一緒に
――リアッツォ 中央広場
悠仁の頬が、意識の外からつつかれる。
「…アリスか。」
アリスは満面の笑みで、とても嬉しそうだった。
「悠仁さん悠仁さん!私のプレイヤーカードを見てください!」
「プレイヤーカード?」
レベルでも上がったのだろうか。そう思いながら、悠仁はアリスのプレイヤーカードを収納から取り出して詳細を見る。
「えっと、どれd…」
プレイヤーカードには大きく『カーディナルLv1』と記載されていた。
「ア、アリス…まさか…。」
「えへへ、受かっちゃいました。」
アリスは気恥ずかしそうに伝えてくる。
「凄いじゃないか!カーディナルなんて!クレリックの上位職でも一番難しい職業じゃないか!」
悠仁は疲れを忘れるかの様に立ち上がる。
カーディナル。それはクレリックなら誰しもが憧れる職業である。
神の使いに最も近い存在と言われ、その力を完全に御し、行使できる者は神の御業に等しき力を発揮するといわれている。努力をすればなれるものではないらしく、その試験内容、合格基準はどこにも明らかにされていない為、「運営が贔屓しているのでは」という噂まで立つ始末だ。
他の上位職がカーディナルになれなかった人間の集まり、という訳ではないが、そういった人もいるのは間違いない。
「私も受かるなんて思っていなくて…。」
そういうアリスは、杖を両手で持ってもじもじしている。そして少し上目遣いに悠仁を見上げる。
(…?あぁ、そうか。)
悠仁はアリスの頭に、ぽんと手を置く。
「頑張ったな。」
「わ、私はそんなに頑張ったわけじゃないんですけど…、その、ありがとうございます…。」
悠仁がそのまま頭を撫でてやると、アリスはされるがままになっている。アリスがフェリスの頭を撫でる時のように。
「そ、それで悠仁さんは今から何をしようとしてたんですか?」
「ん?あぁ、これから組合に行こうと思っててな。俺達のクランが受けられて、レベル上げのできる様な依頼が出てないかって。」
「そうだったんですね。それなら私も一緒に行っていいですか?」
アリスが同伴の提案をしてくる。
「あぁもちろん。実を言うと疲れてて一人で回るのを考えただけで気が滅入っていたところなんだ。」
「それでしたら尚更私と一緒に行きましょう。これでもサブマスターなんですよ!」
アリスは胸を張る。
「あぁ、カーディナルになった頼もしいサブマスターだな。じゃあよろしく頼むよ。」
「はい、お任せください。」
アリスの笑顔を見ていると、悠仁の感じていた疲れも少し和らいでいくようだった。
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――リアッツォ 冒険者統括組合
「めぼしい依頼はなかったな…。」
「そうですねぇ…こればっかりは需要がないとマッチしませんからね。」
悠仁とアリスは、組合にあるクラン向け、パーティー向けそれぞれの依頼掲示板を見たが、めぼしい依頼はなく、どれも素材収集のようなものばかりだった。
「毎日見に来ればいい依頼も出るだろう。別に今日明日にここを発つわけじゃないしな。」
「そうですね、また明日も来ましょう。…それでこの後もまだ何か予定が?」
辺りはすっかり日が落ちて、魔法による街灯が優しく辺りを照らしている。
「あー、何かあったような…。……あっそうだ。ローブの修繕を頼んでたんだ。夜には直るって事で預けてきたんだよ。」
「そうなんですか。じゃあ行きましょう。場所は分からないのでついてきますね。」
「あぁ、エスコートできるように頑張るよ。」
悠仁とアリスは、並んで防具屋へと向かった。
夜のリアッツォは昼と顔つきが違った。街灯の明かりが石畳に等間隔の輪を落とし、仕事上がりの職人たちが酒場の前で笑い合っている。並んで歩く速さは、どちらからともなく、ゆっくりになっていた。
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――防具屋「鉄壁」
「いらっしゃい…ってあぁ、お客さん。」
「どうも。」
受付カウンターには、昼間に対応してくれた店員が座っていた。
「女連れとは、隅に置けないねぇ。」
「そんなんじゃないですよ。それで、あれ、できてますか?」
「おうよ!ちょっと待ってな。」
店員は奥に行ってすぐに戻ってきた。その手には、男性の性格から想像もつかないくらい綺麗に畳んであるローブが乗せられていた。
「どうだい?」
悠仁は手渡されたローブを受け取り、袖を通す。
「おぉ…これは…。」
いい意味で感覚が鋭くなった気がする。外界の魔力の情報が、体に流れ込んでくるかのようだった。肌触りもよく通気性も良い。解れていた場所はもう見る影も無く、まるで新品のローブを纏っているかのような感覚に陥る。
袖口に走る金の線を、悠仁は指でなぞった。ドラゴンの髭に、エルフの手によるものだという特殊な編み。自分では選べないような来歴の品が、いつの間にか自分の身体の形を覚えている。道具と一緒に旅をするというのは、こういうことなのかもしれない。
「はい、何も問題はありません。新品かと思いましたよ。」
「だろう?久しぶりの大物だったからよ、気合入っちまったぜ!」
店員の男性は力こぶを見せてくる。残念ながら細腕なので筋肉は見えないが…。
「よく似合ってますよ悠仁さん。」
「あぁ、ありがとう。」
アリスが小さく手を叩いて、賞賛の言葉を贈る。
「んじゃお代だが、最初に言ってた金貨30枚で大丈夫だった。他に問題のあるところも無かったしな。」
「ありがとうございます。ではこれが代金です。」
「どれどれ……おう、確かに。また何かあったら来てくれよな!」
「はい、またお願いしますよ。」
悠仁が店を出る。後ろでアリスが、ぺこりと店員にお辞儀をしていた。
「さて、じゃあアリス。」
「…?はい。」
「どこか行きたい店は無いか?」
悠仁がアリスに提案をする。
「えーと…。ポーションとかは買いましたし、防具も特に不調はないです。杖もまだカーディナルに何があうか分かりませんから…。」
「あー…そうじゃなくてだな…。」
悠仁は後頭部をぽりぽりと掻く。
「言葉が足りなかったな。」
「…?」
アリスは首を傾げる。
「アリスのカーディナル合格祝いにどこかで夕食でも、と思ったんだ。」
少し照れくさそうに、アリスに告げる。
アリスはきょとんとした顔から一気に笑顔になり、瞳をキラキラと輝かせる。街灯が照らす緑の瞳が、悠仁にはまるで宝石のように見えた。
「本当ですか!?えと、えと!じゃあ!」
「落ち着け落ち着け、大丈夫だ。別に予定があるわけじゃないから。」
「は、はいぃ…」
急にテンションが上がったのを宥められて、アリスは赤面してしまう。
「…時間はあるんだ、一緒に回りながら店を探そうか。」
「…はい!」
歩き出す悠仁の横に、アリスがちょこんと並ぶ。そこが定位置のように。
「そういえば広場にカレーが美味しいって店が…。」
「どうせならもう少しおしゃれなものが…。」
笑顔の2人は、和やかなムードのまま人混みへと消えていった。




