聞きたいこと②/急報
ウィリアムに運んできてもらった紅茶に口をつけてから話を続ける。
「紫色のローブを着た人物を見たことはありますか?」
「紫のローブかい?そりゃ見たことはあるけども…。」
「そういう反応になりますよね…。」
悠仁たちの旅に関与してきている紫ローブは別に珍しい色ではない。着色をすれば誰でも作れるうえに、素材の色が元々紫だったら紫色になるのだから。
「その紫のローブの人物がどうかしたのかい?」
「えぇ…実は…。」
悠仁はこれまでにあった紫色のローブを着た人物についてウェイルに話をする。カインに関与してきたこと。アリーシャで遭った事。それにネイトにカインが危ないと吹き込んだことを。
「…ふむ。確かに面倒な連中に目を付けられているのかもしれないな。特にカプランドであったことはどうにも怪しい。他の二つに関しては…、まぁ人口が多いこのゲーム、酔狂なことをする人物は少なくないからね。」
色々なこだわりや趣味趣向を持っている冒険者が多いのは事実だ。それこそ冒険をしないで鍛冶屋などを開いて冒険をサポートする側に徹しているプレイヤーもいるくらいなのだから。
「ただ我が領内で不審な人物がいたという話を聞いて放っておくわけにはいかないな…。どうしたものか…。」
ウェイルは顎鬚を撫でながら思案している。きっと癖なのだろう。
「よし分かった。」
ウェイルは何かを決断したかのように顔を上げる。
「警備隊にその旨伝えておこう。もし領内で紫色のローブを着ていて、傍目から人相が分からない人物を発見したら軽くとはいえ事情を聞いて、何か分かったら君達に伝える。それでもいいかね?」
「え、えぇ!もちろんです!そこまでしていただけるなんて…。」
まさかの提案に驚いてしまう。しかし、ウェイルの提案により紫ローブの人物について情報が集まりそうで安心をする。
それにしても決断が早い。思案から指示まで、顎鬚を撫でるわずかな間しか挟まなかった。考える時間と動く時間の境目が短い――冒険者として生き残ってきた人間の速さが、統治にもそのまま出ているのだろう。
「いやいや、私にも無関係な話ではないからね。領内を警備するついでだ。…と、せっかくきてくれたのにすまない。ちょっと商人達と会合があってね、これから席を外さないといけない。」
「いえ、こんな時間までとっていただいてありがとうございました。」
「いいんだいいんだ。…そうだ、もう宿は決まっているのかい?」
「いえ、まだここに来たばかりなので宿などはもう全く…。」
街にきて十数分でウィリアムに捕まったので街の構造はおろか宿などどこを選ぶかさえ決まっていない。
「おぉ!そうか!それならここに泊まるといい!部屋なら腐ってしまうほど余っているからね!」
ウェイルはウィリアムの言っていた通り城を貸し出すつもりのようだ。
「いいんですか?お城を使わせてもらって…。」
「あぁ構わない。部屋だけ多くて殺風景だからね、冒険者が出入りしてくれると活気も戻るというものさ。使える部屋の場所はウィリアムに聞くといい。」
少し申し訳ない気もするが無料で信頼できる宿を貸してもらえるということなら蹴らない手はない。
「わかりました。助かります。」
ウェイルがうんうんと嬉しそうに頷いているその時。部屋にウィリアムが飛び込んでくる。
「お話中失礼します!」
「どうした。緊急か。」
ウィリアムは身内の訃報を聞いたかのような顔と勢いでまくし立てるように用件を言う。
「ま、街の西に位置する高原にエリートオークファイターが出現したとの事です!既に住民の1名が死亡し2人が重症だということです!畑仕事をしていたせいで接近に気付かなかったようで…。」
「ふむ…。して状況は。」
「手近の衛兵で対応していますが…、厳しい状況です…。」
「なるほど…西だったな?」
「はい。」
「では、私が出よう。」
「…!?ウェイル様がですか!」
自身の主の急な提案にウィリアムは驚きを隠せない。
「身体が鈍っていたところだ。んー…そうだな…。カイン君だったか?」
「え?俺ですか?」
急に名前を呼ばれたカインがあっけに取られた顔をする。
「君は近接職なのだろう。ちょっと戦い方を見ていくといい。私のは自己流だが、それでも上級で通用した動きだ。」
「い、いいんですか!?」
「あぁ、もちろんだとも。君達はニルヴァーナまで行くのだからそこの盾がどう動くのか、参考にするといい。」
エリートランクのモンスターを相手にするというのに、ウェイルはカインに授業をするつもりのようだ。
「勉強させてもらいます!」
カインは急に出来た師匠に頭を下げる。
「Yuji君たちもくるといい、強い個体一体に対しての動き方の参考にするといい。」
「わかりました。是非見させていただきます。」
「うむ、では行こうか。ウィリアム、厩舎から早馬を全員分。すぐに用意してくれ。」
「わかりました!すぐに!」
ウィリアムは開けたドアも閉めずに飛び出していった。ウェイルは壁に立てかけてある幅広の直剣を取り、腰に据える。
飾り気のない鞘だった。ただ、柄に巻かれた革だけは握りの形に沿って黒く光っていて、この剣が過ごしてきた年月を何よりも雄弁に語っている。執務室の壁の、いつでも手が届く場所に立てかけてあったこと自体、この人がまだ現役だという何よりの証なのだろう。
「よし、じゃあ向かおうか。」
悠仁達はウェイルを先頭に事件の現場へと向かうのだった。




