立て直し
――未開のダンジョン 第1階層
「またかよっ!」
森にカインの声が響く。
ダンジョンに足を踏み入れてから既に2時間が経過したが未だに戦闘が断続的に発生している。一番初めの奇襲を受けてから合計で20分も休めている時間は無いのではないか。そう思えるほどの連戦だ。その為、進んだ距離も恐らくそんなに長くない。誰も口にはしていない(する暇が無い)がその事も相まってメンバーの疲労は溜まっていく。
攻撃をしてくるのは相変わらずゴブリンだ。奥に進むにつれて巨大な個体も出てきて苦戦を強いられる。陣形を保ちつつも攻撃を続け、なんとか数も減り、不利を悟って逃走を図ろうとしたゴブリンをミーナは見逃さない。
「逃がさないわよ!」
通常売っている矢から種類を変え、狙いを定める。弦を引き手を離すと、いつもよりも音が小さく、速度がある矢が前方に放たれる。ゴブリンの逃走速度よりも遥かに速いそれはいとも簡単に背中を捕らえ、人間の心臓がある辺りを貫く。バタリと地面に倒れるのを確認したミーナは2撃目に備えて構えていた弓の構えを解いた。
「ナイスショット、やるじゃねぇか。」
前から帰って来たカインがミーナに拳を突き出す。
「これでもあんたよりレベル高いからね。外したら恥ずかしいでしょ。」
ミーナもそれに応えて拳を合わせる。
「……フルール、大丈夫?」
「え、えぇ…。」
ステラがフルールに声をかける。近接攻撃をカインの傍で一緒に担当しているのはフルールだ。カインが攻撃を防いでいるおかげで怪我は無いのだが、初めは6体ほどだったゴブリンも今では10体を超え、目まぐるしく動く戦闘の最前線に立つフルールの疲労は少なくない。
皆の顔にも疲労が見えている。この第1階層がどこまで続いているかも分からない。そしてこのダンジョンが何階層で構成されているかも分からない。この先に出てくるモンスターも不明となるとこの先を進んでいくのは困難と考えられる。
(退却すべきか…)
悠仁は考える。長く戦闘を続けて陣形も崩さずに行動ができてきた。皆集中が続いているからか大きなミスも起きていないが、いつ破綻するか分からない。あまりにも情報が少なすぎるのだ。情報は命に関わる。それを痛いほど知っている悠仁はここでメンバーに提案をする。
「…地上に戻ろうと思っている。」
戦闘後の興奮の中でも悠仁の声は皆に届いていたようだ。皆悠仁のほうを向いて言葉の続きを待つ。
「戦闘が多すぎる。このままだとポーションも枯渇する。もしこの先に行きたいのであればもっと等級の高いポーションや、本格的な野営の道具を用意してこないとまずい。しかも収納はいっぱいだ。これ以上戦闘しても経験値は入るだろうがアイテムは持って帰れない。ここで戻ってしっかりと準備をしてからもう一度攻略をしたい。どうだ?」
今回の戦闘で得られた戦利品は多い。ゴブリンのドロップアイテムが主だが、量が段違いだ。本来ポーションが入っていた場所にもアイテムを詰め込んでいるため持ち帰ればかなりの収入になるだろう。
「俺はそれでいいと思うぜ…いい加減やすみてぇ…。」
「わ、私も少し休憩が欲しくて…。」
前線組のカインとフルールが疲労を訴えてくる。それに呼応するように周りのメンバーも賛同する。
「……スクロールも、便利なやつは、もうかなり使っちゃったし…。」
「私もちょっと見くびってたわ…。矢も少なめだったしもっと質のいい矢にしないとこの先…。」
ステラとミーナも撤退には同意のようだ。2人とも消耗品を使用するためそのストックが限界を迎えそうになっている。
「私も…等級の高いポーションは馬車に置いてきてしまいました。撤退には賛成です。戻るということを考えてもそろそろ判断をしないと限界かと思います。」
アリスが助言をしてくる。これは満場一致と言っても問題ないだろう。
「…よし、じゃあ地上に戻って一度街へ行って作戦を練り直そう。ここは発見者ということもあって優先的に攻略できるとウェイルさんから許可を貰っている。焦らなくても大丈夫だ。」
悠仁の言葉に頷く一行は地上へ戻る為、道を引き返した。
引き返すと決めた途端、身体が正直に重さを思い出した。張り詰めていた糸が緩んで、肩や腰にしまい込んでいた疲労が順番に顔を出してくる。撤退もまた判断だと頭では分かっていても、背中を向けた先の暗がりには、少しだけ悔しさが残った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――ダンジョンを出てから30分後 リアッツォ
一行は何とか大きな怪我も無く撤退をすることができた。撤退時には行きよりもモンスターが絡んでこなかった為、割と簡単に戻ってくることができた。街に着いたメンバーはすぐに宿屋へ向かい休息を取る。
「何とか帰ってこられたな…。」
悠仁が呟く。部屋は分けられているが、攻略後の作戦会議のため悠仁側の部屋に全員が集まっている。
早めのうちに今後の方針と反省を話し合わなくてはならなかった。
「さて、ダンジョン攻略で疲れていると思うが話し合いをする必要があると思う。」
返事は無かったが悠仁の言葉に耳を傾けている様子は見れば分かる。
「ウェイルさんと組合からは1週間の攻略優先権を貰っている。これを過ぎるとダンジョンは一般解放されて多くの冒険者がダンジョンへ詰め掛けるのは目に見えている。よって速やかに次の攻略への準備をして再度挑む必要があるのは皆が分かっていると思う。」
同じメンバーで長期戦闘を行っていなかったことで多くの問題点と改善点が見えてきた。
「次の攻略ではもっと距離を伸ばして行こうと思う。今回の攻略を振り返って改善点を挙げてほしい。」
悠仁がメンバーに提案をすると丁寧にアリスが手を挙げる。
「アリス、何かあったか?」
「はい。まず消耗品の管理が甘かったです。私自身ポーションの等級と個数をいつも通りにしていましたがそれでは全然足りませんでした…。値は張りますがしっかりした消耗品を準備しないとこの先大変だと思います。」
アリスの言葉に全員が頷く。ヒーリングにしてもマナにしてもポーションは多く必要であることが今回でわかった。ダンジョンの規模が分かっていなかったので仕方ない側面もあるが、それでも少しレベルとダンジョンにあっていない等級のものが多かったように感じる。
「全くもってその通りだな。他には。」
「収納をもっと性能がいいものにしたほうがいいと思うわ。あれじゃ持ってけるものも少ないし、持って帰れるものも少ないわよ。」
ミーナが収納に関しての問題点を挙げる。確かにここまで大量のモンスターを討伐したことは無かった。ドロップアイテムの数も段違いに増えたことで、収納は行きだけで限界に達しそうになっていた。
「確かに収納の性能を上げる必要は感じたな。折角討伐したモンスターのドロップ品を持ち帰れないんじゃ利益が半減だ。」
「あと…。食材も用意したほうがいいと…。」
フルールが食事に関しての提案をしてくる。
「なるほど食事か…。ダンジョン攻略での食事に関しては考えてなかったな…。以前にダンジョン内で食べたのもたまたまだったし、フルールも料理人スキルを取ったって聞いたけど本当なのか?」
引越しまでの間に取ったと聞いていたが確認はしていなかった。
「はい、今レベル5になりました。」
「そうすると俺と同じくらいだから料理は分担できそうだな。」
料理人スキルは悠仁と同じ5。使える食材はあまり変わりがない為無理に種類を増やさなくてもよさそうだった。ポーションで代用できる効果もあるのだが、安価なのと、疲れている時に食事が取れるというのは大きい。
「その件も考えたほうがよさそうだな。レベル的にはどうだった。俺とカインの適性レベルよりは高めに感じたが…。」
アリーシャを出てからあまり日が経っていない。ノワール戦で多少レベルが上がったもののまだ悠仁とカインにはレベルが高い。
「特に問題はなかったわ。同じレベル帯くらいに感じたけど。」
ミーナの発言に対して4人が同意する。やはりレベル差があるのは悠仁とカインのみであるようだ。
「俺はまぁイザベラさんの装備があるから大丈夫だけどカインは…。」
「俺も問題ないぜ、量さえ気にしなければ歯ごたえがあっていいし、何よりヒーラーが優秀だからな、不自由してないぜ。」
カインはアリスにウィンクをする。
「それなら向こう1週間はあのダンジョンの攻略でよさそうだな。じゃあ一つ一つ問題を片付けていこうか…。」
一行は上げられた問題に対して急ぎ改善を進めていくのだった。
会議が終わる頃には、疲れの色は変わらないのに部屋の空気だけが軽くなっていた。課題を数え上げるという作業は、やってみれば不思議と気持ちを前に向ける。逃げ帰ってきたのではなく、次に勝つために帰ってきた――そういう顔に、皆がなっていた。
ゴブリン(モンスター)
ダンジョンや一部の森エリアに生息するモンスター。背丈は様々で大きいものほど凶暴で戦闘力があるとされている。棍棒などの原始的な武器を使用する個体が多いが、経験を重ねていくごとに、倒した冒険者から奪った武器を使用したりするため、中には魔法や剣を使用する個体もいる。集団で行動しているため群れの中で最も強い個体がその集団を統率していることが多い。
ダンジョン攻略優先権 (システム)
各地に発生するダンジョンを一番初めに発見したと組合、並びに領主に報告した者 (団体)は10日間、そのダンジョンを優先的に攻略できる権利を与えられる。権利がある間は権利者の許可が無い限りダンジョンに進入することはできない。期間満了後は自由に攻略することが可能になる。




