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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第四十八話



 ゆっくりと太陽が傾く。


 太陽の傾きと比例して、気温も下がり始める。


「……あったかい……」


 出汁の香りと共に立ち上がる湯気。


「……温かいですね」


 奥多摩湖の側にあるお土産屋さん兼食事処。


 葵と彰良は遅い昼食を摂っていた。


「彰良くんは、私と同じ山かけ蕎麦だけで良かったの?」


「……あまり食べ過ぎると、夜が入らなくなります。」


「そっか……もう、三時のオヤツの時間だもんね。」


 熱い蕎麦を啜る二人。


「……でも、彰良くんは大きいから、肉うどんとか、肉そば……天ぷらとか……?

 そっち系を頼むかと思ってたの。」


「……特に好んでいるトッピングは有りません。

 それよりも、葵先輩の好きな物を食べてみたかったので。」

 

 スルスルと山芋が絡んだ蕎麦を啜る。


「山かけ蕎麦は初めて?」


「はい」


「普通のお蕎麦も好きなんだけど……寒い日の山かけ蕎麦ってホッとするの。」


 ふわりと微笑む。


 蕎麦の上に浮かぶとろろ芋。


 黄色い卵。


 蕎麦に絡んで、ほわりと漂う鰹出汁。


「……ほっとする味ですね。」


 柔らかく微笑む葵の笑顔に和み、蕎麦をもう一口啜り……


「そうなの。

 それに、精が作らしいから。」


「っ……ぐっっ?!

 …………ごほっっっ?!」


 噎せた。

 

 いま……葵はなんといった……?!


「っ?! 彰良くんっ?!

 えっ……だ、だいじょうぶ?!」


「だ、大丈夫……で、す……っ……」


「お水……」


「あっありがとう、ございます……!」


 何度も咳き込み、葵から手渡された水を飲む。


「…………葵、先輩……あの、意味が分かって……言ってます、か……?」


「意味……?」


「あの、精がつくと……」


「……?

 ああ、あれは疲れている時に食べると元気になるってことでしょう?」


 不思議そうな葵の眼差し。


「…………」


 何も言えなくなる。


「彰良くん?

 山かけ蕎麦は苦手だった?」


「いえ……山かけ蕎麦には、問題ありません……」


「…………?」


 噎せて疲れたのか、彰良の大きな体が塩を振った青菜のように見えた。


「……無理してない……?」


「…………大丈夫……で、す……」


 言えるはずがない。


 何の含みも無い、葵の純粋な言動に理性の限界を試されているなど…………言えるはずがなかった。




 食事処を出て、車へと戻った二人は帰宅の途につく。


 冬の足音が聞こえてくる、この季節。


 山間部と言うこともあり、辺りはもう薄暗い。


「(…………ちょっと、眠いかも……)」


 静かな車内。


 お腹も丁度よく満たされ、薄暗さも葵の眠気に拍車を掛ける。


「(……なにか……喋って、眠気を覚まさなきゃ……)」


「……葵先輩、眠いですか?」


「…………へいき、だよ。」


 眠い目を擦り、答える。


「無理、しないでください。」


「……眠いけど、彰良くんに運転を任せているのに……私だけ眠るのは……」


「構いません。

 自分は、運転は嫌いではありませんから……」


「でも……」


 眠い頭で考える。


 車を出して貰い、運転までして貰ってる。


 ……ガソリン代……払わなきゃ……


「葵先輩、疲れたでしょう?

 ……無理をしないでください。」


「うっ……がんばって、おきてる……けど、眠っちゃったら……ごめんね……」


「はい」


 再び車内に静寂が戻る。


 運転する彰良の衣擦れだけが聞こえる。


「…………葵先輩?」


 すぅ、すぅ……と静かな寝息。


「(……眠ったか……)」


 葵が眠ったことに気が付き、チラリと時計を見る。


「(行楽シーズン、土曜の夕方……八王子JCT周辺は渋滞する可能性が高い。

 ……一度、トイレ休憩でSAに寄り、時間を調整すれば…………到着時間は二十時頃、か?)」


 計算する。

 

 時間を調整し……引き止める口実を作る。


「…………」


 彰良は車を進める。


 だが……その速度は、心無しかゆっくりだった。




 彰良の予想通り、渋滞を始めた帰り道。


 高速の道路の途中。


 渋滞にはまる少し前に目が覚めた葵。


 ……結論として、二人が都心に戻ったのは……ほぼ彰良の予想通りの時間だった。


「……彰良くん、たくさん運転してもらってごめんね。

 すごく疲れたでしょう……?

 私も寝ちゃって……話し相手にもならなかったし……」


 安心感と静かな空間。


 簡単に値落ちしてしまった自分。


「(こんなの……子供扱いされても、文句も言えない……文句なんて言わないけど……)」


 恥ずかしさと情けなさに落ち込む。


「……いえ、自分こそ……すみませんでした。

 葵先輩の時間を頂いていたのに……渋滞すら予測せずに連れ回してしまって……」


「渋滞はしょうがないことだもの。

 それは、彰良くんのせいではないし……。

 彰良くんとだったら……渋滞でも、苦じゃないもの。」


「っ…………ありがとうございます。」


 葵の微笑み。


 少しだけ罪悪感が湧く……が、目を背ける。


「葵先輩……このまま、ご自宅へ送りましょうか?」


「え……そこまでして貰うのは申し訳ないから、近くの駅で降ろし…………あ……」


 彰良の言葉に、葵はあることに気が付く。


「……どうされました?」


「……彰良くん……ごめんなさい……」


「葵先輩?」


 分かっている。

 

 このまま……帰れない理由があることは……


「その、一度彰良くんのお家に行ってもいい?

 私……鞄とか全部、持ってきてない……」


「……そうでした……。

 すみません、自分がもっとしっかりとしておけば……」


「ううん……私がうっかりしてたから……。

 (……彰良くんが相手だからかなぁ……?

 普段よりも気が抜けてるっていうか…………これ以上、迷惑をかけないように気をつけなきゃ……)」


 自分のうっかり具合に、小さな溜息をこぼす。


「葵先輩、このまま一度自分の家に向かいますね。」


「ごめんなさい……また、お邪魔します。

 でも、荷物を取ったら、今度こそすぐに帰るから……彰良くんも、疲れているだろうし……」


「……気にしないでください。

 自分は……葵先輩ならば、家にいてくれると……嬉しいです、から……」


「うぅ……彰良くんが優しい……。

 本当に、ありがとう……彰良くんが、うっかりの相手で良かったです……。

 もともと、あんまり頼りにならない先輩だったけど、最近は輪にかけてダメね。

 ……月曜日からは、絶対に忙しくなるし……もっと頑張りますね。」


 微笑む葵に、彰良も微笑み返す。


 車は一路、彰良の自宅を目指すのだった。


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