先制攻撃
――未開のダンジョン 第2階層
「頼む…!」
悠仁の切実な声がメンバーの耳に届く。悠仁は動かなくなったモンスターに剥ぎ取り用ナイフを突き刺す。モンスターは光となって消えその場にはドロップアイテムが落下する。
「………あぁ…くそっ、だめだ。」
確認し終わった悠仁がぼやく。鍵が無いのだ、ボスがドロップするはずの鍵が。今倒した個体で既に11体目。ドロップ品だけでメンバーの収納がいっぱいになってきそうな勢いだ。辺りには今まで倒した数よりも遥かに多い角が突き出ている。
「どれがボスなんだよ…。」
次こそはという期待を裏切られた悠仁は後ろに倒れこむ。雪のおかげで痛みはなかったがこれからのことを考えると頭が痛い。
このモンスターは1体1体が大きく体力も多いため必然的に戦闘が伸びがちになる。短時間で終わらせようとすると消費する魔力が多くなりそれもそれで問題である。なるべく短時間で、だけど消耗が少ないように、と意識しながら戦うのはとても疲れるのである。しかも一度だけ、モンスターの攻撃が運悪く他の角に当たり2体同時に相手にする羽目になったことがあった。
「……見た目に、特徴、無いからね…。」
ステラも辺りを見回して呟く。地面から突き出ている角はどれも特徴が無く全て同じに見える。次の個体もボスではないのではないか、そう思うだけで動くのも嫌になる。それを抜きにしても疲労が増してきている、ポーションの残弾はまだあるが、精神的な疲労も考えると続けて戦闘ができるのは後2回が限度だろう。
「私も結構疲れましt…あっ!ちょっと!」
急に焦っているアリスに目を向けるとフェリスが肩から降りてアリスの杖の先を咥えて引っ張っている。どうやら連れて行きたいところがあるらしい。
「もう!急にどうしたの?」
アリスはしゃがんでフェリスの頭を撫でる。杖を離してアリスの指を甘噛みしてくいくいと引っ張っている。
「特に行く当てもないんだ。フェリスがどこかに連れて行きたいならいいんじゃないか?」
「そ、そうですか?」
悠仁がフェリスに許可を出してやると、アリスは立ち上がりフェリスに質問をし始める。
「わかったよ、どこに行きたいの?杖を引っ張らなくてもついて行くから。」
言葉が分かっているのか、表情やその他から判断をしているのか、フェリスはアリスがついてきてくれると分かったので杖を離して先導を開始する。
「んじゃ先導はフェリスに交代だな、俺はフェリス様についていくぜ。」
カインはフェリスの後をついていくアリスとの間に入り込む。先頭はフェリスだが、しっかりとパーティーを守る位置についていた。
「よし、じゃあいこうか。ミーナ、フルール、ステラ。」
悠仁が3人に声をかける。4人は小走りでアリスの後ろまで走り、意気揚々と先頭を歩くフェリスについて行った。
小さな背中が、雪原の先をゆく。時折立ち止まって振り返り、皆が付いてきているのを確かめてからまた歩き出す。当てが尽きた人間たちの列は、その小さな案内人の歩幅に合わせて、不思議と素直に続いた。
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――10分後
フェリスが立ち止まる。目の前には他と同じように氷の角が2本立っている。
「ここ?」
アリスがフェリスに声をかけると、アリスの杖を下に引っ張り屈むようにせがんでくる。アリスが意図を汲んで屈むと、フェリスは何食わぬ顔でアリスの肩まで駆け上り、マフラーのように首に尻尾を巻きつけて休み始める。
「もう…。」
そんなフェリスの様子を見てやや呆れ顔になるが、道標を残したのは事実だ。目の前にあるのは今まで嫌と言うほど見てきた角。どれも同じように見えるが、フェリスがここで止まったのだ。当てはない、これからも延々と同じようにモンスターを狩り続ける位なら、フェリスが連れてきたここを信用するのがよっぽど前向きだ。
「アリスが大切にしてるフェリスがつれてきたんだ。きっと何かある。そうだろ?」
悠仁はアリスに声をかける。そういわれたアリスはぱっと笑顔になる。
「そうですね、この子を信じてみましょう。」
「では、決まったところで。」
これでこのエリア最後の戦闘かもしれない。どうせ2回くらい戦闘したら、1階層上に上がって休憩するか、地上に戻らなくてはいけないんだ。それだったらと、フルールは杖を取り出し、詠唱を始める。
「猛々しく燃える火の精霊よ私の手を取り力を貸して 魔手に握られたその槍を 貴方の僕に仇為す輩に 裁きの灼熱を」
素早く詠唱を終わらせる。
「フレアジャベリン」
手に炎の槍を生成し、握りこむ。色が白い。まるで光の槍を持っているかのように見える。それだけ魔力を注ぎ込んだのだろう。
「カイン、お願い。」
「任せとけ!」
フルールがカインに声をかけるとカインは勢い良くその角を切りつける。地面が揺れる。いつもと同じように飛び出してくるその瞬間、フルールは大きく飛び跳ね、両の手で槍を持ち、角の隙間に槍を突き立てる。
「ふっ!」
タイミングは完璧だ。突き立てるその瞬間、地面から頭部が見えていた。深々と頭蓋に突き刺さった槍を手放し軽やかに後方宙返りをして着地する。地面から飛び出してきたモンスターは今までのものよりも一際大きく、目が赤く光っていた。
「ブフッ…!」
槍の爆発と共にモンスターの口から鮮血が溢れ出す。どう考えても致命傷だ。この世界のモンスターの脳がどこにあるかなんて分からないが頭部に魔力で作られた槍を深々と突き刺され、爆発までしたのだ。普通なら立っていられない。現に血を噴き出している。
「グルルルル…。」
そんなことがあったにも関わらずモンスターは倒れない。まるで肉食獣のような唸り声を上げてこちらを睨みつけている。メキメキという音と共に角が大きくなる。
「手応えはあったんですけどねぇ…。」
フルールは槍を握っていた手をグーパーグーパーと動かしているが目の前にはしっかりと4足で立っているモンスターがいる。仕方ないと再度杖を構える。
「頼むぞ、カイン。」
「ちょっとこえーけどな…。任せとけ。」
悠仁の声に応えてカインが前に出る。先制攻撃で大ダメージが入っているだろうが、それでもしっかりとした足取りで近づいてくる。その大きさは通常の個体より1.5倍ほど大きく地面を踏みしめる度に振動が伝わってくる。
「皆、『死なないように』だ。運がよければこれで最後だ。」
各々戦闘態勢を取る。
「いくぞ!」
悠仁の号令で戦闘が始まる。




