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視界の端

――未開のダンジョン 第3階層 岩戸の奥


「ん?なんだあれ。」


あらかた結晶を割り終わったカインが、なにかを見つける。その声につられて視線を動かすと、さらに通路があるのが発見された。決して大きいものではなかったのと、巨木で隠れていたため、ぱっと見では見つけることができなかったようだった。


「また通路か。」


悠仁が通路に近づく。悠仁の身長よりも少し高いくらいの天井。カインなら頭がぶつかってしまいそうになるはずだ。ただ通路は暗いわけではなく、今いる部屋の明るさで奥まで見えている。結晶を破壊して回ったせいで、多少暗くなってしまっているが…。


「奥に階段がありますね。まっすぐ奥に続いている階段みたいです。」


フルールが目を細めて奥を眺めている。確かに、そこまで夜目が利かなくてもうっすら見える。


「ってことはこの空間を中間地点にしてV字になっているってことですかね。」


アリスが顎に指を当てて、上を見て考える仕草をする。アリスの頭の中には、この空間の断面図が浮かんでいるのだろうか。フェリスも同じように上を眺めているが、アリスが何かを見ているわけではないので、不思議そうにきょろきょろしている。肩から頭の上に乗り直して天井を眺めるが、なにもわからないようだった。重かったのか、アリスに肩へ戻される。


「巨木がボスみたいなものだったから流石に罠はないだろ。」


こういった形のダンジョンで何回も罠にかかったカインが、警戒心ゼロで笑っている。


「そんなことしてるからトラップに引っかかったんでしょうが。」


ミーナがゴスっとカインの脇腹を小突く。それを見て、ステラが魔女帽子のつばの下で小さく笑っている。


「……でも、まぁ。たぶん、カインの言うとおり。この先に罠があるとは、思えない。……あっても、あんまり意味がないし。」


ステラもカインの意見には賛成だったようだ。他のメンバーも特に反対意見がなかったので、『まぁ同じ場所から出るよりは…』と、先に進むことにした。

一つの問題が解決したことによって一行の足取りは軽かったが、いかんせん滑り台で滑ってきた距離が長かったようで、かなりの時間を昇った。


「疲れないんだが疲れた気になるな…」


「……わかる、それ。」


カインの愚痴にステラが返す。たしかにステータス補正もあるし、何よりゲームなのでそこまで疲れないのだが、階段を長々と昇っていると息が上がってくる気がする。現に、それなりのレベルになってきたメンバーは息が上がることがなかった。


段々と上方向へ向かっていく階段は、その段数を重ねるごとに周りが暗くなってくる。途中カンテラに火を灯して、足場の確認をしながら昇っていく。


「……お、終わりみたいだ。」


悠仁が声を出す。

階段が終わり、天井がある。だがどう見ても、その天井は持ち上げられるようにできている。カインが右腕を天井に当てて力を入れると、ズズズと音を立てて開いていく。上に土があるのか、その扉の隙間から土が溢れてくる。

カインは少し開けたその隙間から外の様子を伺う。


「…森の中じゃないみたいだな。敵もいなさそうだ。」


そのまま扉を開け切る。夕暮れが眩しいが、確かに周りに確認できるモンスターはいないようだった。ミーナやフルールが何も言っていないことから、周りにモンスターがいないこともわかる。扉にトラップが仕掛けられている様子もないので、そのまま地上に出る。空に怪物が飛んでいるのが違和感だが…。


土の匂いと、乾いた風。地下を長く歩いた身体に、開けた場所というのはそれだけでご馳走だった。張り詰めていたものが、一枚だけ剥がれて落ちる。


「やっぱり外はいいな!別にあそこの空気がだめだったわけじゃないけど、外にくると空気がうまい気がするぜ。」


カインが伸びをしながら深呼吸をする。


「……あっちかな?」


アリスが空や周りを見ながら居場所の確認をしている。かなり遠くだが、入ってきたログハウスがある高原が見えているため、当初の目的地であったログハウスまでの道のりを確かめていた。


「私もあっちだと思いますね。」


フルールもそれに同意する。アリスとフルールが方向の確認をしてくれたので、カインを先頭に、その方向に向かって歩き出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――1時間後


ログハウスが見えてくる。相も変わらず、形も大きさも変わらないようだ。代わり映えのしないドアに、鍵穴。


「…鍵…?」


そう、このログハウスを開けるには鍵が必要なのだ。悠仁は、自分が鍵を取得していないことを思い出した。


「だれか、鍵を拾ったか?」


悠仁はメンバーに確認をする。皆、自分の記憶やカバンを探っているが、鍵は見つからないようだった。巨木がボスだと勝手に思い込んで、鍵が出ていると思っていた。


「ってことはあれがボスじゃないってことか?」


カインが巨木を思い出しながら鍵穴を覗いた、その時。


ドサリ。


カインが倒れた。


「…」


突然のことが起きて、メンバーのほとんどが固まってしまっている時、フルールとフェリスだけが周りの警戒をする。しかし、周りにモンスターの姿は見つからない。


「カイン!」


悠仁が倒れたカインに駆け寄る。目を見開いている。口がパクパクと動きそうになって、口から涎が流れている。生きてはいるが、自分の思い通りに行動ができないようだった。


「麻痺か!」


カインは悠仁の手を微かな力で握り、顎を引いて頷く。意識ははっきりしているようだった。


「うっ…」


フルールに倣って警戒をしていたミーナが倒れる。倒れる瞬間、首を押さえていた。


「くそっ、すまないカイン。」


悠仁は一度カインを地面に横たえてミーナの方向へ向かうと、首に小さな針が刺さっていた。


(これは…吹き矢の針か…!?)


時代劇なんかで見たことがあるような針がミーナの首に刺さっていたので抜き去るが、麻痺の効果まで抜けることはないようだ。周りの警戒をする。周りにはゴツゴツした、人の背よりも高い岩が転がっていて、どこに敵がいるかわからない。


「どこなの…」


フルールが迷っている。


(フルールが場所を探知できない…?)


フルールのパッシブスキルである気配の感知に引っかからないようで、敵の位置を把握できないようだった。


「神よ その高貴な羽衣にて我らを包み 御身に仇なs…!」


詠唱を開始したアリスが、詠唱を止めて倒れこむ。


「アリス!」


悠仁がアリスの元へ走り出す。アリスも同様の症状で、苦しそうな表情をしている。声すらも出ないようだった。


カッという音を立ててフルールが吹き矢の針を弾くが、後方からも撃たれたようで倒れこむ。背中合わせに警戒をしていたステラも、どさりと倒れ込んだ。


(くそっ!フルールの感知に引っかからないモンスターなんているのかよ!)


首元に痛みが走った瞬間、アリスを抱いている体から力が抜ける。ドサリとアリスを落としてしまった、その上に覆いかぶさるようにして倒れこむ。悠仁を最後に、全員が戦闘不能になった。


ザッザッザッ…


砂を踏む音が聞こえる。音からして複数人だが、首が動かないため確認ができない。


「もう少しですね。」


「あぁ、まだ早いな。」


「あと少しなんだけどなぁ。」


中性的な声が聞こえる。口調には特徴があるが、誰が発しているものかわからない。ただ、この状態で、悠仁達の近くで話している以上、友好的な相手ではないだろう。


「ま、少し寝てもらおうか。」


その言葉と共に、パリンと音がする。目線だけ辛うじて動かすと、そこには先ほど地下で取ってきたシュミッククリスタルそっくりのものが砕けていた。


(まさか、マジックシャード…。)


砕けた結晶の中から白い煙が流れ出す。どう見てもこちらに悪意のあるものだが、体が動かないので避けられない。流れてきた煙を吸い込んでしまうと、急な眩暈と睡魔に襲われる。


(催眠ガスか……くそっ…。)


悠仁の意識が遠のいていく。

遠のいていく意識の中で悠仁が見たものは、曰くつきのものだった。


(紫…?)

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