ようこそ!ミモザ村へ!
「来たよ!」
「今行くにゃ!」
ミモザの花が満開になった頃、とうとう第三王子が村にやって来た。
家を出て大通りに行くと、すでに人だかりができていた。
「よく見えないね」
「チビスケだから仕方ないにゃ」
「おや、おチビちゃんたち前においで」
「おチビちゃんたち前にいらっしゃい」
「「ありがと(なのにゃ)!」」
親切な村の大人たちに列の前に出してもらうとそこには今まで見たこともない豪華な馬車。その後ろには護衛や使用人を乗せた馬車が何台も続いていた。
「王子様見えなかったね」
「すごい馬車なのにゃ」
馬車はそのまま村の奥にある屋敷へと向かっていった。
「また明日にゃ」
「うん…」
「ウェルカムボードでも作ってみるかにゃ?」
「ウェルカムボード?」
花畑で花を摘み、森で木の実を拾う。大きな板とリボンをママにもらった。
「ようこそ!ミモザ村へ!でいいかな?」
「バッチリなのにゃ」
「ここはお花にしよう!」
「リボンもつけるのにゃ」
朝一で第三王子が見つけられるようにちゃんと大人に話をしてウェルカムボードを敷地内に設置した。
◇
——朝。
まだ少し眠そうなアルベルトがカーテンを開ける。
ふと窓の外を見る。
そこには。
『ようこそ! ミモザ村へ!』
花と木の実で飾られた、小さなウェルカムボード。
アルベルトは目を丸くした。
「……これは?」
執事が優しく答える。
「村の子どもたちが作ってくださったそうです。」
「子どもたちが……?」
アルベルトはしばらくボードを見つめる。
そして。
ほんの少しだけ微笑んだ。
「笑った」
「笑ったにゃ」
二人は顔を見合わせ、小さく笑い合う。
「帰ろっか」
「競争にゃ!」
元気よく駆け出す二人。
アルベルトは、その小さな背中が見えなくなるまで静かに見送っていた。
◇
「王子様の名前はアルベルト様っていうんだって」
「ほーん?」
知ってるにゃ。
そのうちアリアはアルって愛称で呼ぶようになるよ。
森からの帰り道にそんな話をした。
「あ、アルベルト様だ!」
護衛を連れたアルベルトが歩いている。
散歩かな?
「「こんにちはアルベルト様!」」
ちょっと驚いた顔をしたけどすぐに微笑んで返事をしてくれた。
「こんにちは」
「お散歩ですか?」
「あぁ、せっかく美しく自然豊かな場所に来れたのだから屋敷にいるのは勿体無いと思ってね」
「花畑が綺麗だよ」
「川も綺麗にゃ」
ティアナはカゴを持ち上げた。
中には摘んだ花がいっぱい。その横ではアリアが両手で大きな魚を得意げに掲げている。
「これはすごいね!」
「明日なら案内します」
「森には秘密基地があるのにゃ!」
「……たった今、秘密基地じゃなくなった」
アルベルトの隣にいた青年が、にこりと笑った。
「殿下、秘密基地にご招待いただけたようですよ。」
狐顔だ。
胡散臭いにゃ。
「違うにゃ!」
「ティアが秘密って言っちゃったから!」
「はわわ……」
「安心してください。秘密は守るのが得意です」
「胡散臭いにゃ」
「初対面でその評価はなかなかですね」
青年は困ったように笑った。
「私はエリアスと申します」
「ティアナにゃ」
「アリアです!」
「可愛らしいお嬢さんが二人も」
「やっぱり胡散臭いにゃ」
「えぇ……」
アルベルトが声を出して笑った。
◇
翌日、ティアナたちは森の入り口に集まった。
「今日はエリアスだけで他の護衛はいないのにゃ?」
「はい、他の者には屋敷で待機してもらっています。秘密基地の場所を知るのは少人数の方がいいでしょう?それに、こう見えて私…強いんですよ」
エリアスがウィンクを飛ばす。
「アルベルト様、これ。魔物よけの鈴」
「ありがとう」
「エリアスの分もあるにゃ」
「……備えがあるのは良いことです」
魔物よけの鈴を付けて森に入る。エリアスのウィンクは流された。
しばらく歩き、背の低い若木の群生地帯で立ち止まる。
アリアが枝をかき分ける。
「こっちだよ!」
木々が自然に作った小さなトンネルをくぐる。
少しだけ前屈みになり進んで行く。
いつもここを通る時はワクワクしてつい小走りになってしまう。今日も例外ではない。
「もう少し!」
その先には。
ぽっかりと開けた空間。
木漏れ日が降り注ぎ、色とりどりの花が咲いている。
真ん中には大きな切り株。
「ここが秘密基地なのにゃ!」
◇
「すごいな…」
アルベルトは秘密基地を見回して感嘆の声をあげる。
少し遅れてエリアスが到着する。
「ほぅ…これは」
「この切り株が机になるの!」
「おやつ食べるにゃ!」
バスケットの中からママが作ってくれたおやつを取り出す。
「あぁ、それはおやつだったんですね。こちらでもおやつを持ってきたので一緒に食べましょう」
「お城のおやつ?」
「シェフのおやつにゃ?」
「はい、お城のシェフのおやつです」
「「おー!」」
ティアナは目を輝かせる。
「シェフのおやつ楽しみにゃ!」
アリアも何度も頷く。
アルベルトはそんな二人を見て、思わず吹き出した。
「ふふっ……」
そして。
アルベルトはまた声を出して笑った。
バスケットを開ける。
「わぁ!いっぱい入ってる!」
「多いな」
「私たちの分でしょうか?」
「人数が増えるかもしれないから、多めに作っておいたって言ってたのにゃ!」
みんなにパイを配る。
「「「「いただきます!」」」」
みんな笑顔でパイにかぶりつく。
「おいしー!」
「あたたかい味がするな」
やっぱりママのパイが世界一なのにゃ!
「素敵なお母様ですね」
「えっへん!なのにゃ!」
エリアスはくすりと笑い、アルベルトも優しく目を細めた。
木漏れ日の下、秘密基地には穏やかな笑い声がいつまでも響いていた。




