ヒーラーの決意②
――大聖堂 上級職転職試験会場
「お待ちしておりました。さて…」
アリスがポータルを抜けると、待っていたのはいつもの従者服を着た人物ではなく、司教服を着た老人であった。場所もキリスト教系の教会らしき場所である。
「私はどうすれば…?」
場所が場所だけに、やや荘厳な雰囲気がアリスを包む。
石造りの空気はひんやりとして、香のような匂いがかすかに漂っている。天井は見上げるほど高く、自分の足音がやけに大きく聞こえた。ここが試験会場なのだと思うと、アリスは無意識に背筋を伸ばしていた。
「…こちらへ。」
司教服の男性は、アリスについてくるように促した。建物内部にはアリスの足音と、司教の持っているメイスの音が響いている。2人は身廊を進み、祭壇の手前で立ち止まる。
「そこで跪いてください。」
祭壇に上がる段差の手前で跪くように指示されたアリスは、言うとおりに膝立ちの状態になる。
司教は一段上に上がり、アリスを見下ろす。
「どんな方法でもいい。祈ってください。」
急に祈るように促される。戸惑いながらも、アリスは両手を組み、頭を下げて祈る体勢になる。
「女神サラに祈りを。内容は何でもいい。意思表示でもいいし頼みたいことでもいい。なんでも。」
アリスは目を瞑る。
(私が祈りたいこと。)
考える。アリスは、自分が何をしたいのか。
(皆を守れたら…。あの人の笑顔が見られたら…。)
司教はメイスの頭部を、アリスの肩に当てようとする。
「フーッ!」
危険を察知したのか、フェリスが司教に威嚇をする。
「おぉ、小さきナイトよ大丈夫だ、私は彼女を傷つけようとしているのではない。」
フェリスが威嚇していることに気がついたアリスは、手を解きフェリスを抱き上げて膝の上に乗せる。
「大丈夫、ありがとう。ここで休んでて。」
「…。」
フェリスは威嚇をやめたが、司教から目を逸らさない。
「随分と愛されているようだね。」
初めて司教からプライベートな発言が出る。
「私がいなくなるとおやつがもらえないかもしれませんからね。」
アリスは冗談で返す。
「それは困りますね。…ではもう一度。」
その促しに乗り、アリスは再度祈祷の体勢になる。目を瞑り、祈っているアリスの肩を、司教が左、右とメイスの頭部で叩く。
「………。」
「………。」
静寂が流れる。どれくらいの時間が経ったのだろうか。静かにしていると、その時間は長くも短くも感じてしまうものである。幾ばくかの時間が経った後、その静寂を破ったのは司教だった。
「よろしい、あなたをカーディナルの資格ありと認めます。」
「……へ?」
目を瞑っているアリスに聞かされたのは、衝撃の合格発表だった。
「え、でも私、何も。…どうして…?」
「本試験の選考基準についてはお答えしかねます。では、ポータルにてお帰りください。あなたはここを出た瞬間からカーディナルの職を持っており、聖堂でメイン職業に設定をしたら晴れてカーディナルとしての活動が出来ます。」
「は、はぁ…」
静寂の間にどのような選考があったのかは、教えてもらえないようだった。だが受かったことには変わりないので、アリスは言われるがままにポータルに入り、聖堂へと戻った。
歩きながらも、まだ実感が湧かなかった。祈っただけだ。何かを見せたわけでも、何かを答えたわけでもない。合格という言葉だけが手の中にあって、その軽さが、かえって落ち着かなかった。
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――リアッツォ 大聖堂 受付
「あの、すみません。」
「あら、Aliceさん。どうでしたか?」
受付嬢は笑顔で試験結果を聞いてくる。まるで結果を知っているかのように。
「ええ、なんとか。よくわかりませんけど受かっていました。」
アリス自身も、何で受かったのか何が起きていたのかわからないまま試験が終わった。
(確かにあの様子だったら試験内容が広まったり対策が出たりっていうのは無理だなぁ…。)
「それはおめでとうございます。今すぐにメイン職業として設定されますか?」
「はい、お願いします。」
「かしこまりました。では再度プレイヤーカードをお預かりします。」
アリスは収納からプレイヤーカードを取り出して、受付嬢に手渡す。受け取った受付嬢は、後ろの作業台で何か作業を行いプレイヤーカードを返却する。
「大変お待たせしました。ご確認ください。」
アリスは自分のプレイヤーカードに記載されている職業欄に目を通す。そこには。
カーディナルLv1
クレリックLv33
と記載されていた。
「…ありがとうございます。」
「はい、おめでとうございます。尚同系列の職業なので装備はそのままでも構いません。他に知りたいことがありましたらここでお問い合わせするか、図書室にて調べられるといいと思いますよ。」
「はい、ありがとうございます。それでは…。」
アリスは早々に、足早に聖堂から出る。何故かというと。
「…すぅー。」
深く息を吸い込む。
「…ぃやったぁーーー!!!」
アリスはプレイヤーカード片手に飛び跳ねる。喜びを抑え切れなかったのだ。
「わぁ!本当に書いてある。私がカーディナル?本当に?夢じゃないよね?…あ、そうだ。」
耳の上につけていた羽根を、収納にしまいこむ。
「きっとレイナが力を貸してくれたんだなぁ。」
フェリスがアリスの頬をぺろりと舐める。
「うんうん、フェリスも助けてくれたよね、ありがとう。」
アリスはフェリスの頭をぐりぐりと撫でる。
(そうと決まれば…)
アリスは彼のプレイヤーカードを取り出し、現在位置の確認をする。彼は商業区から出て、中央広場に向かっているようだった。アリスは走り出す。大聖堂から中央広場まではほんの少しだった。
早く聞いてもらいたい、あの人に。誰よりも早く報告をしたい。きっと褒めてくれる。またあの大きな手で私を撫でてくれる。
中央広場に着いたアリスは辺りを見回す。
(あっ…)
何故か今日は黒いローブではなかったが、見間違わなかった。その茶色のローブは、初めて彼に会った時に着ていた物なのだから。彼はどっしりとベンチに座り込んだ。疲れている様子で、こちらには気がついていない。
アリスは背後から近づいて、彼の頬を人差し指でつんと押した。




