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未開のダンジョン

――リアッツォ北 北の森


リアッツォから馬車で20分程度北に行ったところに森がある。そんなに大きくない森で、名前もついていない。

一行はミーナが住人から聞いた情報を元に、森の中へ入ってしばらく進んだ。


森は明るく、下草は膝に届かない程度で歩きやすかった。鳥の声がして、木々の間を風が通る。どこにでもある、名前がつかないのも頷ける森だ。だからこそ、この先にあるという「昨日までなかった建物」の不釣り合いさが際立っていた。

少し開けたところに見えてきたのは、噂どおりの小さなログハウスだった。


「本当にあったわね。」


ハンターのミーナが先頭だったので、すぐに気付く。


「おお、…ホントにちいせぇな…。」


次に気がつくのは盾役のカインだ。


悠仁も続いてログハウスを確認したが、確かに小さい。キャンプ場などで貸し出しているキャビンなんかの半分程度しかない。


「あれが、ダンジョンなのか?」


「突然何も無いところに出現しているのでダンジョンの可能性が高いですね。後は迷宮があったりモンスターが沸いたりしていればダンジョンと定義できると思います。」


悠仁の呟きに、アリスが説明を入れる。


「ま、遠目から見ていても何も分からないな。フルール、モンスターの気配は?」


「今のところ無いですね。少なくとも私が感じ取れる場所には。」


ログハウスまで10メートル程。この距離でフルールがモンスターの気配に気付かないわけが無い。


「それなら大丈夫そうだな。カイン、様子を見てきてくれ。俺達は後ろで戦闘の態勢を整えておく。」


「おう、分かった。」


「……カイン。これ、渡しておく。」


ステラがカインにスクロールを手渡す。


「これは?」


「……フォトンライトのスクロール。何かあったら、これを開いて魔法名を唱えれば、すぐ発動する。……目くらましになるから、緊急の時は、これで逃げて。」


「なるほど、そりゃ助かるぜ。」


カインはポーションを差し込んであるベルトと体の隙間にスクロールを捻じ込んで、前を向く。


「んじゃ行ってくる。」


カインは堂々とした足取りでログハウスに向かう。ミーナは遠目からだが、トラップが無いか凝視しているようだ。


ギギィ…、という音を鳴らしながらカインはドアを開ける。


「……」


「どうだ?」


反応がないカインに、悠仁が言葉を投げる。


「あぁ、本当に何も無いな。大きさも外から見たものとそんなに変わらない。」


カインの言葉を聞いて安心した一行は、草むらから出てカインの元へ向かう。カインがドアの場所に立っているので、隙間から中を見ると確かに何も無い。


「ちょっと待ってくださいね。」


アリスは背負っていた杖を取り出して、中に入ろうとしていたカインを制す。


「私達を陥れるその悪意を 白日の下に晒し 私に示せ」


目を瞑ったアリスが詠唱を終えると、杖で地面を叩く。


「ディテクトトラップ」


魔法を発動すると、杖を中心に水面に広がる波紋のように白い光が広がっていく。アリスは目を開けて、入り口から見て右奥の床を指差す。


「あそこに何かの痕跡を感じます。」


アリスが指差した場所を見ても、他の床と何も変わらないように見える。


「ちょっと待っててくださいね。」


アリスは魔法で感じ取った場所へ歩いていき、地面をじっと見つめている。


「皆さん一応ここから出ていてもらってもいいですか?」


アリスが自分以外部屋を出るように指示を出してくる。反対する理由も無いので、皆ログハウスの入り口まで引き上げて中の様子を伺う。


「えーっと…ふんふん、なるほど…。」


アリスは四つん這いになりながら、ログハウスの中をうろうろしている。そしてもう一度ディテクトトラップを発動してから、元の右奥へ戻る。恐らく罠を感知する魔法なのだろうが、使っている本人にしか分からないようで、傍から見ていると何をしているか一切分からない。


入り口に集まった一同は、それを黙って見守っている。ミーナが何か言いたそうに口を開けては閉じ、カインは腕を組んだまま眉を寄せている。専門家の仕事に口を出さない――それがいつの間にか、このクランの流儀になっていた。


「……えいっ!」


アリスは何かを確信したように、杖の先端で一番初めに指摘した位置をゴンッと押した。

すると…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


石材同士が擦れあう様な音を出しながら、ログハウス中央の床が階段状に変形していく。


「「「「「おぉー…」」」」」


何も無いと思われていた部屋にある仕掛けを看破したアリスの行動に、皆感嘆の声を上げる。


「凄いなアリス。」


「えへへ、便利な魔法なんですけどこのくらいの狭い空間でしか使えないので使い方が限られるんですよね。」


それでも悠仁に褒められたアリスは嬉しそうだ。


「さて…」


悠仁がログハウスに足を踏み入れ、階段の前に立つ。


「…準備はいいか?」


「おうよ!しばらく戦闘してなかったからこちとら腕が鈍っちまいそうだったぜ!」


カインが腕を回して、運動不足をアピールする。


「ちょっとカイン、危ないよ。」


腕を振り回していたカインを、フルールがたしなめる。


「お、おぉ…すまねぇ。」


カインが素直に謝ると、フルールは満足げににこりと笑った。ただ、皆も同じ気持ちだったのか、落ち着きのない表情と仕草をしている。


「よし、じゃあ行こうか。じゃあカイン、毎度のことで悪いが頼むぞ。」


「おう、任された。」


一行はカインを先頭に、まだ誰も踏み入れたことの無い階段を降り始めた。

ディテクトトラップ(魔法)

光属性の3小節魔法。付近に施されたトラップを感知することができる魔法。消費魔力がやや多く、範囲を広げるとかなりの消費量になるので場所が限定されている時以外は使いにくい。しかしトラップを事前に発見することができるため未踏の地では消費魔力を度外視して使い続けなくてはならない場合がある。あくまで『感知』なので本人しかその情報を得ることができない。

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