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分配

「いやー、やっぱり3人だと効率違うなぁ。」


盾役のカインが呟く。確かに、回復をポーションで行わなくてもいいことによって時間の短縮が為されるのと、ヘイト管理が容易になったことで、戦闘継続能力が飛躍的に上昇した。普段は3体ほどのモンスターの狩りを行って引き上げてしまうことが多かったが、今日は既に10体以上のモンスターを狩ることができている。


「確かに、Aliceがいてくれてこんなに楽になるとは思って無かった。」


「いえいえ、大した仕事もしてないです…」


「謙遜をしないでくれ。Aliceのおかげで、いつもの3倍の戦果だ。これなら少しは資金的にも余裕ができる。」


「これならもっと大物と戦っても平気そうだな!」


「子どもみたいなことを言うのはやめてくれ…。それでどれだけの冒険者が死んだか、お前も知らないわけじゃないだろ…」


「冗談冗談!」


にしし、と笑いながら馬鹿笑いを飛ばしてくる。


「さて、そろそろ帰り支度をしよう。帰りの馬車も2時間後って事で呼んじゃってるしな。」


「確かに…遅れるとこえーからな…」


「遅れてしまうと、何かあるんですか?」


きょとんとした顔でAliceが聞いてくる。


「あぁ。一回狩りが長引いたことに加えて道に迷って、呼んだ時間を大幅に過ぎたことがあってな。馬車は約束の場所で待っててくれたんだけど、追加料金を取られて大幅な赤字になったことが…」


悠仁とカインは昔を思い出し、苦々しい顔をする。


「追加料金なんて取られるんですね…」


「あれは痛かったな…。せっかく無事に帰ってきたのに赤字…」


思い出したカインが項垂れる。


「あの時は怪我もしてポーションも使ったから、更に赤字だったな…」


「けど今日は剥ぎ取りをした以外にも死体の回収もできそうだから、そこそこの収入になりそうだ。」


牙が大体50銅貨、骨も同じくらいだと換算して、全部で10銀貨弱。それに加えて状態のいい死体もあるため、全部で30銀貨ほどの収入が予想され、ポーションを使用していないので損失はほぼ無いといっても大丈夫だろう。


頭の中の算盤を弾く指が、いつになく軽い。稼ぎの皮算用がこんなに楽しいのは久しぶりだった。数字そのものより、赤字の心配をしないで済む狩りだったという事実のほうが大きい。


「久しぶりに祝杯をあげても赤字にならなそうだな。」


「俺も最後に気張るとしますか!」


そういってカインは3体の死体を担ぎ上げて歩き出す。


「わー、筋力ステータスの高い人ってすごいですねー。」


「そうだろう?」


カインが得意気にサムズアップする。


死体を3体担いだままのサムズアップは、なかなか他所では見られない画だった。Aliceが素直に感心するものだから、カインの鼻の穴はもう一段広がっている。単純なやつだが、この単純さが今日の戦果の何割かを支えているのも確かだった。


「助かるけど無理はするなよ。疲れたら1体くらいは持てるからな。」


「さんきゅーな!でも多分大丈夫だ!」


そういってずんずん前進していくカインを、悠仁とAliceは追いかける。


30分程歩くと森を抜けた。草原の中を走る道には、既に馬車が待っていた。


夕方に傾き始めた日が、草原を鈍い金色に染めている。死体を担いだ大男と、杖の魔法使いと、神官服の少女。傍から見ればずいぶん奇妙な行列だろうが、当人たちは至って上機嫌だった。疲れの質がいつもと違う。使い切った疲れではなく、まだ余りのある疲れだ。


「やべ、早く行こう!」


駆け足になるカインと一緒に、馬車まで最後の力を振り絞る。馬車に死体を積載していいことの許可を取り、ヴァリエスタの街まで運んでもらう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――ヴァリエスタ 市場通り


素材の買い取りを終えると、外はもう夕市の時間になっていた。「栄光の杯」までは、市場通りを抜けるのが近道だ。


「今日は肉が安いよー!」「空き瓶買うよー、ポーションの空き瓶!」


店じまい前の呼び込みの声が、あちこちから飛んでくる。買い取りでそこそこの銀貨を手にした直後だからか、財布の紐が緩みそうになる声ばかりだ。


「Yujiさん、あれ、なんでしょう?」


Aliceが足を止めたのは、市場通りの一番外れ。呼び込みの声が届かなくなるあたりだった。


そこだけ、店というより「荷車がそのまま座り込んだ」ような一角があった。欠けた木剣。片方だけの革手袋。色の抜けたリボン。鈴の取れた首輪。値札はどこにもない。売り物と廃品の区別がつかない山の奥で、老婆がひとり、欠けたランプを布で磨いている。


「ガラクタ屋か?こんな店あったんだな…」


「あの、これ…」


Aliceが色の抜けたリボンにそっと手を伸ばすと、老婆は顔も上げずに口を開いた。


「それは売り物じゃないよ、嬢ちゃん。……いや、売り物なんだがね。嬢ちゃんに売るもんじゃない。」


「え…えっと、おいくらか聞こうと思っただけで…」


「うちはね、値段より先に、買う理由を聞く店なんだよ。」


しわがれた、けれど妙に通る声だった。Aliceは戸惑った様子で、リボンをそっと山に戻す。


「なんだそりゃ。ガラクタに理由もへったくれもあるかよ。」


一歩引いたところから、カインが遠慮なく笑う。老婆は気を悪くした風もなく、ランプを磨く手も止めない。


「そのガラクタで泣く人間がいるうちはね、これでも商売になるのさ。」


(……いや、なってるのか?この商売は)


見たところ、客が金を払っている気配はまるでない。商売として成立しているのか正直かなり怪しい。怪しいが——値札のないガラクタの山は、なぜだか目を離しにくかった。


「ほら、Alice、行くぞ。カインが、早くしないと飲む時間が減るって顔をしてる。」


「おう!よく分かったな!」


歩き出したところで、老婆の磨く手が止まった。濁っていない方の目が、一瞬だけこちらを向いた気がした。


「……嬢ちゃん。連れの坊やは、いい顔をしてるね。売る気のない顔だ。」


「え?」


「そういうのはね、こっちから買いに行くもんなのさ。」


老婆はそれきり、またランプを磨き始めた。Aliceが困ったようにこちらを見る。


「……行こう。夕市には、変わった店もあるんだな。」


(売る気のない顔、ね。)


何のことだか、さっぱり分からなかった。分からなかったが——妙に、耳に残った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――ヴァリエスタ「栄光の杯」


「じゃあ、本日の戦果を祝って!」


「「「かんぱーーーい!!」」」


運ばれてきたハニー酒を一気に飲み干す。


「ぷはーーー!やっぱりうめぇ!」


結局、今回の狩りでの収入は最初に想定していた通り30銀貨を越えた。実際には38銀貨と60銅貨になった。最初に倒したワイルドウルフの牙が上物だったらしく、少し高値で捌けたのだ。


「さて、今回の収入の分配をする。」


「お、待ってました!」


布袋にそれぞれに向けた金額を既に入れてあるので、二人に差し出す。


「今回の収入は38銀貨と60銅貨だった。」


悠仁の説明に、ふんふん、と二人が頷きながら聞く。


「ここの食事代とパーティーの共通資金として、端数の8銀貨と60銅貨はプールするとして。俺とカインは9銀貨ずつ、Aliceは12銀貨だ。」


「えぇ!なんで私だけ多いんですか!均等に分けるっていうお話じゃ…」


驚くのも無理は無いだろう。


「恐らく、これはカインも納得するだろう。」


腕を組み、うんうんと頷いているカインとは裏腹に、Aliceはいきなりのことにわたわたしてしまっている。


「確かに平等に分配するといった。だから、このようになっている。」


Aliceはきょとんとしていて、理解ができてないようだ。確かに少し言葉足らずだった。


「平等というのは、3等分という意味じゃない。俺たちは、働きに応じて正当な対価が得られることが平等だと思っている。今回の戦果の増加は、間違いなくAliceいてこそのものだった。ポーション代が浮いたのもAliceのおかげだし、カインが活き活きと動けたのもAliceのおかげだ。つまり今回の狩りにおいて、パーティーへの貢献度が俺たち二人よりも高かった。そんなAliceの報酬が多いのは至極真っ当で、これこそ平等だと言える。」


「は、はぁ…」


Aliceは納得しているのかしていないのか、良くわからない返事を返してくる。


「俺は、報酬は皆、適正に受け取れるはずのものだと思っている。そしてこれは俺たちも納得している金額だ。だから、そのまま受け取っておいてほしい。じゃないと、もし俺たちがいい働きをしてもボーナスがもらえないしな。」


最後は少し茶化して、Aliceが受け取りやすいようにしておく。


「そういうことでしたら…。はい!ありがとうございます!」


「そうそう、それでいいんだよAliceの嬢ちゃん!またよろしく頼むぜ!」


「はい!こちらこそ!」


まだ1回しか狩りに出かけてないのに、すっかり馴染んでくれた。Aliceの加入を認めたのは間違いじゃなかったみたいだ。


布袋を受け取る時の、両手で押しいただくような仕草がおかしくて、悠仁は笑いを噛み殺した。12銀貨。金額としてはささやかなものだが、この子にとって金額の問題でないことは、その手つきだけで分かる。働きが数えられ、認められ、形になって手元へ来る。それだけのことが珍しい場所に、この子は今までいたのだ。


「でも、すまないな。俺たちのレベルだと、このくらいの収入しか得られない。Aliceのレベルなら、もっといい稼ぎになる狩りもできるだろう。」


「いえ、これでいいんです。自分の働きを認めてもらって、楽しく冒険ができて…。私は今までのどんな報酬よりも、今日のこのお金が嬉しいです!」


「お!嬉しいこといってくれるねぇ!よし!マスター!ハニー酒をもう1…いや、もう3杯!」


あいよ!とカウンターから威勢のいい声が返ってくる。


夜が更けるにつれて店は混み、あちこちの卓で今日の稼ぎ話が飛び交っている。その中に自分たちの卓の笑い声が混ざっていることが、悠仁には少しだけ新鮮だった。二人の頃の祝杯は、もっと静かで、もっと早く終わった。


「おいおい…そんなガブガブ飲んで…。またぶっ倒れるのはやめてくれよ?それでお前、次の日の仕事に遅刻したことあったじゃないか…」


「そんなこともあったっけかな?」


カインはあっけらかんと返事をする。


「そういえば、カインさんは今レベルはどのくらいなんですか?」


「んーっと、あれ、いくつだっけ?」


「しっかりしてくれ。えーっと…」


カインのプレイヤーカードを取り出す。


「カインは今12レベルだな。俺が11レベルだから、1レベル違いだ。」


「そうだったんですね。すみません、プレイヤーカードをもらったのにレベルを確認してませんでした。」


ぺこりと頭を下げてくる。礼儀正しい子だ。


「いいっていいって!さぁ、じゃんじゃん飲もう!食おう!」


「潰れたら置いていくからな。」


「大丈夫だって!」


そういって早々にジョッキを空けたカインは、運ばれてきた2杯目に口をつけるのであった。

通貨(消費アイテム)

このゲーム内で流通している通貨である。所謂ゲーム内マネー。街や国関係なく使うことができる。ムザリア銅貨100枚でミール銀貨1枚、ミール銀貨100枚でリュミス金貨1枚、リュミス金貨100枚でユサール白金貨1枚の価値がある。

換金は銅貨1枚で日本円にして10円である。よって換金額は

ムザリア銅貨=10円

ミール銀貨=1000円

リュミス金貨=100000円

ユサール白金貨=10000000円になる。

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