村
――未開のダンジョン 第4階層 ログハウスより北東へ2時間の地点
「まだかー?」
暑さでばててしまい先頭ではなく後方へ下がってしまっているカインが、カインの代わりに先頭を歩いているフルールに問いかける。その気だるそうな声にフルールは苦笑いしながら答える。
「まだよ。それよりしゃんとしてよ、カインがそんなんだと周りの皆まで疲れてくるわ。」
「そうは言ってもよぉ…。」
カインの言いたいことは分からんでもない。直射日光を遮るカインの鎧はある程度の風が抜けるようになっていて、気温が低ければ快適なのだろうが、この無風、高温の中では必然的に蒸し風呂になる。こういった状態なら悠仁が着ているようなローブのほうがまだ快適だろう。
「そんなに歩くのが大変なら私がおぶってあげようか?」
フルールがカインに向けて背中を差し出すジェスチャーをしてくる。
「…いやさすがにそれは…。…はぁ…わかったよ…。」
カインは観念したように歩みを速めて先頭へ出る。その横にフルールが並んで一緒の速さで歩き出す。
「…仲がいいわねぇ…。」
そんな2人を見てミーナが呟く。
「ミーナにだってそんな相手の一人や二人いるだろう。」
悠仁は自分の前を歩くミーナにそういうと、呆れたような目つきで振り返る。
「せんp…Yuji、それ一歩間違えればセクハラ案件ですよ。」
「嘘だろ…?こんなんでセクハラになるのかよ…。」
そんなつもりは無かったがこれだけでもセクハラになるのかと、悠仁は現代社会の恐ろしさを痛感した。
「……いいなぁ、それ。私も……。」
そう言ってステラが悠仁の隣に並んでくる。その銀白の長い髪からか、ローブからなのか、この暑い中でも爽やかに感じる香りがしてくる。
「……お隣、いい?」
「え?あ、まぁ。」
あまり女性にそういったことを言われたことがない悠仁は若干たじたじだ。ぴとりとくっついてきてこのまま行くと腕でも組んでくる勢いだ。それを見たアリスが後ろから走ってくる。
「わ、私も!横いいですか!」
「お、おう。」
凄い剣幕で言い寄られた悠仁は別に断る理由も無いので許可を出す。何故か『よしっ…』という掛け声と共に腕を取ってくる。
「…」
どう反応していいか分からない悠仁は無言になる。アリスは目をきゅっと閉じて祈るように腕にしがみついている。身長差があるので少し大変そうだったが。柔らかな胸が腕に押し付けられて女性らしさを感じている。
(HOPEってこんなところまで再現してるんだなぁ…)
「……ふぅん。」
間の抜けたことを考えている悠仁と、必死そうに腕を組んでいるアリスを見て、ステラはなんだか面白がるように目を細めている。
「何でこんな状況でいちゃついてんのよ…。」
ミーナが前後の状況を見て呆れている。確かにこんな状態で襲われでもしたら大変だがフルールが時折見せる真剣な表情を見ているとあまり心配する必要はないと感じていた悠仁は2人の好きなようにさせていた。
カインと一緒に先頭を歩くフルールはきょろきょろしながら方向を確認しているようだ。
「んー、多分あっちですね。村が無くなっていなければの話ですけど。」
フルールは自分の記憶を頼りに道案内をしている。これでフルールがいなかったら大変なことになっていた。
一行はそのままフルールの指示に従ってこの焦土を歩き続けた。
ただ――進行方向の空の低いところに、火山灰とは色の違う黒っぽい煙がひと筋、細く立ち昇っているように見えて、悠仁は何度か目を凝らした。
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――2時間後
「あ、あれですね。」
数回の戦闘を経て村を見つける。戦闘さえなければもう少し早くついたものの、敵が複数体だったため時間がかかってしまった。幸い怪我も無く勝利することができたが、この暑さと移動の疲労で悠仁達は憔悴していたため、村がまるで砂漠のオアシスのように見える。
風のない空気には、いつからか、何かが焦げたような匂いがかすかに混じっていた。
周りにモンスターの気配もないのでゆっくりと近づいていくが…。
「…なんかおかしくねぇか?」
フルールと一緒に先頭を歩いていたカインが目をこらしながら呟く。
「どこがだ?」
悠仁もそれを聞いて目を凝らすが空気中の塵のせいもあってよく見えない。
「…もしかしたら…。急ぎましょう。」
フルールは何かを発見したのかメンバーに声をかけて駆け出す。悠仁達もそれについて行く。段々と村が近づいてきてその全貌が明らかになる。
「おいおい…まじかよ…。」
村はそこまで大きくなかった。20軒ほどの家が立ち並んでいた。材質は土なのか石なのかは分からなかった。屋根は恐らく石材だろう。人もそれなりに沢山いたのだろう。しかしそれらは全て推測に過ぎない。それは何故か。
「ここ、村?」
ミーナが声を出す。そう、村「だった」ものがそこに広がっていた。家は崩れ、辺りには火が燻り、村人らしき遺体が転がっている。それを見たアリスが遺体に駆け寄るが呼吸の確認などをしてこちらを振り向き首を横に振る。
悠仁達はモンスターの気配が無いことを確認して辺りの散策を行うと20人近い村人の遺体が見つかった。体は焼け焦げ、体の一部が欠損している者もいた。
「これは、酷いな。」
「何があったんでしょう…。」
悠仁とアリスは落ちていた布を遺体にかけながら辺りを見回す。人っ子一人見えないので状況を知っている者は見つからないように思えた。
布をかける手つきが、自然と丁寧になる。ゲームの中の死体だと割り切るには、辺りに転がっている暮らしの跡――欠けた椀、焦げた寝具、小さな靴――があまりに生々しかった。
「…」
ステラが崩れた家の一つをじっと見つめている。
「どうしたの、ステラ。」
そんな様子をみたフルールがステラの傍に行く。一緒にその瓦礫となった家を見ていると…。
「何かあるわね。」
「……やっぱり、そう思う?」
2人はなにやらぼそぼそと話をした後カインを呼びつける。
「カイン!ちょっときて!」
カインは素直にフルールの傍まで行き、何か指示を受けたのかその瓦礫をどかし始める。するとその下には。
「なんだこれ。」
鉄製に見える板があった。しかしそれには取っ手がついておりつかめるようになっていた。この世界にはオーブンのようなものが存在するのでその蓋のようにも見えたが、それにしては厚みが無さ過ぎる。
「ちょっと引いてみて。」
フルールの指示に従ってそれを引くと…。
「ひっ…!」
中から恐怖におびえた声が聞こえた。
「どうなってんだこれ…。」
蓋を開けると中は防空壕のような構造になっており、それなりに広い空間が広がっていた。カインが中を覗き込むと老人や女性、子どもなど30人近くもいるのでその広い空間でも狭く見えた。その人たちの顔は煤で黒く汚れていたり、衣服を切り裂かれたのかボロボロになっていたり、奥には怪我をして息も絶え絶えな男性の姿も見えた。
「…ひとまず助けよう。」
悠仁の提案によって村人らしき人たちを地下から地上へ出すことにした。
地上に出た村人たちは、光に目を細める前に、まず村の姿を見て立ち尽くした。誰かが崩れるように膝をつき、誰かは声もなく口を覆う。悠仁たちは手を貸す以外に、かけられる言葉を持たなかった。




