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引越し

――リアッツォ 宿屋「狐のお宿」


「ふぅ…こんなもんか。」


悠仁は息をつく。


「Yujiー、これどこにおけばいい?」


「あぁ、それは…」


馬車から降ろした荷物の置き場所を聞いてきたミーナに指示を飛ばす。


「わっ!フェリス!そこ危ないからこっちにきて!」


アリスはフェリスがちょろちょろしているので捕まえるのに必死なようだ。


何故城を出て宿屋にいるかというと…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――リアッツォ 領主の住まう城前 4日前


「もしかしてあれが…」


「ええ、きっとそうよ…」


街に住む女性や老人が城に入っていく悠仁をみてなにやらぼそぼそと話している。


「……」


ひとまず反応をしないで城に入り貸してもらっている部屋へ向かう。


「……………はぁああああ…」


悠仁は大きな溜息をつく。


「どうしたんですか先輩。」


まだ誰も来ていない時間なこととフルールが席を外していることをいいことに先輩呼びするミーナ。


「お前さ、ここの城に入るとき住民の視線を感じたことない?」


「あー…ありますね…。」


「やっぱり目立つよなぁ…。っていうかウェイルさんって俺達が知らなかっただけでかなり有名な冒険者なんだろうし、街をああやって守ってるところ見ても結構信頼が篤いように見えるよな。」


「まぁそうでしょうね。」


あれだけの実力に領民思いの運営方針。相手がいかにNPCが多いとはいえ信頼は大きいだろう。


「その人が住んでいる城に毎日出入りしていればそれだけで目立つよなぁ…。」


ウェイルはその財産だけで生活は十分にしていけるのだが、住人が穀物や果物の差し入れをしにやってくるのだ。多い日や収穫期には食べきれないくらいに。その横を通り抜けてまるで我が家のように出入りしていれば嫌でも目立つ。


「悪い噂はされてないんだろうけど、こう好奇の視線にずっと晒されるのはやっぱり辛いものがあるな。」


「心労がすごいですね…」


ミーナも若干困った顔をしているところを見ると心当たりはあるようだ。


「確かにここは快適だが、そろそろ決断しないといけないようだな…。」


悠仁は皆に相談することを決める。その夜、全員が部屋に集まったことを確認して悠仁は提案をする。


「街の宿に移動しようと思う。」


「賛成だ。実は俺も、出入りのたびに視線が痛くてよ…。」


「私も。ここ、なんだか落ち着かないのよね…。」


「ふふ、実は私もちょっとだけ…。」


「……宿のほうが、気楽。」


「私は皆さんと一緒なら、どこでも。」


唐突なこの発言にも関わらず疑問や反対は一切出ずに皆うんうんと頷いてわずか数秒のうちに満場一致で決定されたのだった。皆それぞれ感じていたものがあったのかもしれない。

すぐにその旨ウェイルとウィリアムに伝えたところ少し残念そうな顔をされたが了承してもらい、数日間宿を探して、ついに移動をしたのだった。


荷造りをしてみて気付いたことがある。ヴァリエスタを出た頃に比べて、馬車に積む荷物が目に見えて増えていた。調理道具にスクロールの材料、修繕用の素材、それに誰のものとも言えない細々とした貰い物。荷物の嵩がそのまま、この旅の月日の長さだった。


――宿を探して歩いていた数日の間には、思わぬ再会もあった。


「よぉ、また会ったな。1のダンジョンの。」


中央広場の雑踏の中から声をかけてきたのは、拳に薄い革を巻いただけの軽装の女。忘れもしない、砂漠で会った拳闘士のアゲハだった。


「…あんた、こんなところまで来てたのか。」


「いいだろここ。飯うまいしさ。それより聞いてくれよ、ここの領主サマ、マジもんだぜ。手合わせしてもらったんだけどさ、アタシ、指一本。指一本で地面とお友達。」


うふふ、と心底嬉しそうに笑う。指一本、の意味はあえて聞かないでおいた。


「面白ぇよなぁ、この領。精々強くなりなよ。んじゃ。」


それだけ言って、アゲハは人混みに消えていった。相変わらず回復もせずに……いや、今日はそもそも怪我ひとつしていないだけか。

あの領主の強さは、ああいう手合いから見ても『マジもん』らしい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――宿屋「狐のお宿」


広さの割りに安く借りられたので、部屋は二つに分けた。元々男女をまとめて寝ていたので(もちろんベッドは分けたが)部屋割りをしても別段問題はなかった。メンバーは折角なので前回の花採取の時の割り方になっている。


窓を開けると市場の喧騒が薄く届き、床板は歩くたびに小さく鳴った。城の静けさとは比べるべくもないが、誰の視線も気にせず窓辺に立てるというだけで、息のしやすさがまるで違う。宿とはそういうものかと、悠仁は妙なところで感心した。


「向こうもそろそろ荷物の整理が終わるようだし、少ししたら方針を決める話し合いをするか。」


30分程度待っていると隣の部屋のメンバーが悠仁達の部屋にやってくる。


「ふぃー、終わった終わった。」


「すみません、色々運んでもらってしまって。」


「大丈夫よステラ、それがあなたの仕事なんだもの。」


どうやらステラのスクロール作成に使う道具の運搬で時間がかかっていたらしい。


「……ありがと、フルール。カインも。」


「大体荷物を運ぶのは男の仕事って相場が決まってるからな。大丈夫だ。」


カインは力こぶを作るポーズをするが鎧を着ているので一切見えていない。


「さぁ、落ち着いたところでこの街での方針を決めようと思う。この街の周辺について情報収集した人はいるか?」


悠仁が全体に尋ねるとステラがゆるりと手を上げて発言を始める。


「……街に入るときにもあったけど、この街、行商人が多いみたい。中央広場では、この地方では採れないような素材も扱ってたから……確認してみると、いいかも。ただ、露店形式じゃなくて、しっかり店を構えてるところが多いから。中まで入っていく必要は、あるけど。」


「なるほど、珍しい買い物ができそうだな。他にあるか?」


ステラに続いてミーナが手を上げて発言する。


「はいはいっ。何かこの近くに新しく出来たダンジョンがあるみたい。」


「新しく出来たダンジョン…。」


ダンジョンは自動生成されることもあり、昨日までなかった山ができあがっていることや、逆に何もなくなってしまっていることなどがあっても珍しくない。特に小規模なダンジョンだと頻繁に出現と消失を繰り返すことがある。


「なんでも北にある小さな森に山菜を採りに行ったらログハウスが出来てたらしくて、ドアを開けてみたら中には何もなかったみたい。」


「へぇ…それは面白いな。でもそれはダンジョンなのか?」


「んー、その人も元々は農民みたいで怖くてそのまま放置して帰ってきちゃったみたいだから。そもそも昨日見つかったらしいし誰も調査してないと思う。」


どうやら詳細は何も分かっていないらしい。


(中に何もないログハウスが急にか…)


なんとも興味がそそられる話ではある。特にここ最近は狩りらしい狩りはしていなかった。もしそのログハウスで何かが起こるのであればそれはそれで退屈しのぎにはなる。


「そうか、じゃあ折角情報を早く仕入れることが出来たし、ウェイルさんに新しいダンジョンについて報告をした後に俺達で探索してみようか。」


「それでいいと思います。新しいダンジョンは少し怖いですけど、わくわくしますね。」


アリスは膝の上で寝息を立てているフェリスの頭を撫でながら悠仁に笑顔を向ける。


「そうと決まれば明日を使って探索に行こうか。ウェイルさんへの報告は俺が済ませておくから、アリスは組合にダンジョンが生成されたことを報告してもらってもいいか?」


今回は大人が気付いたから良かったが、子どもが不用意に近づいて何かトラップでも発動したら困るため街に周知する必要もある。


「じゃあ今日は解散、自由行動。各々明日の準備とかにかかってくれ、あと冒険にかかると思った消耗品は…」


「報告、だろ?大丈夫だよ、ちゃんとするから。」


悠仁の言葉を遮ってカインが発言する。心配をかけまいというカインなりの気遣いなのかもしれない。


「わかってればいいんだ。」


皆は久しぶりのダンジョン探索に少しわくわくしながら自由行動を始めるのだった。

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