ステラの帳面・その四 再会の欄
――砂漠 野営
『本日、支出なし。収入なし。事件、一件。「よぉ、また会ったな」。事件の書式で書くほかない再会というものが、世の中には、ある。』
事件の当人が、焚き火の向こうから帳面を覗きに来た。拳闘士アゲハ。1のダンジョンの入口以来、二度目。装備、前回より減。内訳——防具、なし。籠手、なし。理由、縛り。「防具は緊張しなくなるから外した」とのこと。装備の欄が空欄へ向かって進んでいく人間を、査定する書式が、うちには、ない。
「アンタ、あたしのこと書いてんの? どれどれ。……『装備の欄が減るほど強くなる人間。査定の書式が、ない』——あっはっは! いいねそれ。書き足しなよ。次に会う時は、もっと減ってるって。」
「……ん。予約として、記載する。」
「よろしく!」
予約の欄の書式を、その場で新設した。期日、未定。場所、未定。内容、再会。未定が二つ並ぶ約束を、商いでは不良債権と呼ぶ。呼ぶが、この一件に限っては、焦げつく気が、しない。根拠は、ない。根拠のない見込みを書くのは書式違反だが、違反のまま、置いておく。
『特記の欄。Yuji、アゲハの戦い方を長いこと見ていた。見て、「真似はしない」と三回言った。三回は、多い。多い、の内訳を書いておく。一回目は、感想。二回目は、決意。三回目は、未練である。』
『同じく特記。ミーナ「あの人、装備売ったお金どうしてるんだろう」。着眼が商人である。スカウトは、しない。うちの帳面が二冊要ることになる。二冊目の表紙の革代を試算しかけて、やめた。』
『私事の欄。世の中には、帳面に縛られない生き方がある。予約の欄に、彼女の分を一行、空けておいた。以上。』




