状況確認
――未開のダンジョン 第4階層
「水よ 槍持たぬ我の槍となり 我らの敵を討て …アイススピア!」
いつも通りに魔法を発動する。悠仁の頭上に7本の氷の槍が出来上がるが、それぞれがそれなりに大きく、前に使ったときとの違いに悠仁自身が驚く。
(あれ?こんなに大きかったっけ?…っと、これじゃカインに言えないな。)
戦闘中に別のことを考えていると事故に繋がりかねない。思考を切り替えて目の前のモンスターを見据える。
相手が2人に増えたことで攻め辛くなったのか一向に攻撃してこない。悠仁は上手くカインの体の後ろに隠れて動作が見えないようにする。タイミングを見計らってカインに向かって指示を出す。
「左だ!」
声を聞いたカインは左にサイドステップをする。丁度跳躍を始める瞬間に杖を振り下ろす。魔法は違ったが今までカインと悠仁が行ってきた戦闘スタイルだ。息はぴったりである。
「!?」
モンスターから見れば、目の前の大男が退いたと思ったら今まで相手にしていた男が杖を振り下ろして自分のほうを向いている。しかも氷の槍が飛んでくることに対しての情報処理が追いつかなかったのか反応が一瞬遅れる。
タタッと地面を蹴る軽快な音がしたがこの魔法の到達速度はファイヤーボールのそれよりも遥かに速い。
あっという間にモンスターとの距離を詰める。それでも反応しようとするのはさすがだろう。魔法から目を逸らさずに被害を最低限にしようとジャンプをしようとする。
「経験の差だな。」
悠仁が呟く。悠仁の視線の先、モンスターの進む先には盾を構えたカインがいる。
「シールドバッシュ!」
先回りをしていたカインはシールドバッシュでモンスターを弾き飛ばす。進み先を見ていなかったモンスターは完全に無防備な状態、それよりも酷い自分から攻撃に当たりに行く状態で攻撃を食らう。ズズンという重い音はしたもののそんな状態ではカインの体勢、体重、スキルに対抗できるはずも無くモンスターは吹っ飛ばされる。
アイススピアで生成された槍はその軌道の通り追尾して地面に落ちたモンスターの体を貫く。ドドドドドという小気味良い音と共にモンスターの体は痙攣する。しばらくすると尻尾の先に灯っていた炎が弱弱しく細り、ぽっと消える。それ以上モンスターが動かないことを確認したカインが悠仁のほうへ戻ってくる。
「俺達もまだまだいけそうじゃねぇか?」
「油断してるとまた大怪我するぞ。」
「大怪我って言うか左足が少し痛むんだがもしかして意識が無いうちに攻撃されてたか?俺。」
カインが左の太ももをさすりながら訴えてくる。そこは間違いなく最後に悠仁が蹴り上げた場所だった。
「あー、そこな。んー…。ま、そんなところだ…。回復してやるからちょっと待っとけ。」
悠仁は言葉を濁して誤魔化しつつもライトヒールをかけて痛みの緩和だけはする。アリスの回復魔法まで行かないものの、痛みは無くなったようでカインは普通に歩いている。
詫びの言葉は、回復魔法に混ぜて流した。命を救うためだったとはいえ、寝ている相棒を蹴り起こした側の気まずさというものはある。カインが深く追及してこないのが、今はありがたかった。
「…んじゃとりあえずお姫様方を起こしますか…。」
カインが少し面倒くさそうに女性陣を指差す。寝ている女性を起こすことに抵抗がある気持ちは分からんでもないが、そこまで面倒くさそうにしているところを見られたら怒られそうだなと思いつつも悠仁も起こしにかかった。
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「それは…どうもありがとうございます。」
事の顛末を説明するとアリスがぺこりと悠仁とカインに向かって頭を下げる。アリスらしい振る舞いだった。ミーナやフルール、ステラなども頭を下げないものの素直にお礼を言ってくる。
「それで、ここどこなの?」
ミーナが周りを見ながら聞いてくる。とはいっても悠仁とカインはミーナよりもヴァリエスタから離れた場所に行ったことがないので一切分からない。アリスも分からないようで周りをきょろきょろし、ステラは眠たげな半眼のままゆっくりと首を巡らせている。ただフルールだけがずっと遠くの山を見つめている。
「…?おい、どうかしたか?」
カインがフルールの様子に気付いて声をかける。
「あの山の形…どこかで…。」
「え、お前見たことあるのか?ってかここに来たことあるのか!?」
「ちょっとうるさい、静かにして。」
謎なことが多くついがっついたカインにぴしゃりと一喝する。怒られたカインは夏場の植物のようにしんなりしてしまった。しばらく待っているとフルールがはっと顔を上げる。何か思いついたような動作だが、つくづくこの世界のNPCは自然な反応をすると一同は驚かされた。
「私、ここ来たことあります。」
フルールは確信に満ちた顔で悠仁達のほうを振り向く。
「それで、ここはどこなんだ?」
悠仁が尋ねる。
「ここはゴルド領ですね。あの山には登ったことがあります。」
フルールは遥か遠くに聳える山を指差して答える。火山灰の影響か、遠くのものは霞んでしまって見難いが辛うじて山の陰を見つけることができた。
「ゴルドってどのへんだ?」
「えーっとですね…。」
悠仁が場所を把握し切れてないのを見るとアリスが収納から地図を取り出す。今までアリスが持っていたものよりも質のいいものだった。
「あれ?Alice、地図新しくなってない?」
それに気がついたミーナがアリスに質問をする。
「そうなんですよ、ウェイルさんに売ってもらったんです。ただでいいって言うんですけど貴重なものなのでそういうわけにはいかないってお金は払ってきました。」
「……あー。あの人なら、言いそう。」
ウェイルの顔と性格を思い出したのか、ステラが小さく苦笑する。アリスは地図を地面に広げて位置関係を把握する。
「ここが始まりの街ヴァリエスタ。そして西に行った此処がロレット領なのでこの辺、あぁこの大きな湖に見える場所にアリーシャがあって…。ここがウェイル領なのでこの辺がカプランド、その左上のこの辺りがリアッツォですね。そしてゴルドが…。」
アリスはすすすと指を動かしてその位置を指す。
「ここですね。」
『Golud』と書かれた場所は地図の中央、その南にある小さな地域に示されていた。その中央にある首都には『Voma』と書かれている。
「随分遠くに飛ばされたな。だってここがバーゴルドンだろ?」
悠仁はヴァリエスタのあるリットリア領の北東にある島を指す。
「ええそうですね。この距離だと移動するだけで月単位の日数がかかるはずですが…。」
悠仁達はそんな距離を一瞬で飛ばされてきたらしい。しかもアリスが言っているのは休み無く動いた状態のことであってしっかりと休息やログアウトをしたらそれの何倍もの時間がかかるだろう。
「ま、フルールとアリスのおかげで場所は分かったんだが…。」
悠仁は地図から顔を上げて周りを見渡す。相変わらずの焦げ茶の世界。空気は熱く、少量の火山灰が常に飛んでいる状態だ。これが現実世界ならマスク無しでは外出できないだろう。地面に転がっている石は噴石のような形状と材質だ。草木が全然生えていないことから火山活動が活発であることが分かる。
火山灰の影響か遠くを見ることは困難で空も暗い。バーゴルドンのように常に日が出ているならいいがもしこれで夜になるなら完全な暗黒の世界になるだろう。
「ひとまず休めるところ、洞窟とかでもいいから、野営できる場所を見つけないとな…。」
先ほど悠仁とカインが戦ったモンスターはたまたま単体でレベル的に低かったからか手におえたがこれが複数引きだったら洒落になっていなかったかもしれない。
「そうですね、この辺りにはいくつか村があったと思いますので少し歩けば見つかると思いますよ。」
フルールが過去の記憶を掘り出して助言してくれるが、フルールが寝ていたのがどのくらいの期間にもよるだろう。しかし、それ以外の情報がないのも事実であるためそれを行動の指針にするしかない。
「そうか、じゃあひとまず歩いてみようか。カイン、頼んだ。」
「ま、そうだよな。任せとけ。」
カインは自分の仕事を再確認して先頭に立ちフルールが指差した山の方向へ歩き出す。一行はその後ろを少し重い足取りでついていった。
見知らぬ土地で頼れるのは、仲間の記憶と自分の足だけだった。灰の混じる風の中を、列は黙って進んでいく。誰も口にしないが、全員の頭の隅には同じものがあった――自分たちをここへ放り込んだ、正体の知れない襲撃者のことが。




