夢現(ゆめうつつ)
――???
(…ん?ここは…。)
悠仁が意識を取り戻す。周りは真っ暗だ。自分の顔を触る。特に異常はないように思える。真っ暗だから、何も分からないが。足を踏み鳴らしてみるも痛みはなく、音はしない。
(どうなってるんだ…?)
見えないが地面はあるようなので、歩き出す。仲間の姿は見えない。
(誰もいないな…っていうか、今まで俺は何してたんだ…?)
腕を組み、ゆっくりと思考を巡らせて記憶を手繰る。ダンジョンへ来たこと、トレントから逃げてきたこと、巨木に会ったこと、通路を抜けてログハウスを見つけたこと。
(そうだ…。)
ログハウスを見つけた後、何者かに襲われたのだ。俗に言う麻酔のようなもので体の自由を奪われて、煙で眠らされたことを思い出す。
(他のみんなは…。)
メンバーの心配をしたその時、遠くで、ふわりと軽さを感じる光が見えた。
(なんだ、あれは…。)
手がかりも無いのでその光に近づくと、光も大きくなっていく。光の中で何かが動いているようだ。フィルターがかかっているようで良く見えないので、更に近づく。
「悠仁さん!起きてください!だめっ…、いかないで…」
光の中では、アリスが何かを揺すって泣いている。
(何を言ってるんだ?俺はここに…)
「………。…!?」
アリス、そう声を出そうとしたのに、声が出なかった。それだけでも驚いたのだが、それ以上に驚いたのは。
アリスが揺すっているものは、完全に悠仁そのものだった。
(は?どういうことだ、これは何かの録画映像か?…でもこんなシーン…。)
悠仁はこんな状況を経験したことが無かった。こんな言葉をかけられたことも。
不思議に思っていると、アリスが映っていた光が霧のように散って、また辺りが暗くなる。
(なんだったんだ今のは…)
そう思った矢先。
フッ…
地面が消えるような感覚に陥る。当然、体は落下している。
(!?!?!?)
急な出来事に思考が追いつかない。その思考に至るまで3秒ほど、つまり落下から既に3秒ほどが経過している。既にかなりの距離を落下したと考えられる。体に感じる風もかなり強くなってきていることから、スピードも出ているはずだ。しかし一面真っ暗で、地面がどこにあるかすら分からず、いつ激突するかも分からない。
(ちょっとまて、しゃれにならないぞこの高さ…!!!)
先ほどのアリスが映っていた光くらいの強さの明かりが、下にぽっと現れる。それが映していたのは地面。しかも、白骨が転がっている地面だ。それを認識した数瞬後、悠仁の体が地面にぶつかるその瞬間、意識が途絶えた。
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「おわぁああああああああ!!!」
腕を顔の前にクロスさせて防御の姿勢になる。
しかし、しばらくそうしていても衝撃は何も感じない。
「……?」
恐る恐る目を開けると。
「あれ…?ここは…。って声…。」
悠仁が見たのは、少しボロボロな漆喰でできたような壁。ここには見覚えがあった。声も出せるようになっている。
「ここはウェイルさんの…。」
そう、悠仁がこの光景を見たのはウェイルの城の一室であった。周りを見渡すと、質素ながらも清潔に管理されているシーツで覆われたベッドの上だった。掛け布団も古いが、しっかりと清潔にされているものだと感じる。
後方から花の香りが漂ってくる。ラベンダーのような形の花だが、匂いは桃の花に近い。窓が開いていたため、そこから風が入ってきたのだろう。外は快晴だが、とても過ごしやすい気温のようだ。まるで春先のような。
「って、リアッツォは前からこんな感じだったか。」
初めてこの城に来た時のことを思い出して、息をつく。
コンコンコンッと、ドアが叩かれる。
「どうぞ。」
この城にいるということは、城の関係者だろう。もしかしたら、自分をここまで連れてきてくれた人かもしれない。
悠仁の声に応じるようにドアが開いて、人が入ってくる。
「!!」
入ってきたその人物は。
「どうも、久しぶりですね。」
紫のローブを着た人物だった。アリーシャで悠仁に物を売りつけた人物に、良く似ていた。
「…何をしにきた。」
刺々しく言葉を返す。杖は壁に立てかけてあり、攻撃に移れないため、言葉を考えながら話をする。
「何を、とは随分ですねぇ。私が売った本でスキル、覚えられましたよね?しかもかなり有用だったはずです。どうです?」
ローブの人物は悠仁の物言いに心外だと言わんとしているように、両手を肩まで上げてやれやれ、とアピールをしている。そのまま手を下ろして言葉を続ける。
「ちょっと寝てもらってますけどね。言いたいことがあって来ました。」
「…なんだ。その前に俺の仲間はどうなってる。」
「ちょっとちょっと、矢継ぎ早に質問をしてこないでくださいよ。お仲間は無事ですよ、すぐ会えます。もちろん無傷ですよ。それよりも…。」
紫ローブが近づいてくる。足音はしない。悠仁は距離を取ろうと布団を上げようとするが。
「くっ…!」
腕に力が入らない。まるで、起きる前の麻痺状態のようだ。悠仁が動けないことを初めから知っていたように近づいてきて、耳元で囁く。
「ん~…まだ足りないんですよねぇ…。覚悟も、努力も…。そんなんだと…。」
一呼吸置いて続ける。
「殺しちゃいますよ?あなたも、お仲間も。」
脊髄に氷水を流し込まれたかのような錯覚に陥る。こいつが言っている事は脅しでもなんでもなく事実であると、こいつの思い通りにならない場合は本当に殺されると確信できた。
「ま、そうならないのが一番ですよね!」
ぱっと悠仁から離れて声を明るく、両手を開いてこちらに向けてくる。
「ということでさっさと強くなってください。こっちも痺れを切らしかけてるんですよ。」
紫ローブは悠仁に背を向けて、ドアノブに手をかける。
「あ、そうそう。特別に一つ助言をしてあげます。」
人差し指を上げて、何かを思い出したかのようにこちらに体を向ける。
「すぐに右に転がったほうがいいですよ?」
「は?何を言って…。」
「さ、アドバイスはしましたからね。」
紫ローブは脅しの後に良くわからないことを呟いて、ドアの向こうへ消える。
「なんだったんd…!!」
視界が歪む。三徹後の眩暈のように地面が斜めになり、平衡感覚が無くなる。吐き気に襲われて吐きそうになるが、何とか押さえて後ろに倒れこむ。
(くそっ、なんなんだ…。)
悠仁は急な体調不良に対して、目を閉じた。
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「ん?あつっ…。」
急に周りの温度が上がったように感じて悠仁が目を開けると、空は赤く、遠くには噴火している火山が見える。空は暗く、厚い雲に覆われているようだった。地下の溶岩活動が盛んなのか気温は非常に高く、目を覚ました瞬間からどっと汗をかき始める。
「ガァアアアアア!!!!」
急に咆哮が聞こえて、目の前に大きな肉球つきの手が見える。爪はまるで金属で作ったかのように鋭く、簡単に自分の皮膚を切り裂く、そう感じた。爪が自分の顔に到達する一瞬の間、悠仁は思い出す。
『右に転がったほうがいいですよ。』
(これか!!)
悠仁は右に転がる。相手の攻撃は空振りした。すぐに悠仁は、問題の相手から距離を取る。
「どうなってんだ!次はどこだ!」
悠仁が周りを見渡すと…。
「カイン!アリス!ミーナ!」
他のメンバー全員が、地面に転がっているのが見えた。そして目の前には、尻尾の先が燃えていて、頭が2つある狼のようなモンスター。後ろには。
「ログハウス…。」
悠仁たちが何回も見たログハウスがあった。鍵を持っていなくて、開かなかったはずなのに。
「ここが現実ってことか…。」
悠仁が状況確認をしている間にも、モンスターは悠仁から見て時計回りに歩いて、攻撃の機会をうかがっているように見える。ローブの性能で多少物理攻撃を防ぐことはできるが、それでもローブだ。近接職の着るような鎧ほど防御力は無い。
「なんとかして皆を起こさないと…!」
悠仁は足下に転がっていた自分の杖を取り、モンスターに向かい合った。




