2人で
――未開のダンジョン 第4階層
ゴオォ!!
モンスターが放った炎のブレスを、慌てて避ける。避け切れなかったため、側頭部を掠めた。髪が焼ける音の後には、ヒリヒリと火傷の痛みが走る。一応、ブレスは魔法ではなく物理攻撃に入るようだ。魔法だったら直撃だっただろう。
「くそっ…俺だけじゃ…。」
相手がどの程度のレベルか分からない以上、迂闊に戦闘をしかけるのはまずい。相手のレベルは見た目では判断できないからだ。可愛い鶏のようなモンスターが強大な力を持っている、という話も無くは無い。なんとかして他のメンバーを起こしたいが、無闇に近づいてその瞬間に攻撃をされたら、巻き込んでしまう可能性がある。
(選択肢は…。)
思考を巡らせる。持てるカードの中から、最良のものを選択できるように。
まず、自分が死ぬのは論外だ。自分が死んで助かるなら選択肢の中に入れたかもしれないが、その後仲間が襲われないという保証はどこにも無い。仲間の元へ駆け寄るのも、前の理由で除外される。
(まずはレベルの確認か…)
一番確実なのが、目の前にいるモンスターの脅威度を測ることだった。自分が死ぬかもしれないが、一番現実的だった。ただし、詠唱の長いものは厳禁だ。今回は盾役がいない。隙を見せれば攻撃に移ってくるだろう。
「炎よ…」
悠仁は詠唱を始める。炎を使うモンスターにどこまで通用するのかは分からないが、一番慣れ親しんだ魔法。間違える心配もない。
「ファイヤーボール!」
杖の先で火球が形成される。なるべく多くの魔力を注ぎ込んで、威力を上げようとする。
(…あれ?)
以前と同じような魔力しか注ぎ込んでいないのに、できている火球のサイズは大きく、温度も高い。魔力を注ぎ込みすぎたかと心配しながらも、今更中断はできないので、そのまま杖をモンスターへ振り下ろす。
フォッという音がして、火球が敵に向かって飛んでいく。攻撃を受けそうになったモンスターは悠仁から見て左方向へ駆け出したが、魔法は必中、適切な対抗手段をとらない限り避けることはできない。
「グゥゥゥ…!」
モンスターの左後脚に直撃する。魔法があたった部分は煙が上がっている。元々体毛が黒いので焦げているかは分からないが、動きが鈍くなっているところを見ると、それなりのダメージが入っているのだろう。
(もしかして…弱いのか…?)
悠仁の攻撃でもそれなりのダメージを与えられるということは、同じようなレベル帯ということだ。それなら、掠ったときのダメージにも頷ける。あれが高レベルのモンスターの攻撃だったら、顔の半分がなくなっていてもおかしくなかった。
少し離れた場所に移動したモンスターは軽快に動こうとしているが、怪我がそれを許さず、見るからに動きが鈍っている。
(今なら…!)
悠仁はモンスターから目を離さないように駆け出す。急な動きをした悠仁を見て警戒するモンスターだが、悠仁が向かったのはモンスターのところではなく…。
「おい!起きろ!お前の仕事だろうが!!」
カインの元だった。少し乱暴だが、しゃがみこんで体を揺するなんていう丁寧なことをしていられる状況ではないので、頭と鎧を蹴りつける。
「うっ…」
カインの顔が痛みで歪む。
(生きてるな。よし。)
「目を覚ませ!皆が死ぬぞ!」
2回、3回と手や足、頭を蹴りつける。10数メートル先ではその光景をモンスターが見ているが、段々と距離をつめてきている。
(くそっ…、早く…!)
悠仁が最後に見た光景は、マジックシャードから出る煙。つまりこれは、魔法の効果で眠らされていることになる。効果時間はどの位か分からない。ただ、外的要因によって効果時間が短くなるのは睡眠の特性だ。
「いい加減に…。」
これ以上時間をかけるのは危険だと判断した悠仁は、最後に力を込めて。
「起きろっ!」
カインの脚を蹴りつける。魔法職とは思えない力で蹴りつけられたカインの体が、ゴロゴロと転がる。大きなカインの体を転がすほどの力なので、もしかしたら脚に大きなダメージが入っているかもしれないが、死ぬよりはマシだ。
蹴りながら、悠仁は自分の呼吸が荒くなっているのに気付いていた。焦りでも恐怖でもなく、その両方だ。仲間を蹴り起こすという乱暴の裏で、視界の端のモンスターとの距離だけは一瞬も測り間違えないようにしていた。
「いってぇええ!!」
カインが飛び起きる。悠仁に蹴られた左太ももを押さえて。様子を伺っていたモンスターは、敵が2人に増えたことで数を減らそうと思ったのか、駆け出してくる。
「あれ、ここどこだ。俺、おやっさんの工房で酒を…。」
「カイン!防御!」
悠仁の声を聞いたカインは、その体からは想像もつかない勢いで飛び上がり、悠仁の前に躍り出る。土が無いのに立ち上る砂の煙が、カインの素早さを物語っていた。
金属でできたような爪の攻撃によって、カインの盾から火花が散る。まるでノワール戦のように。
散々2人でやってきたのだ。連携が取れないはずが無い。寝ぼけ眼だったカインの目は輝き、目の前の敵を見据えていた。その横顔、姿勢は、男の悠仁ですらも格好が良いと思ってしまうほどに決まっていた。
「ど、どういうこと、これ。」
ただ、言動までは格好がつかなかった。いつも通りの言動に力が抜けてしまう。
「お前そういうところだぞ…。」
「は?何が。…!」
カインの盾でジャンプをするように、後ろ両足で攻撃をしてくる。そのまま距離を取って、こちらの様子を伺う。
「いつも通りだ。お前が防いで俺が攻撃。簡単だろ?」
それを聞いたカインは、呆けていた顔をニッと笑顔に変えて、悠仁の方を振り向く。
「そうだな、いつも通りだ。」
「来るぞ、集中しろ。」
「おうよ、任せとけ。」
久しぶりの、悠仁とカイン2人だけの戦闘が始まる。
背中合わせでも、隣に並んでも、互いの間合いは身体が覚えている。安宿で組んでから今日まで積んだものが、言葉より先に足の運びに出た。眠ったままの仲間たちを、二人の立ち位置が自然と背に庇っている。




