダンジョン攻略のために持ってきた消耗品も底を尽きかけている。
「…」
「…」
いくら仲の良いメンバーでもこれだけ疲れると無言になってくる。村人もそんな空気を察して静かに移動している。悠仁も悪いと思っているがこればかりは仕方がない。
「…ん?」
村長が声を漏らす。歩きながら周りを見渡している。
「冒険者様、そろそろでございます。」
村長が悠仁の元へ歩いてきてそう告げる。ようやくヴォーマへ辿り着けるようだ。村長の言葉通りしばらく歩いているとそのくすんだ風景の向こうに暗い影が見える。所々が光っていることから人が生活していることが分かり希望が見えてくる。
「良くもまぁここの地域のモンスターと連戦して無事でいられたもんだ…。」
悠仁は誰にも聞こえないくらいの声でそう漏らす。この世界は通常リットリア領から離れれば離れるほどモンスターが強くなる傾向がある。もちろん完全にそういう分布なわけではないが多くの場合それに当てはまる。
ここゴルド領はマップの中央、リットリア領からはかなり離れている。そこのモンスターを相手にここまでやって来られたのは奇跡に近い、そう思っていた。
街を見つけてからは特にモンスターに絡まれることも無く辿り着くことができた。
街の明かりが近づくにつれ、村人たちの列から、詰めていた息が少しずつ漏れていくのが分かった。誰かが子どもの手を握り直し、誰かが荷を背負い直す。助かった、とはまだ誰も言わない。それでも歩幅だけは、確かに軽くなっていた。
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――未開のダンジョン 第4階層 ゴルド領 首都ヴォーマ
「待て、何者だ。」
門番は槍を構えてこちらを警戒する。武器を携帯している以上警戒するのは当然のことなので仕方がない。
「ちょっとお待ちを。」
村長が悠仁達の前へ出て門番に何かを見せている。通行手形のようなものだろうか、一枚の羊皮紙を見せると門番は顔を見合わせて頷いている。
「なるほどわかりました。ハシルの村人と冒険者様ですね。この度は我々兵士の代わりに村人を助けていただきありがとうございます。どうぞ中へお入りください。」
門番は更に奥にいる兵士にドアを開けろとジェスチャーする。それをみた兵士は両手で扉を開いて道を作る。
村長を先頭に中へ入ると今までの街とはまた違った景色が広がっていた。
「綺麗…。」
アリスが呟く。
街は薄暗く常に明かりが必要な様子だったが、ヴァリエスタなどで使用しているガス灯の代わりに鉱石が使用されており優しい、色とりどりの光が街を包んでいた。住人や走り回っている子どもも腰には鉱石入りのカンテラをぶら下げており、少し目を細めると蛍が漂っているように見える。
街はカプランド同様とても落ち着いた雰囲気で露店もそこそこであるが、露店の外観も鉱石で飾られておりファンシーな空気が漂っている。
焦土を歩き通した目に、この色とりどりの光は少し沁みた。火山に脅かされながら、その火山の恵みで夜を飾る。この土地の人間と火山との付き合い方が、街の明かりひとつに出ている気がした。
「この付近では魔鉱石が多く採れます。地面を掘っても出てきますし、火山の噴火によっても出てきます。火山活動は度々災害に発展しますが、それのおかげで我々は生計を立てられているといっても過言ではないのです。火山と共に生きているのですよ。街の人が腰につけているカンテラの中にはリュミエール鉱が入っています。よく見られる鉱石で夜になればすぐに見つけられますよ。」
村長が悠仁達に説明してくれる。
ただ、ここには観光をしに来たのではなく、村人を保護してもらうためにやってきたのだ。
「さて、この後はどうするか…。大体こういうのってどこが対応するんだ?」
「分からないことがあったら分かる人に聞いてみましょう。」
悠仁がこの後の対応に困っているとアリスが門の所にいた兵士に声をかけてなにやら色々聞いている。
しばらくしてアリスは戻ってくる。笑顔であることから情報は得られたようだ。
「わかりました。領主がいる城の前に兵士の詰め所があるので、まずはそこに行ってみるともっと詳しい人がいるみたいです。」
「なるほど…。」
門の所にいるのは末端の兵士だったのだろう、盥回しといえば聞こえは悪いがとりあえずこの件に詳しい人の場所を教えてもらったことには変わりない。
悠仁はこちらを心配そうに見ている兵士に軽く会釈をして遠くに見える城へ歩き出した。
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――ヴォーマ ゴルド城前 兵舎
城の前には立派な兵舎が建てられており、兵士が藁人形を相手に訓練をしていたり、兵士同士で訓練をしていたりと中々に活気がある。リアッツォとは大違いだった。
「ん?どうかしましたかな?」
訓練の様子を見ていた兵士が一人こちらへ歩いてくる。カインと同じくらい大きく体つきもがっしりしている。彫りが深く四角い顔からは凄みを感じる。ただ声をかけられただけなのに気圧されそうになったが、悠仁は用件を伝える。
「初めまして、私は冒険者のYujiといいます。実は…。」
悠仁はこれまでの経緯を説明するとその責任者のような兵士は眉間に指を当てて溜息をつく。
「何てことだ…エンフィールドがこんなに早く出るなんて…。ということはきっと…。」
「だ、大丈夫ですか?」
ミーナが兵士に声をかける。
「あぁ、いえ…。エンフィールドが出るということを各村に通達に出た我が軍の兵士が帰ってきていないのです。予定では今日の朝方には帰ってくるはずなのですが、帰ってこないということはそういうことなのでしょう…。」
ハシル村に来た兵士のことだろう。帰ってきていないということはその途中で襲われた可能性があるということだ。
「ただ、あなた方が無事でなによりです。領主様に住む場所を用意してくれるように頼んでおきますので、しばらく兵舎を使ってください。とはいっても部屋はそんなに余っていないので狭いかもしれませんが、臨時の住家が見つかるまでの間なので我慢してください。」
「いいえ、領地を守る兵士様のお部屋をお借りするのです。我慢だなんて、我々は地面の上でも良いのです。ありがとうございます。」
村長がその兵士の前に膝をついて礼をする。それに倣って他の村人も膝をついて頭を下げている。アリスと仲良く話をしていた男の子も黙って頭を下げていることから、この領の兵士は領民に尊敬されていることが分かる。
「頭を上げてください。では皆様を案内します。村長は少し残ってください。よろしければ冒険者様も一緒に。」
どうやら話を聞きたいような様子だった。よろしければと言っているが余り選択肢はないように思える。こちらも聞きたいことはあるので丁度いいと思い頷くと兵士は村人を案内した兵舎とは違う建物に悠仁達を案内した。
リュミエール鉱 (アイテム)
魔鉱石が採れる場所では比較的簡単に入手できるアイテム。強くは無いが辺りを照らすくらいの光量を持った鉱石で、色は様々である。あくまで消耗品で、採集したその時から耐久度は減少を始める。カンテラに入れることで燃料が無くても明かりを携帯することができるようになる。
ヴォーマでは鉱石用のカンテラが販売されている。




