マスターの憂鬱
――リアッツォ 領主の住まう城
「さてと…。他にやることは…。」
悠仁はウェイルに貸してもらっている部屋で、開いていた地図を閉じる。
「馬車の改修依頼は出しておいたし、皆との連絡もしてる。荷物の確認も問題無し。付近の地図も頭に叩き込んだ。生態系も覚えたしその辺は大丈夫だ。……あー、ポーション関係が足りなかったんだ…。買いに行かないと…。あーくっそ、そうだった…。」
クランマスターになってから管理することが多くなる。今までも何かとパーティーの諸項目の管理をしていたのだが時間が出来たのと、役職がついたことで目に付くようになった。
不思議なもので、役職というのは名前がつくだけで見える景色を変える。今までは「気付いた者がやること」だった雑事が、全部「自分の仕事」の顔をして並んでいる。会社で係を任された時と同じだと思い、ゲームの中でまで、と苦笑が漏れた。
(これも中間管理職の職業病というやつか…?)
なるべく安全に旅が出来るように配慮する、そのことばかりを考える毎日だ。
やることはまだ沢山ある。自身のローブの修繕やクラン依頼の確認。通常パーティー向けの依頼の確認もまだ行っていない。商会に行って行商人とのコネクションを作ることもまだやっていなかった。
(やることが全然終わらん…。)
先のことを考えていても仕方がない。そう割りきりできることから進めていくのだった。
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――商業区 防具屋『鉄壁』
「すみません、このローブの修繕をお願いしたいのですが…。」
悠仁は着ているローブを指差し店員らしき男性に声をかける。
「ん?あぁ、大丈夫だよ。どれ、見せてみて…。あーお客さん申し訳ないね。今ここに修繕に使うドラゴンの髭を切らしてて引き受けられないよ。こっちのボロボロの場所は特殊な編み方をしてるな…、きっとエルフの手で作られたもんだろうけどこのくらいなら大丈夫なんだが…。」
「えっと、それでしたら…。」
悠仁は収納からウェイルからもらったドラゴンの髭を取り出す。
「おー、やるねぇお客さん。これなら修繕できるよ。ついでにこのドラゴンの髭、一部売ってくれないかい?中々出回らないもんでね、入荷するのも大変なんだ、もちろん修繕費から引かせてもらうからさ。」
さすがに高位モンスターのドロップ品は入荷も難しいようだ。
「こちらとしても予備が欲しいので全部は無理ですが少しだけなら…。」
「それで問題ないさ!そもそもドラゴンの髭で作られた部位なんてそうそう壊れないからね。むしろお客さんのローブが何でそんなにボロボロなのかが気になるよ。ま、聞きはしないけどね。」
店員の男性はなんとも軽い感じの対応だった。
「それで、修繕にはいくら位かかりそうですか?」
クランの財布を預かる身としてはそこが一番気になる。
「んー、そうだねぇ…。ネックな素材は持ってきてくれてるし、一部こっちに譲ってくれるって言うんだから…。布の在庫もあるし…、概算でいいかい?」
「ええ、もちろん。」
実際に作業を始めないとわからないこともあるだろう。
「ふむ…。それだったら金貨30枚で引き受けよう。ドラゴンの髭がなかったら大変なことになってたね。はっはっは!」
店員の男性は笑いながら話す。
「なるほど、わかりました。ではそれでお願いします。」
(半分自分で出して半分は共同資金からでいいか…。)
仲間には全額報告しろと言っているが自分は何とか自腹を切ろうとしてしまうのも管理職ならではなのだろうか。
「ほいよ。ドラゴンの髭は加工に少し時間が掛かるからできるのは…そうだな。今日の夜になるけどいいかい?」
「むしろ早いくらいです。今日は特に使う予定が無いのでそれでお願いします。」
「よし分かった。じゃあこれはしっかり責任持って修繕しておくぜ。夜にはまるで新品みたいになってるだろうさ。」
「楽しみにしています。」
悠仁はローブを預けて店員に軽く会釈をして店を出る。
「さてと…次は、ここからなら商会の方が近いな。」
城を出る前に叩き込んだ地図の内容を思い出して足を商会へ向ける。
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――リアッツォ 大陸商業組合
商会の建物は大聖堂ほどではないがかなり大きい。数多くの行商人がこれでもかというくらいロビーに詰め掛けている。商談をしている人やただ寝ている人、受付で何かを話している人や掲示板を見ている人など様々だ。服装も厚着の人、薄着の人、護衛を連れている人もいれば単独で行動している人もいて見ていて飽きない。
だが今回の目的は他にあるので悠仁は受付に向かう。
「お忙しいところすみません。ちょっといいですか?」
聖堂の受付とは違うが、緑色のスーツを着た男性がこちらを向く。同じ色でそろえたベレー帽に鳥の羽がつけてあるのが印象的だった。
「はい、いかがしましたか?」
笑顔で、いかにも人当たりのよさそうな声で対応してくる。
「掲示板に依頼を出したいのですが…」
「はい、問題ありませんよ。期間とサイズによって値段は変わりますが、どのような内容で?」
「実は…。」
NPCの記憶について詳しい人物についての情報を集めたいということを伝える。
「…なるほど、事情はわかりませんがその程度の情報量でしたらそんなに大きくなくても大丈夫そうですね。期間はどのくらいで?」
「ここと、もっと西の街で1週間ほど掲載をしてほしいのですが、おいくらになりますか?」
「そうですね…。」
男性は掲示板を眺める。
「今ですとそんなに多くの広告が出ていませんので少しお安く出来て……、1日当たり銀貨50枚。1週間で金貨3枚と銀貨50枚。他の街に同様に掲載するのであれば倍の7金貨になります。」
(まぁここを使う人の数と場所を考えれば妥当か…。)
「じゃあそれでお願いします。」
値段が妥当だと判断した悠仁は金貨を取り出して支払いを行う。
「かしこまりました。もし情報が集まったらいかがしましょうか。」
「聖堂に私宛の手紙をお願いします。」
「わかりました。ではプレイヤーカードをお預かりします。プレイヤーカードは聖堂に手紙を送る際にそのまま返却させていただきます。」
さすがにこの辺の個人情報に対する管理は徹底しているようだった。
「わかりました。よろしくお願いいたします。」
悠仁は支払うものを支払い商会を出る。人が多すぎて少し人酔いをしてしまったのだ。
「…ふぅ…すごい活気だったな。まるでアリーシャのバザールみたいだ…。さてと次は…。」
広場の喧騒を背に、悠仁は大きく息を吐いた。剣を振ったわけでもないのに、今日の疲れは狩りの日のそれより重い気がする。一日じゅう人と話して金を払って段取りを組んだだけなのに、身体より頭の芯が疲れている。種類の違う疲れというものがあるらしい。
ゲーム内に来たときにはまだ朝方だったのに沢山の場所を回っているうちにすっかり夕暮れ時になっていた。
「…少し休んでから組合に行こう…。」
悠仁は空いているベンチに浅く腰掛ける。
「…疲れたな…。」
今日一日で沢山の場所を回った。馬車の停車場へ行ったり醸造所へ行ったり防具屋へ行ったりウェイルに地図を借りに行ったり…。目を閉じると少し意識が遠のきそうになる。
つんつん。
頬を指で押される感覚がする。
(…?今つつかれたか?)
悠仁が後ろを向くと見慣れた人物が立っていた。
大陸商業組合 (施設)
通称「商会」。冒険者統括組合と名前が被らないようにこう呼ばれている。街と呼ばれる場所には建物の大小はあるが必ず存在している。行商人や交易商等が登録しており売買の全てを管理している。露店を出す際に申請しなくてはいけないのもこの施設。常に多くの人物でごったがえしている印象があるが、間違いない。




