護衛
――未開のダンジョン 第4階層 破壊された村
「そ、それは本当ですか!?」
悠仁の提案を聞いた村長は身を乗り出して驚いている。まさかこの僻地で誰かに助けてもらえるなんて思っていなかったのだろう。それを聞いていた周りの村人も半数ほどは喜んでいたが、残りの半数は家族を失ったのか暗い表情のままであった。
生まれ育った村、遺体とはいえ自分の肉親を残して村を出るのは辛いだろうが、ずっとこの村に留まっていても衰弱していくだけだ。本気で復興するならそれなりの人手と物資が必要になるだろう。
「はい、できるだけ速やかに。さすがに一度襲った村に何度も足を運ぶことは無いと思うのでできるだけ早く移動したほうが良いと思います。」
悠仁の提案を聞いて村長は考え込む。とはいっても選択肢は無いに等しいのですぐに顔を上げて返事をする。
「わかりました。冒険者様にもご都合というものがあるでしょう。助けていただくのにこれ以上わがままを言うわけにもいきますまい。すぐに村民と話をつけてきます。」
そう言うと、村長は重そうな腰を上げて村人に話をしに行った。生き残りの半分以上は壁を挟んで反対側にいるのでここでの話は筒抜けだ。それは村長も承知なのか外へ出て行った。
「さて、こっちも状況確認だな。」
悠仁は護衛に当たって必要な作戦や物資の確認などをしに席を立ち、仲間の下へ向かった。
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――30分後
「冒険者様、大変お待たせしました。」
村の入り口――今では出口も入り口も無いが――で待っていた悠仁達の元へやってきたのは20数人の村人だった。それぞれがバックパックを背負い最低限の荷物を持っている。
「…あれ?これで全員ですか?」
悠仁は村長に尋ねる。一番初めにこの村に来たときよりも人の数が減っているように思えたからである。
「えぇ『ヴォーマへ行く村民』はこれで全部です。他の者は…。」
「…わかりました。ご自身で選ばれたのですね。」
「…はい。」
自分の生まれ育った場所を捨てきれずにその場に留まる人間は少なくない。現実世界でも大災害が起きた時、そういった行動に出てしまう人間がいる。その行動原理は分からないでもないが救助活動の大きな妨げになるので時折物議を醸すが、今回の場合は説得している時間は無い。それに村長も説得したはずだ。村長の説得に応じなかった頑固者が、ぽっと出の冒険者のいうことなど聞くはずが無い。
「それでは行きましょう。この村の現状を領主が知っていない可能性もあります。警戒をするには早くこの状況を伝えなくてはいけません。」
悠仁の言葉に村長と村民は頷く。モンスターがそういった特性を持っているか分からないが、今現在も他の村が襲われている可能性はあるのだ。そういったことを未然に防ぐには怪物の発生と、実際に襲われたことを至急報告しなくてはならない。
「では移動をするのですがまずは…。」
悠仁は村人にも協力してもらい、陣形を組んでいった。
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――村を出てから2時間後
村長の話では村から街までは徒歩でおよそ1日程だという。これが何時間のことを指しているか定かではないがそれなりの距離があると考えられる。
特に今回は士気も高くないため移動速度はゆっくりであることから1日で着くかという不安が残るが後戻りはできないため進み続けるしかない。悠仁達は村人を囲むような立ち位置にいるが、間に人が入るだけで会話というものはしにくくなるものだ。
「…」
「…」
自分の住んでいるところが襲われた後だ、和気藹々と話をする雰囲気ではないだろう。ただ黙々と歩みを進める。
列の中ほどでは、老人が時折立ち止まって後ろを振り返った。もう村は見えない。それでも振り返るのをやめないその背中に、誰も声をかけなかった。かける言葉の正解が、この世のどこにも無い気がした。
そんな調子で進んでいると…。
「グルルルルルル…。」
悠仁達が散々戦闘をした例のモンスターが現れる。数は3、悠仁達だけなら大したことはないことは分かっているのだが、今回は後ろに村人がいるため慎重に事を運ぶ必要がある。
「ひっ…、イグニスハウンドだ…。」
集団の中にいる少年が恐怖に身を縮こまらせる。目の前にいるモンスターはイグニスハウンドというらしい。
「では皆さんは後ろで…。」
武器を持てる村人に立ち位置を代わってもらい悠仁達は前へ出る。背格好が明らかに違う悠仁達が前に出てきたことでイグニスハウンドは警戒したように固まっているが、それも最初だけでしっかりと3匹で連携をとろうとしてくる。左右にゆっくりと広がって包囲しようと動いている。
(それは散々経験した。)
ここに来るまで数多くのイグニスハウンドと戦闘をしてきた。群れで行動しているものは今のように包囲をしようと動いてくる。この動きももう沢山見たので対処方法は分かっている。
「アリス、左だ。」
「はい。…光よ 我が魔力を糧に 彼の者の行く手を阻む障壁を。」
アリスは悠仁の指示で詠唱を始める。この短い言葉でもやることが理解できるのはそれ相応の経験を積んだからである。アリスは左右に広がろうとしているモンスターの、こちら側から見て左手に向かって杖を振る。
「プロテクション!」
広がろうとしていたモンスターの目の前に魔力の障壁が出現する。いきなり出現した障壁に驚いて一瞬動きが止まる個体がいる。それを見逃す程、ハンターは甘くない。
「ふっ!!」
ミーナが目にも留まらぬ速さで射掛ける。スキルを使ったことは間違いないだろう。味方すらも反応できないそのスピードでは敵は尚更動くことはできず、その眉間に矢が突き刺さる。使っている矢も以前のものより等級の高いものなので威力も上がっている。その威力を確かめるには、眉間に刺さった矢を見れば十分だ。
自分の仲間に何が起きたか分からない他の2匹はこちらをみて硬直する。そこで間髪いれずにカインがヘイトを集める。
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
盾と剣を叩き合わせ地面を踏み鳴らす。今まで使っていた咆哮ではなくこれはウォークライだ。スキルの効果なのか地面は揺れ、声が空気を通じてびりびりと伝わってくる。
その空気に圧倒された2体のイグニスハウンドはその場でカインから目を離せなくなる。ヘイトが稼げたことを確認できたらステラが手早くスクロールを取り出し、使用する。
「……エアバインド。」
スクロールがはらはらと崩れ落ちる頃にはモンスターの足は空気の蔓で地面に押さえつけられており、もう身動きが取れない。移動さえ封じてしまえば後はこちらのものである。
カインに視線を誘導された2体のイグニスハウンドの死角からミーナとフルールが接近して完璧なタイミングでナイフで首を掻き切る。完全に無防備だった2体はあっという間に息絶える。
「おぉーー!!」
その手際の良さに、村人から拍手と歓声が上がる。
「すごいすごい!あのおねーちゃん達足音も立てないで近づいてった!」
男の子が興奮気味に感想を述べてくる。やはりNPCでも男の子は戦闘が好きなのだろうか。さっきまで意気消沈していたその目に少し光が戻ったように思える。
「あれ、でもお兄ちゃん何もしてないよね?」
男の子は悠仁のほうを見て呟く。確かにメイジなのに魔法を使って戦闘には参加していないが…。
「ふふ、あのね?」
アリスが男の子の前にしゃがんで話しかける。
「悠仁さんはね、細かいところで指示を出してくれるの。さっき私が左にプロテクションを出した理由、分かる?」
「んー……分からない。」
男の子は少し悩んだ末にわからないことを伝えてくる。
「あれはね、こっちの立ち位置が悪かったからなの。」
「立ち位置?」
「そう、後ろにいるみんながね、少し左にはみ出してたの。同時に攻めてこられて危ないのは左側。それに左側にいるモンスターの大きさも大きかったよね。」
「うん、なんか強そうだった。」
「よく見てるね。そう、だからあっちを早く倒せば後が楽だし皆のことを守れるでしょ?それにこの動き方を考えたのも悠仁さんなんだよ。」
アリスは楽しそうに男の子と答えあわせをしていく。
「すごいねお兄ちゃん!」
男の子は、今度は悠仁に向かって羨望の眼差しを向けてくる。
「ま、まぁな。」
確かに考えたのは自分だが、実際には動いていないことには変わりないので少しむず痒い気分になる。褒めることはあっても褒められることには慣れていないのだ。
「そう!悠仁さんはすごいんだよ!他にもね…」
アリスは何故かとても嬉しそうに男の子と話を続ける。それを横で聞いている悠仁はいたたまれない気分になってきた。
(ただまぁ…。)
戦闘の様子を見た村人は安堵していた。いい手際で倒すことができたので「これなら自分達を守ってくれる」と理解したのだろう。
(とりあえず一安心だな。)
ドロップアイテムの回収をしているミーナとフルール、カインを待って一行はまたヴォーマへ向かって歩き出した。
イグニスハウンド(モンスター)
火山地域に生息する犬型のモンスター。カプランドに現れるワイルドウルフよりもやや大きい。色は焦げ茶で環境に適した色をしている。尻尾があり、先端が燃えている。群れで行動していることが多いが偶に逸れたり、群れを追放されている個体もいる。
爪は金属製だと思えるほどに光沢と強度がある。牙も同様である。実際に金属と同じような性質もあるため、数さえ揃えば武具として加工することもできる。




