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違和感

――未開のダンジョン 第1階層


「よっと…。」


悠仁がゴブリンの体にナイフを突き刺すと体が消えアイテムがドロップする。


「えーっと…、骨に牙、何かの動物の皮に…。指輪か。他には…ん?なんだこれ。」


出現したドロップアイテムを漁っていると見慣れないものが見つかる。


「なんですか、それ。」


アリスが肩越しにドロップアイテムを覗いてくる。


「これは・・・鍵ですか?」


「あぁ、恐らく鍵だろうな。俺達の常識に当てはめれば。」


悠仁の手には木製だと思われる鍵が握られていた。アンティーク調の鍵で持ち手にはゴブリンの顔が彫られている。可愛くもなんともないのだが、凝った作りに少し感心する。


「けど、どこで使うんでしょう。」


「宝箱とか、ドアとかだとは思うけど、どこにもなかったなそんなの。」


まだ入り口から一直線にしか進んでいないので探索は全然進んでいないが、少なくともここまでには宝箱がありそうな雰囲気は無かった。


「とりあえず持っておこう。んで使える場所がきたら使えばいいさ。」


悠仁は収納に鍵をしまって立ち上がる。ゴブリンの攻撃によって周りの木が薙ぎ倒され、小さな広場のようになっている。各種魔法でその木も燃え尽き辺りには木が燃える匂いが充満している。そんな中ステラが辺りを歩きながらきょろきょろしているフルールを見つける。


「…」


「……どうしたの。落ち着きが、無いけど。」


「ええ、モンスターの気配が全部消えているみたいで…。」


「……全部?」


「そりゃどういうことだ?」


話が聞こえてきたカインも会話に参加する。


「うん、ハンターのパッシブスキルで気配を感じられるんだけど、あの大きなゴブリンを倒す前までに感じてた気配がなくなってて…。」


「逃げたんじゃねぇか?親玉が倒されたら子分は敵討ちか逃げるかどっちかだろ。」


カインの言いたいことはよくわかるがあまりに安直過ぎる。時間があるならそういったことにも目を向けていかないと痛い目を見ることがある。


「危険は無いのか?」


悠仁はフルールに尋ねる。


「多分…モンスターの気配はしないし、回りにトラップらしきものも見つからないのでしばらくはゆっくりできるんじゃないかと…。」


フルールの表情は疑いを持っているが警戒はしていないように見えた。ひとまず戦闘の疲れを癒すために野営の準備を進めることになった。


野営の支度は、いつの間にか手順が決まっていた。カインが火の場所を整え、ミーナが周囲の見張りに立ち、フルールが食材を広げる。誰が決めたわけでもないのに回っていく段取りを眺めて、悠仁は少しだけ誇らしくなった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ…うまかったな。食いすぎちまった。だけどかれぇ。」


カインは腹をさすりながら水を飲んでいる。今回はフルールが「コボルトのタンカレー」を作って全員に振舞った。多少辛目だったのは確かだが、短時間で煮たにもかかわらずルーの中には野菜の旨みが溶け出してまろやかになり、タンはコリコリしていて歯ごたえがあった。


アリスの肩に乗っていたフェリスはカレーの匂いで目を覚まし、つまみ食いをしたのだが刺激物は初めてだったらしくずっと水を飲んでいた。後でアリスがタンだけを与えていたようだった。


ダンジョンの中で湯気の立つものを囲むというのは、思いのほか効いた。腹が満ちるだけではなく、張り詰めていたものが順番に緩んでいく。誰かが作った飯を食う間だけは、ここが敵地であることを忘れていられた。


「お前が辛いのに弱かったんだろ。俺は問題なかったぞ。」


「私も平気だったわよ。」


「私はもう少し辛くても…。」


悠仁やミーナ、アリスは丁度良いくらいだった。


「ほら言ったじゃない。カインが辛いのに弱いだけなのよ。」


「へーへー、それはわるぅござんした。」


フルールにまで辛さについて言われてしまったカインは額の汗を拭いながら水を飲み続ける。

悠仁は全員が落ち着いたのを見てこれからの話をする。


「さて、さっきフルールが言っていた様に本当にモンスターはいないようだ。ここで火を使って野営をしているにも関わらず物音一つしない。よってこれからこの第1階層の探索をしていこうと思う。まさか第1階層だけで終わるとは思えないからな。ただいつギミックなどであの手のゴブリンが出てこないとも限らない。前みたいに2手に分けることなく行く、それでいいか?」


全員が頷いたのを確認する。


(さて…どうなるのか…。)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


結局その後辺りの探索を行ったが、見つかったのは一つだけ。今悠仁達の目の前にあるログハウスだ。


「これって、ここの入り口にあったやつですよね。」


アリスが全員に聞こえるように問いかける。


「あぁ、大きさも作りも全部同じだな。ただ違うのは…。」


ここに入ってくるときと違うのはそのドアに鍵穴が付けられていて、しかも今のところ開かないということだ。そうするとここから何をするかは分かる。


悠仁は収納からゴブリンの顔が彫られている鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。反時計回りに鍵を回すと「カチャン」という小気味いい音が聞こえたと思ったら、その場で鍵が塵となって崩れ去った。


「うぉ!」


急に崩れ落ちた鍵に驚きながらも、悠仁はドアに集中する。後ろを見てメンバー全員の目を見る。悠仁が頷くと、メンバー全員も頷いた。ドアノブにかける手に力をこめる。するとドアは今まで鍵が掛かっていたとは思えないほどの軽さで開く。そこにはまた何も無い床があった…、わけではなく初めから階段ができていた。


「お、今回は初めから階段が出現してるぞ。」


ただ、悠仁が感じたのは…。


「寒いな…。」


先ほどまでは湿気の多い森の中だったこともあり少し汗ばむ場面もあったが階段の下からは冷気が昇ってきている。冷気は強く、少し温まっていた体が冷え、身震いをしてしまうほどだった。ひとまず罠がないことを確認してもらうためにアリスに魔法で確認してもらったが、特に問題はなかった。


「…心の準備は?」


「大丈夫です、行けます。」


一番近くにいたアリスが杖を胸に答える。


「任せとけって。」


カインが悠仁の肩を拳で叩く。カインらしい。


「カインの面倒を見なくちゃいけませんからね。私も大丈夫です。」


フルールもカインの後ろをついていく。


「ま、引き返すって選択肢は無いわよね。」


「……そうだね。……むしろ、楽しみ。」


ミーナとステラもそれに続く。相変わらず怖いもの知らずというか、冒険が大好きなメンバーだ。


「よし、じゃあ行こう。」


カインを先頭に階段を下り始める。後ろではドアの閉まる音がしていた。

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