ステラの帳面・その五 閲覧料の欄
――カプランド 図書室
『支出。閲覧料、人数分。備考、安い。安すぎる。相場というものは、売り手が値打ちを知っている時にしか、立たない。この街は知恵の値段を間違えている。間違え方が、好きだ。』
学びの石の棚の前で、司書を捕まえた。子供が石に手を当てて、九九を覚えていた。家庭に一つの、記憶の結晶。……欲しい。
「これ、仕入れ値は。」
「売り物ではありません。」たいへん良い笑顔だった。
「……卸元だけでも。」
「売り物では、ありません。」笑顔の等級が、一段、上がった。
「……では、閲覧は。」
「どうぞ、ごゆっくり。」等級、さらに一段。良い笑顔の断りは、値切れない。ミーナが横から「ステラ、図書室で仕入れ交渉しないの」と私の袖を引いた。交渉ではない。市場調査である。調査の結論——この街の知恵は、非売品。非売品の多い街は、いい街である。帳面の相場欄に載らないものが、いちばん、高い。
『特記の欄。Yuji、魔法書の棚から三時間、動かず。頁をめくる音だけが、棚の奥から、定時報告のように届く。Alice、二時間おきに水を持って行く。二回。二回目は、渡したあと、隣で立ったまま、自分も一口飲んでいた。給水の間隔が、看病の書式である。看病の書式で立つ人の横顔は、帳面には、写せない。写せないものは、写せない、と書いておく。』
『私事の欄。本に囲まれて書く帳面は、少し、字が良くなる。気のせいかどうかは、次の図書室で検算する。以上。』




