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ネコ耳の散歩②

「これは…。サクルスウッドですか?弦は…植物性…あぁ、タミーラの蔓ですか?」


「よくわかりますね。どちらも正解です。」


「これでも長く鑑定してますからね。随分と使い込んでますが、いつから?」


「もう1年程前から、レベルが10前半の時から使ってますね。」


ミーナが初めて新品で購入した弓だった。手が馴染んでとても好きだったのだが攻撃力不足を感じていた。


握りの部分だけ、木目の色が変わっている。1年分の手汗と力の癖が染みた跡で、言ってしまえばただの古びだが、ミーナにはそこに旅の道のりが刻まれているように見えた。


「なるほど、とても良く手入れされていたようだ。耐久度の上限もかなり低いですね。何回も修繕したのでしょう。しかし、そろそろ交換時ですね。」


「そう、ですよね。そのサクルスウッドの手触りが手に馴染んでいるので中々手放せなくて…。」


愛着もあった。


「武具を使う人間にとってそういった感覚的なものはとても大事です。…弦もそろそろ限界みたいですし弓はいっそのこと買い換えたほうがいいでしょう。サクルスウッドですか…ちょっと待っててくださいね…。」


サイモンはなにやらぶつぶつと呟きながら裏に引っ込んでいった。


「…か。………いや………お…だ…。」


バタバタという音と共になにやら独り言が聞こえてくる。しばらくすると1本の弓を持って裏から出てくる。


「お待たせしました。これですね。」


頭に埃を被ったサイモンが弓を差し出してくる。


「これは?」


ミーナは受け取りながら質問をする。手には柔らかな、丁寧に加工されたことが分かる感触が伝わってくる。1回も使ったことがないのに何故か手に馴染んでくるような気がした。


「これ、実はサクルスウッドを使ってるんですよ。」


「え!?そうなんですか?」


わざわざ同じ木を使ったものを探してきてくれたようだった。


「けどこれは少し違って『サクルスウッドの古木』を使用しているんです。」


「古木だと何が変わるんですか?」


「耐久度が高くなるのと、素材補正がかかりますね。この木はけして珍しいものではありませんが永く生きたものはなかなか採れません。弦はまだ張ってませんが、そこにあるものから好きなものを選んでくれれば張りますよ。どうしますか?」


弦の素材になるものが並んでいるところを指差して見てくるように促される。


「弦か…その弦も一番初めから張ってあったものを使ってるんですよね。」


「あー、そうなんですか。そうなるとこの弓を作った人はセンスがいい。脱初心者に対する最適解とも取れる組み合わせだ。ちなみに今筋力値はいくつですか?」


きっと詳細な筋力値を聞いてきているのだろうが、まだ聖堂でステータスを出してもらったことがないため正確な値はわからない。


「ちょっとまだ調べてなくて…。」


「なるほど、そうでしたか。そろそろよいレベルになってきているので一度聖堂で出してもらうといいですね。じゃあ一旦ご自身の弓をひいてもらってもいいですか?」


ミーナはサイモンに言われたように弓を引く。


「いいですね。いま自身が持ってる力のどのくらいの割合で引いてますか?」


「えと…3割くらい…、ですかね。」


「なるほど、そうなると…。」


サイモンはその情報で何か分かったのか弦の素材を見繕っている。


「うん、これがいい。」


手にしたのは灰白色の弦だった。


「カルツラビットの腱で作った弦です。きっとこれなんかいいんじゃないかと思います。」


「なるほど…聞いたことないモンスターですけど、何か違うんですか?」


「まぁまぁ、論より証拠、百聞は一見にしかずっていうじゃないですか。ちょっと張っちゃいますから待っててくださいね。」


サイモンはカウンターで弦を張る作業を手早く済ませて帰ってくる。


「さぁ、引いてみてください。」


何が変わったんだろうと思いつつミーナは言われたとおり弓を構えて弦を引く。


「わっ、重い…けどこれ…。」


「引き応え、ありませんか?」


そうなのだ。さすがに長時間使っていると今の筋力値では疲れてしまうだろうが、心地よい引き応え、これならしっかりと射抜ける、そう思わせてくれる抵抗感、それを感じるのだ。しかも素材は今まで使っていたサクルスウッド、初めて今までの弓を持ったときと同じような感動を味わう。


「すごいです…。これならダメージも上がりそうだし、なにより使ってて楽しい…。」


「そうでしょう。ハンターは、まぁ他の職がそうじゃないとは言いませんが、五感をフルに働かせる職です。こういったフィーリングを大事にしていくことは非常に重要なんです。これでストレスを感じていたら他の作業に影響が出てしまいます。」


「…ちなみにいくらですか?」


手に馴染んだサクルスウッドを使った弓、次にいつ見つかるか分からないが、それでも高価だったら手が出せない。


「そうですね…。この組み合わせですと…。金貨35枚になりますかね。」


いい車が買える金額だ。


「ですが、そうですね。いいものも見せてもらったし30ってところでどうでしょう。」


「か、買います!」


きっと長く使うんだろう、そしてこういった人に見てもらえるならアフターサービス料も加味すると安い買い物だ。ミーナは即決で答えを出す。


「おー、思い切りますね。決して安くない買い物ですけど大丈夫ですか?」


「はい、この街にいる間は見てもらえるんですよね?」


「もちろんです。しっかりとサービスしますよ。」


サイモンはウィンクをしてくる。


「じゃあこれで。」


ミーナは革袋から金貨を取り出し、受け渡す。


「はい、確かに。じゃあ細かいセッティングをしましょうか。」


こうしてミーナの新しい相棒が決まった。


店を出ると、外の光が少し傾いていた。背負った弓は前のものより少し重く、その重さが歩くたびに背中で確かめられる。早く誰かに見せたい――そんな子どもじみた気持ちが湧いてくるのを、ミーナは否定しないことにした。

サクルスウッド(素材アイテム)

HOPE内のいたるところに生えている木。木材として様々な用途に使われるがその品質は、生育環境、年齢などで大きく異なる。古木になると生命力を多く吸って品質が向上しているのと、軽量化されるという特徴がある。しかし古木などはカプランドの大森林深部のようにあまり人が立ち入らない場所にしか存在しないため簡単に採集することは難しい。


タミーラ(植物)

森であれば大体生えている植物。花をつけることはなく蔓を伸ばして辺りを自分で埋め尽くす。繊維質な蔓は頑丈で、太いものはロープ、細いものは重ねて弓の弦にするなど使い道は沢山。


カルツラビット(環境生物)

森と平原の境目に生息するウサギ。ウェイル領は他の地域に比べ緑が多いためカルツラビットは多く生息している。後ろ足が非常に大きく、普通のウサギの2倍ほどあり、瞬発力はまるでロケットのよう。その瞬発力を支えているのが強靭な腱である。その腱は主に弓の弦として使われることが多い。

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