新パーティー、始動
「んじゃ、基本方針は今までどおりって事をAliceには伝えてあるから。」
「おう、そうか。んじゃAliceちゃん、これが俺のプレイヤーカードだ。」
「ありがとうございます。これが私のです。」
お互いの自己紹介も終わったところで、今日の計画を話し合う。
「さて、うちも3人パーティーか。想定はしてなかったけどな。っていうか、高レベルクレリックが入ってくるなんて予想すらしてなかったぜ。」
「そうだなぁ、俺たちこのまま2人でやってくつもりだったしな。どんな感じで進めていこうか悩むな。」
「あのあの!私はお二人の指示に従いますので…」
Aliceはわたわたと手を振る。
「いや、それは困る。パーティーメンバーになったってことは、作戦立案や方針にしっかりと意見を言ってもらわないと。それに高レベルプレイヤーならではの視点もあるだろうし、意見は積極的に言ってもらうからね。」
悠仁が考えていることを伝えると、Aliceはぽかんとした顔で悠仁を見ている。
「なんだ?おかしなこといったか?」
「あ、いえ。私が作戦立案に口を出すことなんて、今まで無かったので…」
「あー、そうだったのか…」
火力が出なければ、結局はモンスターを倒すことはできない。よって作戦立案の際に火力職の意見は大きく扱われることが多く、その作戦も火力職が動きやすいように作られることが多い。しかしながら、回復職の動きやすさはクランやパーティーの戦線維持や死亡リスクの低減に繋がる。普通は意見を尊重するものだが…。
「まぁうちではそんな感じだから、何か気付いたことだったり、気になったことはどんどん発言してくれ。」
「わかりました…!」
Aliceは、ふんすっと鼻息が聞こえてきそうなくらい気合を入れている。
「回復職か…。Yujiが色々考えてくれはしたが、結局回復はポーション任せだったし、攻撃の手を休めたり、回避しながらだったりで回復の度にひやひやしてたけど、回復を任せていいなら戦闘も楽になりそうだ。」
「確かにその通りだ。安全マージンも多めに取っていたけど、これなら狩る頭数を増やしたり、少しだけレベルを上げても大丈夫そうだ。Aliceはパーティーでの活動はどのくらいある?」
「ええと、10人ほどのパーティーで、そこそこですね。」
「なるほど、それは助かる。ついでに俺たちの動きを見てアドバイスなんかも頼む。」
「えぇ!?わ、わかりました。頑張ってみます…」
「Aliceの嬢ちゃんよ、そんなに気張らなくていいから、気楽にやってくれ。」
「はいぃ…」
人に頼られることがあまりなかったのか、Aliceはたじたじである。接してみた感じ結構若そうだし、あまり役割を増やすのもかえって緊張させてしまいそうだ。
10人のパーティーにいて、意見を求められたことが一度もない。口にすれば一行で終わる話だが、その一行の中にどれだけ窮屈な時間が畳まれていたのかと思うと、軽々しく相槌も打てなかった。せめてこの卓の上でだけは、この子の声に椅子を用意しておきたい。
「まぁできる範囲で頼むよ。とりあえず、今まで俺たちは…」
これまでの二人の立ち回りについてAliceに説明する。もともとヒーラーがいないことを前提とした立ち回りだったので、改善の余地は大いにあるだろう。具体的にはこうだ。基本的には奇襲を行うこと、前衛と後衛に分かれてヘイトをカインに集めて、悠仁は後ろからチマチマといった形だ。堅実といえば堅実だが、どちらかが崩れたら一気に崩壊してしまう可能性がある。物理魔法防御力共に低いメイジに攻撃が集中することがあれば大惨事に繋がるため、戦闘の長期化も困難であったので、自分たちよりも格下のモンスターを短時間で狩らなくてはいけないという制約もあった。
話しながら、Aliceが小さく頷くたびに、頭の中の紙へ書き留めるような目をしているのに気付く。人の話をこういう聞き方で聞く人間は、たいてい戦場でも同じ聞き方をする。説明のし甲斐があるというものだ。
「…なるほど、そうだったんですね。それだと、私が一瞬ヘイトを受け付けることができますね。」
Aliceからヘイト管理のアドバイスがあった。
「いやでもよAliceちゃん、いくらレベル補正があるからって攻撃が集中するのはまずいんじゃないか?近接職みたいな鎧とか防具があるわけじゃないしよ。」
もっともである。
「確かに私に攻撃が集中するのは怖いんですが、装備的にもレベル的にもまだ多少の攻撃は受けても大丈夫なのと、それだけではなく、こう、私たちが陣形を組むとしますよね…」
そういってAliceは、悠仁のカップと自分のカップとスプーンを使って三角形を作る。
カップの縁を摘む指先には迷いがなく、配置は一瞬で決まった。頭の中に戦場の見取り図が最初から入っている手つきだ。教わったものではなく、実戦で体に刻まれた類のものだろう。悠仁とカインは思わず顔を寄せて卓を覗き込む。
「魔法の使用は、その効果の大きさによってモンスターのヘイトを獲得してしまうことは、メイジのYujiさんがいることでご存知だと思いますが、それはもちろんヒーラーでも同じです。」
よくある話だ。火力職の力が足りず戦闘が長期化したときに、ヒーラーが回復魔法や補助魔法の使用をしすぎたことによってヒーラーにヘイトが集まり、陣形が崩壊してしまうことはよくある。中堅はそうでもないが、上級になりたてのパーティーや初心者のパーティーに多い。
そして陣形が崩れた時に最初に倒れるのは、たいてい一番後ろで杖を握っている人間だ。悠仁にとっては他人事ではない。他人事ではないからこそ、この子が自分の身の守り方まで含めて話を組み立てているのが分かって、少しだけ安心した。
「なのでカインさんがターゲットを漏らしてしまったモンスターをまずYujiさんに集め、ターゲット変更を行った後、私が詠唱でヘイトをこちらに集めるので、それまでにカインさんはヘイト獲得スキルを再度使用してもらう。そうすれば、私たちの中でモンスターが右往左往して多少の時間が稼げると思うんです。」
「なるほど、リスク分散と建て直しのチャンスとしてはいい案だ。もちろんこうならないようにするのが重要だが、CTの管理がな…」
「いやぁ、面目ない…。戦いに集中するとつい忘れちまう。」
「それは仕方の無いことだと思います。特に盾役の方はモンスターが正面にいますからね。防御や回避に徹しなくちゃいけない場面も多いですから…」
「Aliceちゃんは優しいねぇ。でも、そんな女の子に怪我をさせたとなってはタンクの恥よ。俺も頑張るから、後ろからどんどん喝飛ばしてくれや!」
「頑張りますぅ…」
「そうそう、そんな感じで気付いたことがあったらどんどん言ってみてくれ。みんなで、できる範囲で工夫して行こう。」
「んじゃ今日も森にいきますかね、Yujiさんよ。」
「今日からは3人だけどな。」
「っと、Aliceちゃんも忘れてないぜ、よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします!」
3人は会計を済ませ(会計は気分を良くしたカインがしてくれた)、いつもと同じように馬車でアルテミラの森に向かうことにした。
CT(機能)
クールタイムの略称。プレイヤー、NPCが使用するスキル、呪文には必ずクールタイムが設定されており、一度使用した後はクールタイム終了まで再使用ができない仕様となっている。どの役割でも自身のスキルのクールタイムを把握して使わなくてはならないが、クールタイム中に無理にスキルを使用しようとするとペナルティでクールタイムが伸びる。よって焦らずにしっかりとクールタイム管理を行わないと一気にパーティー全体が崩壊する可能性もある。スキルレベル認定試験ではこれらを正確に測定する項目が多く設定されている。
ヘイト(機能)
ヘイトは相手からの敵対度を示すものである。明確に数値化されることはあまりない。戦闘中のプレイヤーの中で、対象モンスターからのヘイトが最も高いプレイヤーに攻撃が集中する。よってタンクのスキルの中には故意的にヘイトを自分に集中させるものがある。魔法職はそのスキルの威力によってヘイトを集めてしまう。高位の呪文を使用すればその分大量のヘイトを獲得してしまうため、強力な魔法の乱発は危険である。




