白銀の思い立ち
「自由行動といっても何をしようかしら…。」
フルールは街の広場にあるベンチに腰掛けて足をぶらつかせている。特に当てもなく、城の外に出てきたが、それでもやることが見つからない。
「そういえば、人の後ろについていってばかりの冒険だったかもしれない…。」
イザベラに拾われた時、眠りにつくまでずっとイザベラの後ろをついて行くばかりの生活だった。今だってそんなに変わりはない。みんなについていくばかりの冒険をしている。
「何かやることを見つけないと…。」
自分にもできそうなことを探してみるが、中々思いつかない。10分程すると小鳥がベンチの横に飛んできたので声をかける。
「ほら、おいで。」
手を差し延べて優しく呟くと小鳥はフルールの指を足で掴んでバランスをとる。そのまま持ち上げて顔の前まで持ってくる。
「ねぇ鳥さん、何をしたらいいと思う?」
言葉が分かるのか分からないのか小鳥は首を斜めにクイクイと動かしている。
「聞いても何も分からないわよね…。」
フルールがそっと手を前に出すと鳥は飛び去っていった。フルールは再び思考する。
広場を行く人々には、それぞれ向かう先があるように見えた。籠を提げた人は市場へ、道具を担いだ人は仕事場へ。自分だけがベンチに座って足をぶらつかせていることが、今日は少しだけ落ち着かなかった。
「私でも出来ること、私にしか出来ないこと…。」
ゲーム内の人間だからできること、みんなよりもこの世界にいるからこそできること、それを考える。
「一人でも出来ることって考えると…。」
ごく最近いいなと思ったことを思い出す。
「料理…。」
悠仁が料理をして皆に好評だったことを思い出した。
パーティーのサポートにもなるし携帯食料なんかを作れるようになれば皆がいないときに準備が出来て役に立つことが出来る。
「そもそもこの旅は、私の記憶を取り戻すためにしてくれてるんだし…。」
常日頃から何か恩返しがしたいと思っていた、戦闘以外でも。
「そうと決まったら…。」
フルールは聖堂へ向かった。
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――リアッツォ 大聖堂
「すみません、ちょっといいですか?」
相変わらず聖堂は少し苦手だが勇気を出して受付に声をかける。
「はい、なんでしょう。」
受付にいた女性が笑顔で対応してくれる。
「料理人のスキルをとりたいのですが…、何から始めて何をすればいいか分からなくて…。」
「なるほど、そういうことでしたか。ではこちらへ移動していただいても?」
フルールは受付の中央ではなく端のほうへ移動させられる。
「では、料理人のスキルについてお話します。ご存知のものもあると思いますがご容赦ください。」
どうやら1から説明をしてくれるようだ。
「はい、お願いします。」
「まず料理人のスキルは、皆が行うことが出来る『料理』というものをより専門的に扱うスキルのことです。スキルがなくとも料理をすることは出来ますが、作成した料理に特殊効果を付与したりすることが出来ます。」
悠仁が説明してくれたことをそのままなぞっている感じだ。
「まず技術面では基本的な料理の手法、手順などが問われます。素材によって調理方法を変えたりする必要性があるからです。」
確かに常に焼き料理では飽きてしまうし、そもそも焼くという調理方法が合わない食材だってあるはずだ。
「次が非常に重要で食材に対する知識です。」
「知識…?」
「はい、例えば肉といえば『焼く』という印象がありませんか?」
「はい、確かに。焼かないと状態異常にかかりますから…。」
生肉が身体に良くない影響を与えることは知っている。
「その通りです。生肉は焼いて処理することで味も安全性も向上しますが、そうですね…。カプランドの大森林に生息するブルートードの肉だと『焼く』処理をすると大変なことになります。」
「え!?そうなんですか?」
そんなことは聞いたことがなかった。
「はい、ブルートードは体内に毒を保有しており、高温で焼くと毒が活性化して肉自体が毒化します。このためブルートードの肉を調理する場合には『煮る』と低温で長時間調理することで無毒化できるのです。」
「なるほど…。」
「食材によっては調理方法を誤ると大変危険で、場合によっては命に関わることもあるのです。しかし調理方法を間違えなければ先ほどのブルートードの肉は毒耐性をつけることができるため非常に有用です。このように知識を十分に蓄えて、豊富な調理方法を用意している料理人は必ずやパーティーのサポート役として活躍することが出来るでしょう。高レベルの料理人になるとスキル特性でブルートードの肉を『焼いても』毒が発生しなくなるなど特殊効果もあります。」
「すごいですね…料理人というスキルを少し甘く見ていました。」
便利ということはなんとなく分かっていたが奥が深いスキルだったようだ。しっかりと身につければ悠仁の補助やパーティーのサポートができるだろう。
「料理人のスキルはどのように覚えていけばいいのですか?」
「そうですね…。知識として覚えるのであればここに備え付けの図書館に行けば先人が記した食材に関する書物が沢山見られます。技能として習得するには、やはり実践しかないでしょう。」
「そうなりますよね。分かりました。ありがとうございます。」
希望と向かう先が見えたフルールは席を立ち上がる。
「いえ、お役に立てたようなら何よりです。街の露店や食材屋では様々な食材が取り扱われています。特にここには行商人が訪れるので他の地域の食材なんかも扱っている店があってお金さえあれば練習にもってこいですよ。」
受付嬢は丁寧にアドバイスをしてくれた。
「そうなんですね。幸い今日は時間があるので練習してみたいと思います。」
「はい、是非。レベル5くらいまではそんなに試験内容が難しくないので挑戦してみるといいですよ。」
「少し調べてみたら受けに来ますね。」
「お待ちしています。また何かありましたらお気軽にお越しください。」
受付嬢に見送られ大聖堂を出る。
外に出ると、張り詰めていた肩から力が抜けた。聖堂の空気はやはりまだ少し苦手だ。それでも今日は、あの高い天井の下で自分のやることを一つ決められた。そう思うと、石段を下りる足が行きよりも軽かった。
「丁寧に教えてもらえてよかった。じゃあ街にいって食材を選んでみようかしら。」
フルールは中央広場に向かって歩き出した。
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――リアッツォ 中央広場
中央広場ではぽつぽつと食材を扱っている露店が立っており、覗くことができた。
「でも何から作ろうかしら…。」
勇んで食材を見に来たものの、何を作ればいいか迷ってしまった。
「んー…どうしようかしら…、あら?あれは…。」
フルールは遠くに見知った後姿を見つけて追いかける。
「あの!」




