岩戸の奥
――未開のダンジョン 第3階層 沼地 隠された岩戸
「ぅぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
ドサッ!
一番前を行っていた悠仁が滑りきり、終わりが段差になっていたので、そこへ落下した。何かがクッションになっていたので、それほど痛みは無かった。
「……つつ、これは……?」
悠仁が手を地面にやると、枯れてかなりの時間が経っているのか、カラカラに乾燥した木の根っこが、ところ狭しと敷き詰められていた。
「木の根か……。あの高さから落ちても平気だったのは、これのおかげだな……。」
奥にある通路から漏れる光で、うっすらとだが目が利く。悠仁がいるのは、卵状になっている空間のようだった。
(みんなは……。)
悠仁が他のメンバーの心配をし始めた、その時。
「………ぁぁぁぁあああ!!!」
数m上空にある滑り台の出口から、アリスが飛び出してくる。
「あぶないっ!」
普通にここへ落ちる分には怪我をしないのだろうが、滑りながら体勢が変わってしまったのか、はたまた頭から入ったのかは定かではないが、頭を下にして落ちそうになっていたのを見て、悠仁は走り出す。
「うわっ!!」
下が根っこになっていて、しかも、はっきり見えないため足を取られてしまう。
(くそっ!受け止められない!)
しっかりと受け止める体勢になれないと思った悠仁は、自分の体をクッション代わりにしようと、アリスの着地点だと思われる場所に体を投げ出す。
「ぐふっ!」
アリスの全体重が体に掛かる。一般的な女性があの高さから落ちてきたら、かなりの衝撃があるのは当然だろう。現実世界なら肋骨が複数本折れていて、場合によっては肺に突き刺さっていてもおかしくない。幸い、装備とステータスのおかげで、衝撃を受けただけで済んだが。
「いっ……たくない……え?何で……悠仁さん!?」
痛みを感じない原因を探した結果、自分の尻に敷かれている悠仁を見つける。慌てて立ち上がり、悠仁に声をかける。
「だ、大丈夫ですか!?わ、私、重いので……。骨とか折れてませんか!?」
アリスが心配そうに声をかけてくるが、それよりも心配すべきことがある。
「あ、アリス……今すぐそこをどこう……。皆が来るとしたら……。」
そう、きっとアリスの後に続いて、他のメンバーも滑ってくるはずだ。外の状況を考えたら、多少の危険はあってもこっちの選択肢をとるしかないのだから。実際に耳を澄ませば、遠くから叫び声のようなものが聞こえてくる。
「そ、そっか。」
そう呟き、アリスは横にずれるが、悠仁は根に足がはまってしまって動けなかった。
「あ、あれ……。」
「悠仁さん!?」
悠仁の様子を見たアリスが、悠仁の手を握って引っ張る。悠仁も、はまっていない左足で踏ん張って抜けようと試みる。もう、皆が落ちてくるまでに時間が無い。
「「せーのっ!」」
息を合わせて力いっぱい抜け出そうとすると、すぽっと足が外れて、そのまま勢い良くアリスのほうへ体が跳ぶ。
「うおわっ!」
「きゃっ……!」
悠仁はそのまま、アリスに覆いかぶさるように倒れこむ。
「うぉぉおおおおおおお!!」
「「「きゃぁああああ!!」」」
悠仁の後方では、カインと他のメンバーが落ちてきた声がする。ドスンという音とガチャンという音がしているので、全員が降りてこられたようだ。
「助かったよ、あり……。」
「あわあわわわわ……。」
目の前のアリスにお礼を言おうとしたが、アリスの顔は、この暗い中でも分かるくらい真っ赤になっていた。押し倒してしまったような体勢になっていることに気がついて、悠仁が立ち上がろうとすると。
ふにゅん。
「はぇ?」
悠仁の口から、間抜けすぎる声が漏れ出す。確かに服の感触はするのだが、柔らかすぎるその感触に理解が追いつかなかった。この部屋にはこんなにやわらかいものは……、と考えを巡らせると、アリスの赤面が浮かんできて、それらが結びつく。
(もしやっ!)
すぐさま確認をすると、悠仁の右手はアリスの、一般的な女性よりも大きなその胸部を、鷲掴みするように握っているではないか。
(一昔前の漫画じゃねぇんだから!)
「す、すまない!」
悠仁は急いで手をどかす。その手には、はっきりとアリスの胸の感触が残っていた。
「い、いえ……、不可抗力って分かってますから……。」
アリスは裾の埃を払いながら立ち上がる。パンパンと払い終え、フェリスの無事を確認した後に、そのまま膝立ちになっている悠仁へ手を差し伸べる。
「あ、あぁ、ありがとう。」
悠仁はアリスの手を取り、そのまま立ち上がる。どうやら、本当に怒ってはいないようだ。
「い、今のことは内緒にしておいてくださいね……。恥ずかしいので……。」
ただ、恥ずかしがってはいるようだった。もじもじと手をすり合わせて、下を向いてしまっている。悠仁も気恥ずかしかったので後ろを向くと。
「……カインの鎧、丈夫だね……。おかげで、お尻が……。」
「ス、ステラ、大丈夫?」
「カイン?もっとこう、受け止めるとか、そういうことをしないと。」
「もう無茶苦茶だろ、その言い分……。」
自分の尻をさすっているステラに、それを心配するミーナ。よくわからない理由でカインに詰め寄っているフルールと、意気消沈しているカイン。よくわからないが、面白い絵面が広がっていた。
「皆、無事だったか。」
悠仁は無事を確認するため、アリスを連れてメンバーの元に向かった。
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「と、まぁ、ここから出ないといけないんだが……。」
一行はひとまず、携帯食料を口にしながら休憩をする。ここに来る前に、フルールと悠仁が作っていたものだ。ポップチキンの肉を挟んだサンドウィッチである。しばらく休憩していると、フルールのポーション酔いも収まってきたようだった。
地下の暗がりで齧るサンドウィッチは、地上で食べるものと同じはずなのに、妙に味が濃く感じられた。危ない目に遭った直後の飯というのはそういうものらしい。噛む音と、フェリスが小さく食む音だけが、しばらく空間を満たしていた。
「あっちしかないよなぁ……。」
悠仁が目を向けたほうを、全員で見る。最初から光が漏れ出してきていたため、通路と、その先の空間については誰もが知っていたが、何があるかまでは分かっていない。
「そうですね……。上はまだ大変なことになっていると思いますし……。確か、一度地上で活動したトレントは、しばらく地上で活動するようですよ。」
アリスが本で得た知識を話す。
「そうなると、尚更選択肢が減ってくるな……。皆、ポーションの残量は?」
悠仁は全員に、ポーションの残量について確認をする。
「私は……、等級が高いものが3本に、低めのが5本ですね。一応、ヒーリングポーションも残ってます。」
アリスが報告してくる。
「あ、そしたらヒーリングポーション、わけてくれねぇか?俺が配る用に持ってきた、このマナポーションと交換ってことで。」
カインは、他のメンバーが使う予定のマナポーションを、自分の収納に補充していたようだった。自分では魔法を使わないので、完全に配るために持ってきたのだろう。
ポーションの受け渡しは、ただの物のやりとりではなかった。誰が何本持っているかを全員が把握し、足りない所へ回す。数を数え合うその時間が、そのまま「全員で帰る」という約束の確認になっていた。
「はい、もちろん。」
このような様子で消耗品の交換を行い、次の部屋で起きるかもしれない戦闘に備える。全員が食事を終えて、準備が整ったことを確認して、悠仁は立ち上がる。
「さて、食事をしながら話したように、上に戻るのはかなり厳しい。もちろん、他に選択肢が無かったら行くしかないんだが、俺たちには一応、道が残されている。」
悠仁は、自分の背にある通路に目をやる。
「向こうに何があるかわからない。もしかしたら、上よりも大変なことになるかもしれない。けど、一人で行って帰って来れなくなってしまったら、もう誰も救えなくなってしまう。俺はそんなのは嫌だ。人によっては、一人の命で皆が救われたらそれで、とか言うのかもしれないが、俺は許さない。」
悠仁の力説に、皆が黙って聞き入る。
「だから皆に聞きたい。この先に行くべきか、上に戻るべきか。」
悠仁は皆に質問を投げかける。
「そこは『俺について来い!』っていうとこなんじゃねぇのか?ま、お前らしいって言えばそうだけどよ。俺はいいぜ。いつもお前がなんとかしてくれたからな。今回もついてくぜ。」
カインが先に行く意思を見せる。
「私も……、そうですね。上には確実な危険が待ってますけど、先には希望があるかもしれませんから。」
アリスも、明言はしなかったものの、先へ行く意思を示す。
「私はAliceが行くなら、ついていかないとね。」
「カインの面倒は、私が見ないといけませんから。」
「……私は、どっちでも。……でも、この先に何があるのか、ちょっとだけ、見たい。」
ミーナ、フルール、ステラも先へ行く意思があるようだった。それを聞いて、悠仁も覚悟を決めたように皆に向き直り、宣言する。
「よし、じゃあ、これからこの先の部屋に向かう。危険があるかもしれないから、くれぐれも気をつけて。陣形はいつものでいく。」
悠仁の指示に頷いて陣形を組み、通路を進む。部屋まではそんなに遠くなかった。30秒程して部屋にたどり着いたが、そこは想像以上の場所だった。
ポップチキンのサンドウィッチ(消費アイテム)
家畜として飼育されているポップチキンの肉を挟みこんだサンドウィッチ。料理人スキルを持っている人物が製作すると、攻撃力に少量のボーナスがかかる。挟む肉の調理方法を変えても効果は変動しないが、味は変化する。旅の定番。




