第四十五話
たくさんの車が並ぶ駐車場。
入っては、出ていく……車の群れ。
「SAって…………なんでワクワクするんだろう……?」
唐揚げ、フライドポテト、ソフトクリーム、肉まん。
友人、恋人、家族。
楽しそうに、嬉しそうに過ごす人々。
「……自分には、分からない感覚ですが……」
SAを楽しむ人々に目を細める。
「……気に入ってもらえるか、わからないけど……私の好き、に付き合ってくれます……くれる?」
「……葵先輩に、教えて頂けるならば……理解できるかと。」
「……なんか、責任重大?」
「そうでもないかと。」
クスクスと笑う葵に、彰良も微笑み返す。
「……葵先輩、手を……繋ぎませんか?」
「う、うん……えっと、お邪魔します……?」
ぎこちない仕草で差し出された手を取る。
「何故……お邪魔します?」
「……手を繋ぐときの挨拶がわからなくて……」
「……昨日、手を繋いだ際は……挨拶をした覚えがないのですが……?」
「……そう言えば……」
はたと気づく。
「…………」
「…………」
クスクスと何方ともなく笑ってしまう。
「葵先輩、車が来ます……此方へ。」
「あ、りがとう」
自然な仕草で葵は彰良に引き寄せられる。
昨日よりも近い……二人の距離。
「……行きたい場所は……店内、ですか?」
「うん」
周囲を警戒する小動物のように、葵は視線を走らせる。
「あ……」
「…………?」
店内の一角、お土産コーナー。
何種類ものお土産が、所狭しと並んでいる。
「色んなものが有りますね。
あ、定番のアレも有りますし……白黒も可愛い。」
「…………ぱんだ?」
「コレも……きな粉が美味しくて、父も好きなんです」
「(…………葵先輩の家族はコレが好き。)」
「此方のチョコレートのクランチも美味しいですよね。
わー……いろんな味があります……!」
「……葵先輩は、何味が好きですか?」
「私……?
私は、普通のが好きです。
他の味も美味しいですが……このお菓子に限らず、チョコレートは普通のミルクチョコが好きなんです。」
照れたように笑う。
「彰良くんは、好きなお菓子はありますか?」
「……食べたことがある……気はします。
ですが……味までは、記憶していません。」
「……チョコレート……好き?」
「……嫌いではありません。
しかし、自分で買って食べる必要性は感じません。」
「…………」
ジッと彰良を見詰める。
「葵先輩……?」
キョロキョロと周囲を見渡す。
一つの箱へ手を伸ばす。
「……彰良くん、少し待っててもらっても良いで……いい?」
「葵先輩、買うならば自分が……」
「……やだ。
これは、私が自分用に買うの。」
「("やだ"って……何故、葵先輩が言うと可愛くなるんだ?)」
無言を肯定と受け取ったのか。
葵はレジへと向かい、会計を済ませる。
「お待たせしました。
彰良くんは、何か買いますか?」
「いえ、自分は大丈夫です。」
店の外に出れば、漂ってくる美味しそうな香り。
思わず葵は、売店のメニューを見てしまう。
「……何か、食べますか……?」
「ひゃ……?!
えっ、えっと……」
「(……可愛いが過ぎる鳴き声は……ワザとなのか……?)」
赤面しそうになる顔を、理性で押し留める。
「……彰良くんは、肉まんって……食べたことありま、ある?」
「…………ありません。」
「そっか……ちょっと待っ……」
「何処に行くんですか?」
彰良の返事に、躊躇うことなく歩き出そうとした葵の手を掴む。
「ん……?
何処……自分用に肉まんを買いに行こうかと思って……」
「……自分が……」
「やだ」
「…………」
何か言いたげな視線。
「……一緒に、行く?」
「はい」
彰良の視線に負けた葵。
「彰良くん、こっち……!」
「…………」
肉まんとチョコの紙袋を片手に、彰良の手を引いて歩く。
「ここ、座って」
空いていたベンチに彰良を誘導する。
「…………。
(……肉まんを此処で食べたいのか……?)」
大柄な彰良が腰掛ければ、ベンチの半分以上が埋まる。
その横にちょこんと腰掛け、肉まんをゴソゴソと取り出す。
「(……今までの葵先輩の性格上、こういう場合は俺の分も買うと言い出すと思ったんだが……?
俺の分もと言われれば、支払いをする理由を付けやすい。)」
葵の行動原理が分からず首を傾げ、観察する。
「(……素の言葉使いを、と誘導してから……行動に変化がある。
恐らく、こっちが葵先輩の本来の人格に近いはず。)」
会社で目にしていた"葵"よりも、目の前にいる素に近い"葵"は、何処か幼く見えた。
「ほっか、ほか……!」
ほのかに湯気が立つ肉まん。
その熱さすらも嬉しそうに瞳を輝かせ、半分に割る。
「……はい」
「……………はい……?」
半分になった肉まんの片方が差し出される。
「うん……はい、どうぞ」
「…………自分用、では?」
目を丸くする。
葵が差し出した半分になった肉まん。
「彰良くん……肉まんは、半分こする方が美味しいの。」
「…………」
「美味しいものって、大切な人とわけっこする方が美味しいよ。」
「……っ…………!」
一瞬の間。
言われた言葉を理解する。
一気に頬に熱が集まる。
「(っ……俺、は……葵先輩の、大切な人に……分類されている……!)」
恋愛的な意味ではないかもしれない。
だが、葵の大切な人の枠に彰良が収まっている。
その事実に歓喜する。
「……食べないの……?」
半分の肉まんを手に固まった彰良。
何時までも食べない彰良に、葵の瞳が不安げに揺れる。
「いただきます……!」
躊躇うことなく齧り付く。
熱い具が溢れ出す。
「……ほかほか、ですね……」
「ね? ほかほかでしょう?」
一足先に肉まんを食べ終えた葵は、紙袋からチョコレートクランチの箱を取り出す。
できるだけ綺麗に包装紙を剥がす。
「はい、彰良くん」
「…………?」
「お裾分け」
「……自分用に、と……」
「うん。
自分用に買ったから、彰良くんにも食べてほしいなって、思ったの」
ふわりと微笑む。
「私の"好き"知りたいって……言った、よね……?」
悪戯が成功した子供のような笑顔。
「っ…………?!」
「私の"好き"……試してくれる……?」
照れくさそうに微笑む葵に……見惚れてしまう。
「……それ、は……卑怯です……!」
まさかの反撃。
何処まで意図したのかは……分からない。
だが、完璧にしてやられた。
「…………甘い、です……」
敗北感ではない。
チョコレートの味すらしない。
……味はしなくとも、心の中に甘さと温かさが広がっていく。
「…………自分も……肉まんと、このチョコは……好き、だと思います……」
「よかった……!」
味などしない。
味はしないが……葵の好きが詰まった味、温かさを彰良は感じていたのだった。




