温かい。
アルベルトがミモザ村に来て1ヶ月。アルベルトと共に過ごす時間が増えた。
川で石を投げて水面を何度も跳ねさせる遊びをしたり、花畑で追いかけっこをしたり、花冠を作って交換したりした。
「アルベルト様。花冠交換しましょう?」
「そうだな。交換しよう。」
ほーん?花冠交換イベントなのにゃ?
「では、ティアナちゃんは私と交換しましょう。」
「仕方ないのにゃ。」
「ずいぶんな言われようですね。」
「胡散臭いからにゃ。」
「花冠まで胡散臭く見えてきました。」
私?私はエリアスと交換したにゃ。
そして今日はみんなで魚釣りに来ている。
「狙いはキラリマス、ベルリバー、ミモザサーモンにゃ」
「ミモザサーモンはごちそうなの!」
「ミモザサーモン……この土地特有の魚か?」
「はい、ミモザ村周辺でしか獲れない魚で、特産品にもなってますね。」
みんなの狙いがミモザサーモンに決まった。
正直なところ、釣りって暇。
いつもならアリアとおしゃべりしながら、糸が引くのをのんびり待つ。
でも今日はアルベルトとエリアスがいる。
二人は釣りをするとき、おしゃべりしても平気なタイプなんだろうか。
チラッとアリアを見ると、ちょうど目が合った。
きっと同じことを考えていた。
わかる。
「……」
「……」
誰もしゃべらない。
静かだ。
やっぱりダメなのかな?
私はアリアに小声で話しかけた。
「暇なのにゃ」
「うん……」
「釣りって待つ時間長いにゃ」
「そうだね……」
すると。
「構いませんよ。」
エリアスが振り返らずに笑う。
「大声を出さなければ、おしゃべりくらいは。」
「本当?」
「魚はそこまで神経質ではありません。」
ティアナとアリアは顔を見合わせる。
「やったにゃ!」
「やった!」
アルベルトも小さく笑った。
「静かにしていなければならないものだと思っていた。」
「私もにゃ!」
「あ、アルベルト様!」
「引いてるのにゃ!」
「ど、どうしたら?」
「アルベルト様、落ち着いてくださいね?まずは…」
エリアスの助けを借りながら、アルベルトはゆっくりと竿を引き上げた。
水しぶきとともに、一匹の魚が陽の光を受けてきらりと輝く。
「キラリマスにゃ!」
「綺麗だな……銀鱗鱒ではないのか?」
「長いからキラリマスにゃ!」
「そうか。なら仕方ないな。」
アルベルトはおかしそうに笑った。
◇
パチ…パチ…パチ……
釣り上げたベルリバーを手早く下処理し、串に刺す。そして塩を適量振りかけ焚き火を囲むように串を斜めに刺した。
「手慣れてますね。」
「釣った魚がおやつの日もあるにゃ。」
「なるほど。」
「猫だからか?」
「猫ですからね?」
「猫だからなの?」
「猫は肉食なのにゃ!」
ともかく、釣りたて焼きたての魚は美味しいので是非2人にも食べてもらいたい。特にアルベルトは初めてなんじゃないかな?
「アルベルト様はこういう魚の食べ方は初めてなのにゃ?」
「そうだな。釣りたての魚を焼きたてで食べることは、まずない。」
「それなら絶対食べなくちゃ!すごく美味しいよ!」
「滅多にない機会ですからね!私もお勧めします!」
「そうか。楽しみだな。」
アルベルトの頬が紅潮しているのは焚き火の明かりだけではない気がした。
たわいもない話をしているうちに、魚が焼き上がった。
あたりには魚の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
みんなそれぞれ串を取った。
「いただきます」
四人は焼きたてのベルリバーにかぶりつく。
皮は香ばしく、身はふっくらとしていた。
アルベルトは一口食べて、少し驚いたように目を見開く。
「……温かい。」
ティアナは首をかしげる。
「焼きたてだからにゃ?」
アルベルトは微笑む。
「それだけじゃない。」
アルベルトは更に一口食べて、小さく頷いた。
「ああ。本当においしい。」
ティアナは嬉しくなって、尻尾を大きくゆっくりと揺らした。
◇
「そういえば、秘密基地はもう一箇所あるのにゃ!」
「今、秘密は秘密じゃなくなったよ!」
「はわわ…。」
アルベルトにもう一つの秘密基地の話をうっかりしてしまった。お腹いっぱいになると口が軽くなることあるよね?
「もう1つの秘密基地も案内してもらえるんです?」
「ぜひ、案内してくれ」
「でも狩猟小屋は少し危ないよ?」
「危ないとは?」
エリアスの目が光り、心なしか空気が重くなる。
「割れたガラスとか折れた木材が危険なのにゃ」
「あぁ、なるほど」
エリアスの圧が消えた。
この人…胡散臭いけど多分すごく強い。
「雨の日は切り株の秘密基地だと濡れちゃうから狩猟小屋に行くの。」
「古い地図とかランプがロマンなのにゃ!」
「今は誰も使ってない小屋なの。」
「なるほど。古い地図ですか。それはぜひ拝見したいですね。」
「胡散臭いにゃ。」
「またですか。」




