新規加入①
――3日後 悠仁の職場
「青木さんって、何か趣味とかないんですか?」
「は?どうしたいきなり。」
昼休み、コンビニ弁当を食べている悠仁に石橋が声をかけてくる。こいつがプライベートなことを聞いてくるなんて珍しい。
「いやぁ、青木さんってあまり活動的に見えないから、普段何してるのかなって思いまして。」
「活動的に見えなくて悪かったな。まぁ趣味はゲームって感じだよ。」
「あーやっぱりって感じです。」
失礼なやつだな。俺は別に気にしないが、人が人だったら怒られてるぞ。
昼休みのオフィスは電話も鳴らず、窓際の島から弁当の蓋を開ける音がぱたぱたと続いている。悠仁の席は通路側で、話し声は適度に周囲のざわめきへ紛れてくれる。込み入った話をするには案外悪くない場所だった。
「まぁそう見えるらしいな、他の人にも言われるよ。」
「どんなゲームしてるんですか?」
「お前ゲームしなさそうだし、いったところで分からないだろ。」
「そんなことないですよ!これでもちょこっとはやるんですよ!」
自慢気に話すことでもないし、別に競い合うものでもないのだが…。
弁当のミニハンバーグを箸で割りながら、石橋は目だけでこちらの返事を待っている。仕事中は指示を仰ぐ側の顔をしているくせに、昼休みになると急に年相応の顔になる。この切り替えの良さは、少し見習いたいくらいだ。
「まぁいいさ。HOPEってゲームだよ。」
「え、HOPEって、あの死人が出るっていう…」
HOPEの噂なんてこんなもんだ。死人が出るのは嘘ではないし、知らない人からしたらこの程度の認知度だろう。
給湯室からは電気ポットの湯気の音がして、隣の島では誰かが昨夜のテレビの話をしている。この日常のすぐ隣に、月に何十人も死ぬゲームが平然と存在している。世間というのは、自分の触らないものにはとことん無関心でいられるようにできているらしい。
「それだけじゃないんだが、それで間違ってない。」
「楽しいんですか?」
「人を選ぶだろうな。俺は満足してるが、続かない人はすぐにやめるだろうよ。」
「へぇ、HOPEですか。青木さんがねぇ…」
(そんなにHOPEやってることがおかしいのか…?このゲームはテレビゲームとは違い、配信なんてできないしゲーム中の風景なんかも撮って持ち帰ることなんてできないので、実際にやってみないとわからないっていうこともあるだろうが、それでも世界的なビッグタイトルだ。)
「そのゲームやってる人ってなんていうか、生に無頓着なのかなぁっていうイメージがありまして。」
「間違ってないだろうけど、そこまで考えてあのゲームをしている人間はそう多くないさ。俺だって死ぬ可能性はあるって思っても、毎日死を認識しているわけではないし、死んだ人間っていうのも結局は噂やニュースで聞く程度で、身内が死んだわけじゃないしな。俺達が道を歩いていても車に轢かれる可能性は0じゃない。だけど、死ぬって思いながら道を歩いてはいないだろ?」
「確かにそうですね。じゃあHOPEやってる人もそんなもんなんですねぇ。」
「そんなもんさ。」
「青木さんはやってるんですよね?」
「俺は学生の頃からこういったオンラインのゲームはちょこちょこやってたしな。興味がないわけでもないし、あと、一緒にやる仲間もできたから続けてるな。」
「へぇー、なるほどなぁ…」
「っと、そろそろ昼休みの時間終わるぞ。」
「はーい。あー、眠いなぁ。」
「やめてくれよ、またあのバーコードに一緒に謝りに行くのはごめんだ。」
「なんだかんだ青木さんって優しいですからね。」
「次はフォローしないぞ。」
「いやいやいや!冗談ですって!ちゃんとミスしないように頑張ります!」
「そうしてくれ。」
こうして午後の業務に入っていく。
話してみて気付いたが、HOPEのことを現実の人間に語ったのは初めてかもしれない。カインとは向こうで会うし、会社でゲームの話をする相手もいなかった。石橋相手に喋った数分で、自分があの世界を思ったより大事にしていることが分かってしまった。妙な後輩だ。人にそういうことを気付かせるのがうまい。
(さて、今日はいつごろ入れるのか…)
そんなことを考えながら、ゆっくりと仕事モードへ切り替わっていくのであった。




