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モーブグレーの挑戦②

――大聖堂 スキルレベル認定試験会場


「お待ちしておりましたステラ様。私が試験官を務めさせていただきます。」


声のしたほうを向くと中年期に差し掛かったくらいのメイド服を着た女性が立っていた。

女性の横には小奇麗な木製のデスクと、その上に紙、横にインク瓶と羽ペンが用意されている。


「……はい。よろしくお願いします。」


「ではこちらにおかけください。既に試験問題は置いてあります。私の合図で紙を裏返して始めてください。筆記試験の時間は15分、実技試験の時間は30分です。尚筆記試験に合格できなかった場合には実技試験に進むことが出来ませんのでその点ご理解ください。」


「……わかりました。」


ステラは席について返事をする。返事を聞いた試験官はにっこりと笑った後、少し咳払いをしてから宣言する。


「では、始めてください。」


ステラはその合図で紙を裏返して羽ペンを持つ。上から問題を読んでいく。


『問1.スクロール作成師24レベルで作成できるスクロールは何小節までの魔法か、また23レベルから24レベルに上がることで新たに作成できる24レベルでの最高小節の魔法の属性は何か。』


(……22の時点で4小節。……5小節に上がるのは、確か30レベル。……新しく作成可能になるのは、4小節の氷属性魔法。)


ステラは答えを書き込んでいく。


『問2.本日時点でのムジール羊の皮を使用した羊皮紙の相場を答えなさい。尚誤差は10銀貨までとする。』


(……相場。……そんなの、見てない。……適当に答えるしか、ない。)


仕方がないので適当に50銀貨と答えを書き込む。


『問3.ユニコーンの血を用いたインクの等級はいくつか。』


(……あ。これ、さっきお店で見たやつ。……9等級、だった。)


他のものよりも自信を持って書き込む。


『問4.24レベルのスクロール作成師が『ヒール』のスクロールを作成した場合、通常どの程度のレベルのクレリックが使用するヒールと同等の効果になるか、尚誤差は2レベルまでとする。』


(……スクロールの魔法は、本職が使うより低い威力になる。……回復魔法は、その度合いが少ない。……確か、ファイヤーボールで5レベルの下降。……ヒールインパクトまで行かないヒールなら、下降は2レベル程度のはず。……だから。)


22レベルと書き込む。


(……次が、最後。)


『問5.ライトニングボルトのスクロールを作成する場合、中央に書く魔方陣の直径は何cmにすればよいか。尚誤差は2cmまでとする。』


(……これは、作ったことある。……18cm。)


自信を持って答えを書き込む。


「……終わりました。」


「まだ制限時間前ですが大丈夫ですか?5問中3問の正解が無いと実技試験に進めませんが。」


「……はい。大丈夫です。」


これ以上考えても答えは変わらないと思ったステラは問題用紙をメイドに手渡す。


「分かりました。では採点をします。」


試験官のメイドはじっくりと答えを読み進め、しばらくして顔を上げる。


「5問中4問の正解ですね。合格です。問2のムジール羊の羊皮紙、本日の相場は1枚当たり75銀貨です。」


「……そう、なんですね。」


そんなこと知りも調べもしていなかった。


「では合格したので次に実技試験に移ります。道具はそちらに全て揃えてありますのでそちらをお使いください。何を使うかはご自身で判断をしていただくようお願いします。」


横にある作業台には羊皮紙と数種類のインク、筆が用意されていた。


「では、こちらにある道具を用いて氷属性の4小節魔法『フロストバイト』のスクロールを作成してください。尚この空間でだけは24レベル相当のスクロールが作ることができるようステータスの調整を行っております。」


「……わかりました。」


フロストバイトのスクロールは作ったことがなかったが想定はしていた。4小節の氷属性魔法はいくつかあるが24レベルから解禁になるためその作成法は全て暗記してきた。


「制限時間は30分です。始めてください。」


(……インクは、ユニコーンの。……これ。……羊皮紙の等級は、11等級以上だから……これ。)


まずは道具の選定をしていく。


(……次に、実際の作成。……フロストバイトの魔方陣は21cm。……ルーン文字は、15度ずつ。)


しっかりと計測してルーン文字を記載していく。


筆先が羊皮紙を擦る音だけが部屋に残る。書き始めてしまえば、緊張はどこかへ引っ込んでいた。線の太さも角度もインクの乗りも、確かめるべきものは全部机の上にある。世界が一枚分の広さに狭くなっていくこの感覚を、ステラは嫌いではなかった。


(……よし。これで問題ない、と思う。……後は、詠唱文の書き込み。)


フロストバイトの詠唱文を、書き込んだ魔方陣の両端に書き込んでいく。制限時間5分前の25分で作成が終了した。


「……できました。」


「では、使用をしてみてください。それが発動すれば試験は合格になります。あちらに的が用意してありますのでお使いください。」


メイドの指し示す方向に藁で作られたかのような人形が置かれている。ステラは深呼吸をする。


(……大丈夫。しっかり調べた通りに、作れたはず。……大丈夫。)


深く吸い込んだ息を吐ききって、勢い良くスクロールを開く。静かに、しかしはっきりと宣言する。


「フロストバイト。」


その瞬間、スクロールが白く光り魔法が発動する。冷気でできた大蛇が勢い良く人形に牙を立て2つの大穴と共に氷漬けにする。辺りには急激に温度が下がったことによるダイヤモンドダストが発生している。


「合格です。お見事ですね。威力も申し分ありません。」


「はぁーーーーー…。……ありがとう、ございます。」


緊張の一瞬が終わった。


「ではあなたをスクロール作成師24レベルの実力ありと認めましょう。ここを出た瞬間からあなたのレベルは更新されます。おめでとうございます。」


試験中はにこりともしなかったメイドがにこりと笑う。


「……飛び級、緊張した。」


「このレベル帯で飛び級は珍しいですからね。是非そのまま研鑽を続け立派なスクロール作成師になってください。」


メイドがポータルに入るように促す。促しに従ってポータルに入り転送される。戻った時には日暮れ間近だった。

ステラは走って受付に詰め寄る。


「……すみません。生産スキルの取得状況って、出してもらえますか。……今すぐ。」


「えぇ、大丈夫ですよ。生産スキルですと、手数料で半金貨いただきますがよろしいですか?」


「……大丈夫。特急で、お願いします。」


「特急料金ですと5金貨かかりますが…。」


「え゛…」


喉の奥から乙女とは思えない声が漏れる。


「ふふ、冗談ですよ。先ほどお預かりしたプレイヤーカードがありましたので今出しますね。料金を置いてお待ちください。」


受付嬢は後ろの作業台から紙を取り出しステラの元へやってくる。


「はい、こちらに。しっかりとスクロール作成師24レベルも記載されていますよ。」


「……ありがとう、ございます。」


ステラは生産スキルの詳細が書かれている紙を受け取り店へと走った。


たそがれの街を、ステラは走った。すれ違う人が振り返るのも構わず、紙を握った手だけは高く持って。走るなんて何年ぶりだろうと、頭の隅で他人事のように思った。


――リアッツォ 小道具屋『老婆の休日』


バタン!という大きな音と共にドアが開かれる。


「……お待たせ、しました。」


「なんだい騒々しい。ドアはもっと静かにお開け。」


「……すみません。」


奥から出てきた店主に釘を刺されてしまう。


「それで、結果は。」


「……どう、ですか。」


ステラは精一杯すました顔で、生産スキルの詳細が書かれている紙を見せ付ける。だが、口元はわずかに緩んでいた。


「おやまぁ本当に取るなんてねぇ。賭けは私の負けじゃ。ほれ、持って行くとええ。」


下投げで渡されたそのインク瓶は既にラッピングが済んでいた。


「……え。……なんで。」


「野暮なこと聞くんじゃないよ。」


店主はそっぽを向いてしまう。その姿を見ていると何だか嬉しいような、誇らしいような気持ちが胸を満たす。


「……ありがとう、ございました。……また、来ます。」


自然と口を突いて出た言葉だった。


「今度はしっかり客として来な。うちの商品はどれも1級品だよ。」


「……はい。必ず。」


ステラはインク瓶を収納にはしまわず胸に抱いて外へ出る。


(……初めての作品は、お婆様に渡そう。)


そう胸に決めたステラには、たそがれ時の街が少し明るく見えたのだった。

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