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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第五十話



 ホテルのような洗面所。


 大きな鏡を前に湿った髪の毛を乾かす。


「……まさか……二度目があるなんて……」


 自分で決めたとはいえ、彰良の家に泊まらせてもらうことになった事実に少しだけ戸惑う。


「…………そうだ……寝る場所……どうするのかな……?」


 流石に、家主である彰良から三回もベットを奪う気はなかった。


「……部屋の隅っこか、ソファをかしてくれるかなぁ……?」


 ふわふわとそんなことを考えながら、洗面所をあとにする。


「彰良くん、ごめんね。

 シャワー、先に頂きました。」


「あお……い、せんぱい……」


 しっとりと水気を含んだ髪。


 グレージュのゆったりとした部屋着。


 長袖、長ズボンだが、ゆったりとしたシルエットが、葵の華奢な体をより際立てる。


 首周りも大きめにデザインされ、綺麗な鎖骨が惜しげもなく見えている。


「……すみません……自分もシャワーを浴びてきます……!」


「……?

 なんか……急いでたみたい、だけど……そんなに、シャワーを浴びたかったのかな?」


 葵の横を洗面所へ飛び込むように入った彰良。


 その背中に、葵は首を傾げてしまうのだった。




 シャワーを頭から浴びて、前髪を掻き上げる。


「……はやまった、か……?」


 十代の少年のように。


 好きな女の風呂上がり。


 部屋着姿に赤面してしまった自分。


「…………月曜日まで……持つ、か?」


 ギリギリの綱渡りな理性。


 手を出していないことが奇跡とすら言える。


 だが、それでも……


「……帰したくなかった……」


 どうすれば自分を男として、意識してもらえるのだろうか?


 ……未だに、その答えは見つからない……。 



 さっさとシャワーを済ませ、乱雑に髪を拭う。


「お待たせしました、葵先輩。」


「あ……おかえ……っ?!」


 髪を拭くためのタオルの隙間から覗く鋭い瞳。


 ポタリと前髪から落ちる雫。


 胸元が微かに覗くヘンリーネックの長袖カットソー。


 露出は決して多くない。


 多くないはずなのに……溢れ出る男の色香。


「…………」


「……葵先輩?」


「……なっ……なんで……彰良くんは……そんなにっ…………色っぽい、の……?!」


「……は?」


 顔を真っ赤に染め上げて、挙動不審な様子の葵。


「れ……恋愛にも、結婚にも、興味の無い……。

 しかも、お兄ちゃん達で男の人の裸なんて、見慣れてるはずの私が動揺する……彰良くんの色っぽさ……」


「…………」


 彰良の片眉がピクリと動く。


 葵本人は彰良の色気に混乱し、半分以上は何を言っているか分かっていない。


「……見慣れているんですか?」


「う……?」


 覆い被さる。


「……あき、ら……くん……?」


「見慣れているんですか……男の裸。」


 不機嫌そうに、細まった瞳。


 低くなる声音。


「葵先輩も、見せているんですか?」


「な、なにを……?」


「おや……わかりませんか?

 葵先輩の……裸を、ですよ。」


「っ…………?!」


 髪を一筋、掬い上げ……葵を見つめたまま、髪に口付ける。


「ひゃ……な、な……」


 顔に熱が集中する。


 動揺した唇は、言葉にならない。


「……俺が……」


 理性がひび割れ、剥がれかける。


「俺が……葵先輩の裸を見たいと、言ったら……どうする?」


「っ……?!」


 普段とは違う彰良の言葉遣い。


 葵は息を呑む。


「(……あ、きらくんは……だいじょ、ぶで……ちがっ……あきらくんは…………あきら、くんは……)」


 瞳が揺れる。


 心が揺さぶられる。


 体が固くなり、呼吸が浅くなる。

 

「(……おと、この……ひっ…………こわくな、だいじょ………わたっ……にげたっ……にげない、って……)」


 血の気が引く。


 指先が冷たくなる。


 視界が赤く染まる。


「っ…………葵、先輩!」


「いっ、ゃだっ……?!」


「落ち着いてっ、落ち着いてください……!」


 小刻みに震える体を抱き締める。


 浅く息を吐き、弱々しい抵抗。


 焦点の合わない瞳。


「ゃっ…………や、だっ!

 あ、きらくっ………あきら、くんっ……たす、けっ………」


 見開いた目から涙が溢れる。


 目の前の"男"から離れたい。


「っ……葵先輩!

 自分です! 彰良です!

 もう、大丈夫ですからっ!」


「っ…………あ、きらく…ん……?」


「はい……自分、です……」


「…………あきら、くんだ……」


 瞳の焦点が定まる。


 不安と焦燥に揺れる瞳と視線が合う。


「……よかっ……た……」


「葵先輩っ?!」


 安心と同時に体の力が抜け落ちる。


 ゆっくりと閉ざされていく瞳。


 …………葵の意識は闇に沈んでいった。


「……葵、先輩……っ……」


 声に後悔が滲む。


 分かっていたはずなのに…………。


 嫉妬に駆られて、踏み越えてはいけない境界線を踏んでしまった。

 

「…………すみません……葵、先輩……貴女を、傷付けてしまった……」


 声に悔恨が宿る。


 細い体を抱き上げ、寝室のベットに横たわらせる。


「……どうか、良い夢を。」


 夢の中では泣かなければいい。


 深い後悔に苛まれ、拳が白くなるほどに握り締める。


「…………」


 くだらない嫉妬に駆られた馬鹿で最低な男を、殴り殺してやりたい。


 ……夜明けまで、まだ遠い。


 だが、彰良は後悔に眠れる気がしなかったのだった。


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