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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第五十四話



 どれだけ鳴り止まない電話の呼び出し音があっても。


 一般業務は行われるものである。


「…………」


 ガシャリと、電話を切る。


「(……定期の備品チェックの時……葵先輩に、話しかけて……)」


 初めて出会った頃……いや、それ以上に距離を感じる葵の言動。


 コツコツと積み上げて来た、高い塔が壊れたような感覚。


「(だが……何を話せばいい……?)」


 葵の性格上、例えどんなに気不味くとも、業務に私情を挟むことはない。


 確実に、葵と接触できるはず……


「犬飼さーん!

 備品チェックに行きますよー!」


「は……?」


「"は?"じゃありませんよ!

 さっさと行きますよー!」


 体格の良い彰良の後ろ首を掴んで引きずって行こうとする華乃。


「いや……備品チェックは……!」


「今日から私の担当なんで、安心してください!

 ぶっちゃけ、私にはああいう電話対応は向かないみたいなんですよねぇ」


「まっ……!

 引きずって行こうとするなっ……!」


「引き摺られるのが嫌なら、さっさと歩いてくれます?

 …………図体だけデカい躾のなってない馬鹿犬を引き摺って散歩する趣味はないんですよ。」


 ギャーギャー騒ぎながら総務課より出て行く華乃と彰良。


「「「………………」」」


 仕事で席を外している葵以外の総務課一同。


 いつものことか、と遠い目をして見送るのだった。





 会社の地下にある薄暗い備品室。


 扉を開けたと同時に、彰良の尻を蹴り上げ、華乃は室内に蹴り込んだ。


「それで?」


「……人を蹴りつけた奴の第一声がソレか?」


「あら?

 蹴り飛ばされる理由もわかんないの?」


「…………っ」


 ぐうの音も出ない。


「だんまり?

 葵先輩、泣いてたけど?」


「っ……言い訳は、しない。」


「言い訳を聞いているんじゃないの。」


 カツンっとヒールの音を鳴らす。


「何をしたかって、聞いてんのよっ!」


 彰良のネクタイを掴み、ガン付ける。


「…………嫉妬して、触れようとして……泣かせてしまった……」


「っ…………ふっっざけんなっ!!」


「ぐっ……」


 彰良の巨体が揺れる。


「っ……アンタは!

 葵先輩がっ!

 男を怖がってるって分かってたクセにっ!

 ふっざけんじゃねえっっ!!」


 爪が皮膚に食い込む程に、握り締めた拳。


「…………っ」


 華乃の拳がめり込んだ頬。


 唇の端が切れて血が流れる。


 俯き、口の端を手で乱暴に拭う。


「……しかもさ、アンタ……勘違いしてない?」


「何を……?」


「葵先輩が、アンタから離れた理由。」


「っ……?!」


 冷たい華乃の言葉に、彰良は顔を上げる。


「空気になっちゃったんだって。」


「空気……?」


 華乃が何を言いたいのか、彰良には分からない。


「一緒にいるのに。

 目の前にいるのに。

 顔を逸らされて、目も合わなくて……そんなの、居ても、居なくても、一緒じゃない。」


「っ……?!

 ちがっ……それは……葵先輩を守るためで……」


「守ろうとして泣かせたら意味ねえだろ。

 つーか、マジでムカつく。

 可愛い華乃ちゃんで通してんのに、元ヤン出ちゃったじゃん。

 マジ巫山戯んなよ、クソ負け犬野郎。」


「っ…………」


 華乃の罵倒に言い返せない。


「あ゛あ゛っ?

 いつもみたいにキャンキャン吠えることも出来ねえの?

 マジ萎えるんだけど!」


 舌打ちをする。


「……まぁ、いーけどね。

 私はぁ、明後日さ……葵先輩と水族館デートの約束をしたんだよね!」


「っ……それは……」


「こわ〜い駄犬に噛み付かれかけて、傷付いて泣いている葵先輩を慰めるの。」


 ニヤリと冷たい……挑発に満ちた笑顔。


「泣いてる葵先輩の心も……もちろん、体もぜーんぶ慰めちゃうつもり。」


「っ……弱みに漬け込むつもり……」


「誰が傷付けたのよ?」


「っ…………」


 華乃の言葉に、一瞬だけ声を荒げるが……語尾は小さく消えていく。


「明後日はね、すみだ水族館に行って、それからお台場海浜公園のコースかな?

 ふふっ……今からめっちゃ楽しみだわ!」


「……俺に、ソレを言って邪魔をするとは思わないのか?」


「あらら?

 邪魔をする元気があるの?

 ……葵先輩に向き合えずに、尻尾を巻いて逃げてる弱〜いお犬様?」


「…………」


 華乃は華やかに、意地悪く笑う。


「じゃーね、お犬様。

 私、コレでも忙しいんで、あとよろしくお願いしまーす!

 ……ま、頭を冷やさなきゃいけない負け犬にはちょうど良いんじゃないですかぁ?」


「っ……」


 言い返せない。


 彰良は一人、拳を握りしめ……立ち尽くすのだった。


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