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相談

――未開のダンジョン 第4階層 破壊された村


破壊された村の中でも辛うじて原型を留めている建物の中に入って一息つく。カプランドのバーグ邸と同じくらいの大きさだが、地下にいた人の半分近くが此処へ避難してきているため狭く思えてくる。


「ありがとうございます。挨拶が遅れてしまいましたが、私はこの村の長をしておりますタウムと申します。」


瓦礫で作ったテーブルの対面に座る老婆が悠仁達にお礼を言ってくる。ここに入る前に遺体を運んだり瓦礫の撤去を手伝ったりしたのでそれに対しての礼だろう。


「いえ、それは大丈夫です。それよりも、何があったか教えていただけますか?」


遺体の中にはしっかりとした金属製の鎧を着用したものもあった。もちろん冒険者であるカインの装備しているものと比べたら粗末なものであったが、村に住むただの男性がつけるには上等なものだ。それを装備しても尚無残に殺害されているところを見ると、放っておくわけにはいかないように思えた。


「実は…。」


老婆は事の顛末を話し出す。


「ここゴルド領は首都であるヴォーマを中心に据えて各地に村があります。我々が住んでいるここはハシルの村といいます。」


アリスが広げてくれた地図の一部を指差して場所を教えてくれる。ゴルド領の中でも最も南に位置しているようだ。


「ここ最近ヴォーマの衛兵が見回りを強化したと聞きました。実際にこの街にもやってきて注意喚起をしてくれたのですが、まさかその翌日にこんなことになるとは…。」


「その見回り強化の原因とは一体?」


悠仁は、苦虫を噛んだ様に顔を歪め、話を止めてしまった老婆に続きを促す。


「あぁ、そうでした。衛兵は『ここ最近【怪物】が出る』と言っていて…。」


「か、怪物ですか…?」


アリスが少しおびえたように杖を抱く。悠仁たちが見た怪物とはノワールやスカルオブバーミリオンのような、強敵、若しくは確実に手が出ないような相手だ。それらがここにもいるとなると…。


「はい。なんでも『エンフィールド』という名前らしいのですが、脚が鷲のような形をしていて体が獅子、尾が3本に分かれていて先が燃えているというのです。」


悠仁がここに降りてきて最初に戦ったモンスターも尾が燃えていた。それと関係があるのかと少し頭を捻るが、情報が少なく判断するのは難しかった。


「それがこの村に?」


「えぇ、まさにその通りで…。」


老婆の話によると、村の入り口で門番の悲鳴が聞こえたと思ったらその怪物がすさまじい勢いで村を駆け回り、村人を殺し回って去っていったという。この村には100人近い村人が暮らしていたが、半分以上は骨も残さず喰われたという。確かに村の規模と遺体の数、救助した村人の数ではこの村のサイズには合わない。


「あっという間の出来事でした。なるべく多くの人間を助けようとしたのですが、助かったのはこれだけで…。この子の親はこの子を助けようとして囮になって…。」


老婆に頭を撫でられている少女は犬のぬいぐるみを抱いて指をしゃぶっている。見た目は小学生程に見えるが退行現象が見られていることから相当な精神的ショックを受けたのだろう。


悠仁は少女から目を逸らした。逸らしてから、逸らした自分に気付いた。守られて死んだ親と、残された子。この世界の仕組みの上では一つの「出来事」に過ぎないのかもしれないが、目の前の指をしゃぶる小ささは、どう見ても本物だった。


「ともかくこの村はもう終わりです…。他の村に行きたいですが、怪物がどこを歩いているかも分からないこの状態では移動もままならず…。馬車も…。」


遺体の回収をしている時に村全体を回ったが家畜は全て惨殺されており、生きている動物はどこにもいなかった。馬車用の馬も惨たらしく殺されており、馬車を出すのは難しいだろう。


「なるほど…。」


悠仁は顎に手を当てて考える。2つ考えなくてはいけないことがある。

まずここは一応ダンジョンという扱いになっている。悠仁達はログハウスを探してそこに入らないと元の場所に戻れない。そのためには鍵が必要なのだが、今回は第3階層と同じようにフィールドが広すぎるため今のところどう動けばいいか見当がついていない。そして何をするにもこの村を壊滅させたエンフィールドという怪物が障害になってくるということだ。


2つ目はこのダンジョンに関連する紫ローブのことである。夢の中に紫ローブが出てきたのは悠仁だけかもしれないが、そもそも第3階層で悠仁達を襲った連中のことについてまだ落ち着いて話ができていない。この状態で動くのは少々危険が伴う可能性がある。


「…ちょっとメンバーと話してきます。」


問題点が多く、判断が難しい以上まずはメンバーとの話し合いをしなくてはいけない。そう考えた悠仁は一旦席を立つ。老婆は諦めたように悠仁の背中を見送る。


家の外では他のメンバーが村の片付けなどをして悠仁のことを待っていた。悠仁が家から出てくるのを見ると作業していた手を止めて集まってくる。


「今村長と話してきた。」


悠仁はメンバーに村の現状を説明し、話を聞き終わった後に一番最初に声を上げたのはカインだった。


「んじゃ助けるしかないだろ。」


「…そう言うと思ってたよ。」


悠仁はけして血も涙も無い人間ではない。むしろ人情に篤い側の人間ではあるが一番は自分の仲間だ。なるべく危険に晒すような真似をするのは避けたいのだが、カインは困っている人がいたら自分を犠牲にしてでも助けてしまう、そういう男だ。

今回の話も、したらしたで絶対に助けるというと思っていたから悠仁は話すのを悩んだのだが、2年間の付き合いは伊達ではない、ばっちりと予想通りの行動をしてくれる。


「皆はどうだ。まだ希望は聞いていないが、恐らく安全な場所までの護衛が内容になるだろう。」


悠仁が皆に提案をすると、特に反対意見は出なかった。


「まぁ、俺も助けたくないわけじゃないからな…。とりあえずカインの意見に反対がないならそれでいくか。」


「そういってくれると思ってたぜ!だからお前と一緒にいるんだよ!」


決定を聞いたカインは嬉しそうに肩を組んでくる。


「やめろって…、わかったから…。」


見る人が見たら勘違いされそうな光景だ。中立的な立場で話を進めていた悠仁も、カインのこういうところが好きでパーティーを組んだのだ。


「んじゃ戻って話し合いをしてくる。みんなは村の片付けを手伝ってやってくれ。」


メンバー全員は悠仁の言葉に頷いてそれぞれの仕事に戻っていった。


「ま、道案内もしてもらえるし、悪いことばかりじゃないか。」


悠仁は村長が待つ部屋へ戻ってこれからの予定を話すのだった。

ゴルド(地名)

大国ゼットフォードとコレスタニア、クイトースに挟まれる小さな領地。火山活動が活発な地域で場所によっては草木の一本も生えておらず焦土である。その為炎を用いるモンスターが多く生息しており、その過酷な環境故凶暴である。ゴルド伯が領主を務めている。火山活動で噴出してくる石には魔鉱石が多く含まれており、ゴルド領全域で魔鉱石関連産業が盛んである。


ヴォーマ(地名)

ゴルド領の首都、領地自体が大きくないため街の大きさもそれほどではない。面積はカプランドと同程度だが魔鉱石関係の研究が進んでおり、それらに対する工業も盛んである。幸か不幸かその技術は北に位置する大国同士の戦争のために活用されることが多い。

冒険者の旅にも多大な貢献をしている。

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