情報収集①
――未開のダンジョン 第3階層
「え?は?ダンジョンじゃないって?」
悠仁はステラの答えに思考が追いつかない。何を言ってるんだろうという思考で頭が埋め尽くされる。ダンジョンが発生してそれの攻略優先権をもらって…。考えるがその考え自体が根本的におかしいという話に繋げることができない。
「……確証が、あるわけじゃないけど。……あの飛んでる怪物、見たよね?」
「えぇ…。」
あれ1体で世界なんて滅ぼせるのではないか、そう思えてしまうほどの怪物だった。
「……あれは恐らく、バーゴルドンに生息するモンスター。名前は、知らないけど…。」
バーゴルドン、知らない名前だ。
「バーゴルドンってリットリア領の北東にある?」
アリスがステラに質問をする。アリスはそのバーゴルドンという土地を知っているようだった。
「……ん、その通り。バーゴルドンはリットリア領の北東に存在する小大陸の一部。チリのように細長い形をしているのが特徴で――前に『灰の図書館』で読んだ文献の中に、あれと同じ外観のモンスターがバーゴルドンに生息している、って記載されていたのを思い出した。」
世界と本の話になった途端、ステラの言葉から「……」が消えていく。
「でも、そのモンスターがダンジョン内に発生したって考えられるんじゃ?」
フルールもステラに質問をする。
「ううん。そもそも通常のダンジョンは、こんな広域のものは生成できないはず。一応、地下にできるはずだから。だからこれは、実際にその土地にゲートを開いている、そう考えるのが妥当。恐らく第1階層も第2階層も、どこかの地域にゲートを繋げられて、そこに運ばれた。」
なんとなく話が見えてくる。
「じゃあここはダンジョン内ではなく、バーゴルドンの地だってことか?」
「……恐らく。……何度も言うけど、確証は無い。ただ、その可能性が高いと…。」
ステラの話はこうだ。このダンジョン、今ではダンジョンなのかも不明なのだが、生成された迷宮に入ったのではなく、地上のある地点に飛ばされているということであると。そしてログハウスはそのゲートの役割をしているらしいということ。このゲームは移動手段は様々なものが存在するがワープのようなものはごく少数しか存在せず、好きな場所に飛ぶということはできない仕様になっているはずだ。
「なるほど…。話の概要は分かった。けど、そもそもあれって倒せるのか?」
悠仁はその骨のモンスターを指差してステラに尋ねる。
「……そこまでは。……ただ、モンスターではあるはずだから、何か方法はあるはず…。といっても、あれがボスとは限らないけど。」
ステラの言っていることは尤もだ。あの巨大なモンスターがボスだという保証はどこにも無い。そもそも今の悠仁たちではどうあがいても倒せないのは目に見えている。何かの仕掛けで簡単に倒せる、ということもあるかもしれないが、この世界は大抵そう簡単にことは運べない。
「とりあえず情報が不足しているな。第2階層と同じようなレベル帯だと思ったが、あんな敵がいるんじゃ少し考える必要がありそうだ。恐らく色々な大陸に関することは聖堂の図書館で調べられるはず。一度戻って調べてみよう。」
悠仁が提案をする。さすがにあそこまで巨大なモンスターが他にもいるとは思えないが、平原や森で、悠仁達を全滅させかねないモンスターが潜んでいたらとんでもないことになる。引き返せないのであれば強行突破を図るしか無いが、今回は違う。
「そうですね、私もそうしたほうがいいと思います。」
「だな、さすがにあいつの攻撃は防げそうに無い。」
アリスとカインも同意する。
「他の皆もそれでいいか?」
悠仁は残りのメンバーに確認をすると全員がそれに同意した。
「それじゃあ物資の補給も兼ねて一度戻って作戦を立てよう。」
一行は来た道を引き返してバーゴルドンについて調べることにした。
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――リアッツォ 大聖堂 図書室
『図書室ではお静かに。』
どこの学校の図書館にもあるような張り紙がしてある。騒ぐ人間はゲームの中でも騒ぐのだろうか。そんなことを考えながら悠仁は書架からバーゴルドンについての書籍を探す。
今回は物資補給班と情報収集班に分かれて進めることになった。悠仁、アリスを除いた4人は買出しに、2人は図書室で文献を漁っている。
(現実世界じゃ図書館なんてもう十数年行ってないな。)
読書が習慣化されていない人間は、何か興味を持てないと読書をするのは難しい。悠仁もHOPEの世界ではスキル習得のために図書館に足を運ぶことがあるが、現実世界ではそうはいかない。
それでも、この図書室の匂いは嫌いではなかった。古い紙と革表紙、それに熱のない魔法の灯りの明るさ。ページをめくる音が方々から聞こえて、その一つ一つの向こうに誰かの調べものの事情があるのだと思うと、少し面白い。
(そう考えると、俺ってこの世界が好きなんだよなぁ)
そんなことを思いながら探しているが何分蔵書が多すぎて探しきることができていない。漫然と本を探していると遠くから声が掛かる。
「ゆ、悠仁さん…。」
苦しそうに呟くアリスだった。振り向いて声の発生源を確認すると高い場所にある本へ手を伸ばしているアリスの姿が見えた。どうにも本に手が届かないらしい。
「あぁ、ちょっと待ってくれ。」
悠仁はアリスの背中越しに本を取る。
「わわっ…」
「ん?あぁ悪い、少し押しちゃったな。」
アリスの後ろから本を取ったため、書架にアリスの体を押し付ける形になってしまった。
「い、いえ…私は大丈夫です、はい。」
アリスはニコニコしながら答える。
(この本は…、バーゴルドンについての本か、見つかって嬉しかったんだろう。)
悠仁はアリスに本を手渡す。
「ありがとうございます。じゃあこれ、一緒に見ませんか?」
「そうしよう、それがダメならまた別の本を探せばいいしな。」
アリスから提案を受けた悠仁はアリスと一緒に椅子に座って本を広げる。本のタイトルは『バーゴルドンの生態系』だ。かなりの分厚さがあり、中を開いてみるとイラスト付きで各モンスターの生態について記録してあった。
椅子を寄せ合うと、羊皮紙の頁をめくる音が二人分になった。あの空を覆う怪物の正体も、この厚みのどこかに眠っているはずだ。長丁場になりそうな予感は、不思議と嫌ではなかった。
バーゴルドン(地名)
リットリア領の北東には小大陸がある。その小大陸の一番南に位置する縦長の土地がバーゴルドンである。本来であれば海を渡る必要があるのでそこへ行くには困難を極める。故にモンスターもレベルが高く攻撃性が強いため、モンスター同士の縄張り争いが絶えない。気候は比較的穏やかだが常に夕暮れであることから『常暮の地』と呼ばれている。




