冒険者ウェイル
――リアッツォ 領主の住まう城
「さて、まずはお礼を言わせてもらいたい。」
座るや否やウェイルから感謝の申し出があった。
「カプランドを救ってくれてありがとう。死者が出たのは痛ましいことだったが、私が出向ければよかったのだが、立場上おいそれとここを離れるわけには行かない身でね…。せめてということで報酬で援助させてもらった。」
ウェイルは心底残念そうな顔をして顎鬚を撫でている。
「いえ、私たちも成り行きでああなったので…。死者が出たのは私も残念でした。」
凄惨な現場を思い出しながら悠仁も顔をしかめる。
「なにはともあれ直接お礼を言いたくてね。ここに呼ばせてもらった。わざわざ足を運んでくれてありがとう。」
重ねて感謝を伝えてくる。
「助けになれたようで嬉しいです。用件はそれだけで?」
「あぁ、いや二つほど考えていることがあってね。」
さすがに領主が城に一介の冒険者を呼ぶのだ。これだけではないと予想くらいはできる。
「まず一つは報酬での礼はあくまで全体へのものであって君達へのものではない。カプランドを救ってくれた直接の功労者に何もお礼をしないというのは領主失格だろう。」
(なるほど、こういうまめなところが信頼が篤い理由かもしれない。)
「なので何か私に出来ることがあれば言ってくれれば出来る限り力になりたいと思っている。」
「なるほど、分かりました。で、もう一つというのが?」
「あぁ、ちょっと世間話をしてほしいのだよ。」
「はぁ…世間話ですか。」
話なんてそこかしこに従者がいるのだからできるだろうに。などと考える。
「立場上中々気軽に話してくれる人間も少なくてね。昔の仲間も死んだか、未だに北で活動をしていてここに来ることは滅多に無い。かといってここを放り出すわけにもいかないからね。カプランドの様子を聞くついでに君達の冒険の話を少し聞かせてもらいたいのだよ。」
こういったことは上に立つ者にしか分からない悩みなのかもしれない。
「はぁ…、そんなことでよろしければいくらでも。」
「おぉ!そうか!それは嬉しい!ウィリアム!いるか!」
「はっ、こちらに。」
ドアの外で待機していたのかウィリアムが中に入ってくる。
「彼等に飲み物を。ついでに何かつまめるものを頼む。」
「分かりました。すぐにお持ちいたします。」
ウィリアムはお辞儀をして退室する。
「さて、では聞かせてくれるかい。」
「面白いものかはわかりませんが…。それでもよろしければ。」
悠仁達はカプランドの様子や、ノワール討伐において何が起きたのか、具体的にどんな被害があったのかヴァリエスタを出発してどんな冒険をしてどのように仲間と出会ったのか。そういったことを出来る限り話した。
話してみて、悠仁は少し驚いていた。順を追って言葉にすると、ばらばらの出来事だと思っていたものが一本の道になって繋がっていく。語る声はときどき仲間の誰かが継いでくれて、一人の報告だったはずのものが、いつの間にか6人の旅の話になっていた。
「…ほう、中々充実した冒険をしているようだね。聞いている私もとても楽しかったよ。昔を思い出すようだった。」
「ウェイルさんは元冒険者なんですよね。どの辺りまで冒険をしたんですか?」
「ん?あぁ、私か。こう見えても結構遠いところまで行ってね。所謂神々の争う地まで行った事がある。」
「本当ですか!?」
噂の中でしか存在しないと思っていた存在が今目の前にいることに驚きを隠せない。
「あぁ、本当だとも。そうだ。これを渡しておこう。」
ウェイルは机に戻り引き出しからプレイヤーカードを取り出し手渡してくる。
「あ、これはご丁寧にどうもありがとうございます。って…えぇ!?」
悠仁のあまりの驚きように一同はウェイルのプレイヤーカードを覗き込む。
「そんなに…っておいおい!聖騎士ってあの複合職じゃねぇか!しかもレベルが62って…。」
「ってことは少なくとも戦士30クレリック30…あぁ書いてありますね。戦士32クレリック31…すごいですね…。」
カインとアリスが驚いている。無理もない。どの職業でも60レベルを超えている冒険者など100人もいないとされている。
「……メイジも30まで上げきって、ソーサラーも取得してる。……これは、すばらしい。」
さすがのステラもこれには感嘆している様子だ。
「ここまで来るとワンマンアーミーできるわね…。」
ミーナは驚きを通り越して若干呆れ顔だ。
「多才なのですね。とてもすばらしいと思います。」
フルールもよくわからないながら凄いのは周りの反応をみて分かっているようだ。
「はっはっはっ!そこまで良いリアクションは久しぶりに見たよ。一応竜狩りなんて言うのもしたからね。」
「竜狩りって…ドラゴンを狩ったことが?」
ドラゴンは様々な環境に適応できるため、北の土地ミーニアや北西に位置するシラット、果ては北東に位置するカティアに生息しているとされている。
「中々手強かったがね…。と、Yuji君の着ているそのローブに施されている金の装飾はもしかしてドラゴンの髭かい?」
「えぇまぁ。ちょっと成り行きで手に入ったんですが、修繕する余裕もなく…。」
「それなら丁度良い。」
そういってウェイルは隣の部屋に通じるドアを開けてすがたを消した後、しばらくして戻ってきた。その手には金色に輝くシルクの束のようなものが握られていた。
「さぁ、使ってくれたまえ。」
「まさかとは思いますけど、それドラゴンの…。」
「あぁそうだ、正真正銘ドラゴンの髭だ。私と仲間達が倒したものなのだから間違いない。」
ウェイルはあっけらかんと言い放つ。
「そ、そんな高価なものいただけません!ボロボロになっている部分の修繕だけで金貨300枚といわれたんです!それは恐らくそれ以上の価値があってもおかしくないのでは!?」
「いやいや、これは使ってくれ。カプランドを救ってくれたんだ。領民を守るのは領主の務め、それを代わりにやってくれた君たちには礼をする必要があるし、何よりドラゴンの髭をいくら積んでも命は帰ってこないんだ。そんな命を救った君達にはこれを使う権利があると思う。」
何を言っても引かないことは目に見えている。
「は、はぁ…そこまで仰るなら…。」
「そうかそうか!是非使ってくれ!倉庫には昔の冒険で得た荷物が沢山あるんだが、もう埃を被ってしまっていてな!こうして使ってやれば喜ぶってもんだ!」
財産を分け与えているにもかかわらずウェイルは本当に嬉しそうだ。
受け取った髭の束は見た目よりも重く、指に絡む一本一本が細い金線のように冷たかった。修繕だけで金貨300枚と言われた品が、埃を被って倉庫で眠っていたのだという。物の値打ちは値段ではなく、誰かに使われることで決まる――ウェイルの嬉しそうな顔は、そう言っているように見えた。
(この人もきっと、冒険が好きなんだろう…。)
この世界で上位に入っている人間は命知らずでもあるのだが、それよりも本当に冒険が好きな冒険者が集まっているのだろう。
「あぁよかった。何かお礼が出来ないかと悩んでいたところなんだ。もちろん他に出来ることがあれば何でも言ってくれ。」
「そうですね…これだけでも十分すぎるのですがいくつかお聞きしたいことが…。」
「ほう、なんだい?私に分かることであれば答えよう。」
驚きの連続であったが、少し気持ちを落ち着けて悠仁はここで聞きたかったことを伝え始めた。
聖騎士 (職業)
神の力を用いて剣戟を放つことのできる近接職。戦士とクレリックの両方を修めていないと習得できない上位複合職。ただの剣技だけでも相当な威力を持つが、魔物に対しての特攻ダメージを発生させることが出来るため、上級ダンジョンに挑む際には非常に有用である。この職業につくだけでも相当な研鑽を積む必要がある。




