ネコ耳の散歩①
――リアッツォ 中央広場
「んー、何かないかなぁ…」
リアッツォに到着した翌日、中央広場にミーナの姿があった。ハンター職専門店の前で展示されている武具を覗いているようだ。
「わっ…たっかぁ…。何使ったらこんなに高くなんのよ…。」
ショーウィンドウに飾られている弓の値段を見ると金貨120枚の表記が為されている。日本円にして1200万円の価値があるということだ。
「客寄せパンダみたいなもんね…。こんな高い弓誰が買うんだか…。」
HOPEの世界で使われる武具はその素材による補正が非常に大きく、素材の値段がそのまま値段に反映される上に、その素材を加工できる人材というのは基本的に高レベルの鍛冶スキル持ちである。技術料や作業料も加えるととんでもない値段になるのだ。
更にそれを使うことによって生じる耐久度の減少を元に戻すには同じ素材と高レベルの鍛冶スキル持ちが必要になり…、と高い武器は買えればよいというわけでなくランニングコストが非常にかかるのである。
「んー…、何か…」
「お嬢さん、何かお探しで?」
しばらく眺めていると茶色の布製の服を着た男性が店から出てくる。
「あ、はい。ちょっと新しい装備を見てみようかなぁと。」
「なるほど、じゃあ店の中に入って考えるといいですよ。大丈夫です。押し売りなんてしませんから。」
男性はにっこりと笑って店の中に招き入れる。
「うーん…そうですね。じゃあちょっと見せてもらおうかな。」
ミーナは男性に促され店の中に入る。店の中にはハンター職が身につけるであろう革の鎧や服、ナイフに弓、矢などの消耗品、各種素材などが所狭しと陳列されていた。
所狭しと、といっても乱雑ではない。よく見ると矢は太さごとに束ねられ、革の服は丈の順に吊られていて、値札の字はどれも同じ丁寧さで書かれている。並べた人間の性格が棚から伝わってくるようで、ミーナは少しだけ警戒を緩めた。
「あ、いい匂い。」
なめした革の良い匂いがミーナを包み込んだ。
「そうでしょう。もうその時点であなたはハンター職が向いてますね。」
その表情を見るに店員の男性も革製品が好きなようだ。
「それで、今は何を探しているんですか?」
「まぁそこから既に自分では決められていないというか…。」
何が足りないのか、何が不満で不足なのか、自分でも良くわからないから探しに来た、ということだ。
「じゃあ一つ一つ確認していきましょうか。」
「え、そこまでしてもらっていいんですか?」
丁寧すぎる接客にミーナは少したじろいでしまう。
「いいんですよ。だって周りを見てください。」
店内の接客スペースにはミーナと店員の男性、後は装備品しかなかった。
「あー、なるほど…。」
「ね?じゃあ…あ、私はサイモンといいます。」
「私はミーナです。」
お互い自己紹介を済ませた後サイモンは確認を始める。
「では攻撃面について考えましょう。」
「はい。」
本当に一つ一つ確認していくようだ。
「普段はどんな戦闘スタイルで?」
「そうですね…。移動時には先頭に立って索敵をしながら、一人で片付けられそうなら木の上からとか草むらから弓を使ったり、近かったらナイフを使ったりしてますね。」
「ふむ、なるほど。集団戦闘時には?」
「パーティーでの戦闘の時には、相手の攻撃を制約したりすることが多いです。あまり接近はしないので弓を使うのが中心ですね…。もちろんナイフを使う場面では使うんでしょうけど…。うちのパーティー、魔法職が強いんですよ…。」
「なるほどなるほど。ちなみに今レベルはおいくつですか?」
「今は…25ですね。」
収納からプレイヤーカードを取り出してレベルの確認をしながら伝える。
「25…、ちょっと武器を見せてもらっても?」
「あ、はい。これです。」
ミーナは自分の弓と短刀を手渡す。
「うわっ!この短刀取引不可アイテムじゃないですか!」
受け取ったサイモンがびっくりする。
「あはは…。ちょっと成り行きで…。」
「すごいですね…。ユニークエフェクトはありますか?」
「すごいんですよ、陰に入れると刀身が消えます。」
「へぇ…。ちょっと見せてもらっても?」
サイモンは実際に見ようと、短刀をミーナへ返してくる。
「はい、こんな感じです。」
「ほー、これはすごい薄刃だ。で、陰に入れると?」
「消えるんですよ、ほら。」
ミーナは自身の陰に刀身を入れる。すると刃は初めからなかったように消え失せる。
「これは…、アサシンなら喉から手が出るくらい欲しいものですね。本職に見せたら垂涎ものです。この綺麗な刃文に鞘、芸術的な薄刃…。素晴らしい。これが取引不可アイテムじゃなければ買取を依頼してましたね…。ちょっと鑑定してみてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
サイモンは受付に短刀を持って行き、拡大鏡で見始める。
「刃…、これは獣の…。うん、そうだ…属性効果がついてるのか…。もしかしてこれ…うん、多分そうだ。」
サイモンが短刀を持って帰ってくる。
「これは獣の歯を使って作られた短刀ですね。金属ではありませんでした。柄巻には恐らく獣の毛が織り込まれていますね、丈夫なのに軽い、良い素材です。しかも闇属性の属性効果付です。これはどこで?」
「実は…」
ミーナはカプランドで起こったノワール討伐について話す。
「ノワールを討伐したのはミーナさんのクランだったのですね。噂はこのリアッツォまで届いていました。エリアボスの討伐をされた方に会えるなんて光栄ですね。」
「そんなそんな!私は何もしてないので!」
「ご謙遜を。その短刀、通常の修繕なら問題ありませんが大規模な損傷…、そうですね、明らかに大きく歯が欠けたとかそういうことがあったらそのモンスターの牙が必要になります。大事にしてください。」
「もう手に入らなさそうですね…。分かりました。」
短刀はかなり貴重なものなようだ。
掌に返ってきた短刀は、鑑定される前と同じ重さのはずなのに少し違って感じられた。成り行きで手にしたものが、いつの間にか二つとない相棒になっている。あの戦いの記憶ごと腰に差しているのだと思うと、鞘に納める手つきが自然と丁寧になった。
「短刀はどのレベル帯でも使える優れたユニークエフェクトがついていますから問題はありませんね。じゃあ次は弓を見せてもらいますね。」
サイモンは弓を見始める。




