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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第四十三話



 黒い大理石風の壁。


 湯垢一つなく光輝くタイル。


「……私の部屋と同じくらい……広い気がする……」


 シャワーの蛇口一つ捻るのに、壊さないかと躊躇う。


 恐る恐るシャワーを浴び終えた葵。


「……でも……彰良くんに、服のサイズを教えたっけ……?」


 首を傾げる。


「あ……フリーサイズだ……」


 渡された服が全てフリーサイズだったことに安堵する。


「……うん……もし、私のサイズピッタリだったら……怖かったかも……」


 そそくさと着替え、髪を梳かす。


「……彰良くん、シャワーをありがとうございました。」


「………………」


「あ、彰良くん……?」


 アイボリーの緩めニット。


 くすみピンクのロングスカート。


 綺麗な鎖骨。


 細い首筋。


 華奢な体。


「……やっぱり……似合いませんよね。

 私には可愛すぎま……」


「似合います……似合い過ぎて、困ります……」


 顔を動かす度に揺れる髪。


 普段以上に細く、女性らしい装い。


「とても……綺麗、です……」


「……ありがとう、彰良くん……お世辞でも、嬉しいです……」


 顔に掛かった髪を細い指先が掬い、耳に掛ける。


 チラチラと隠れていた細い首筋から、胸元までのラインが露わになる。


 ……首筋を辿り、鎖骨の下まで……華奢な体を想像してしまう。


「っ…………!」


 微笑む葵を。


 華奢な体を。


 この腕に抱き締めて……


「……葵、先輩……すみません……。

 自分も……着替えてきます……!」


 返事を待たずに寝室へ足早に移動する。


「……っ……似合い、すぎ……だろっ…………!」


 寝室で座り込み、頭を抱える。


 大きく息を吐きだす。


 頬に集まる熱を冷ます。


「……やっぱり……俺ばかり……卑怯だ……。

 (……以前よりは、意識して貰えている……と……思うが……。

 もっと……俺のことを、男として……見てほしい……。

 だが……そうすると、葵先輩は怖がって逃げてしまうし……。

 ……少なくとも、格好良いとは思ってもらいたい……!)」


 彰良はクローゼットを開ける。


 必要最低限しか揃えていない服。


「…………葵先輩の……好み……」


 まるで獲物を狙う狼のように。


 少しでも葵を魅了出来るような服装を、彰良は真剣に考える。


「…………」


 暫し考えた後に、手に取った服に着替え、リビングへの扉を開ける。


「彰良く、ん…………っ……!」


「葵先輩、お待たせしました。」


 黒いハイゲージニットから覗く逞しい首筋。


 チェスターコートを靡かせる。


 大柄で鍛えられた体。


 広い肩幅。


 厚い胸板。


「(っ…………!

 露出が少ないのにっ!

 なんか、異様に色っぽくて!

 格好良いのは、なんでっっ?!)」


 見惚れてしまう。

 

 頬が熱い。


 心臓が高鳴る。


「葵先輩……?」


「っ……?!」


 止まっていた息。


 ビクリと揺れる肩。


 どうして良いのか分からず、ヘナヘナと座り込んでしまう。


「葵先輩っ?!

 な、何が……取り敢えず、横に……!」


「ひゃっ……?!」


 有無を言わさず横抱きにされる。


 彰良が触れた場所が熱い。


「先輩、葵先輩……?

 しっかりしてください……!」


「っ……だっ!

 だい、じょうぶ!

 大丈夫だから……お、落ち着いて……!」


 ソファにゆっくりと下ろされる。


 覆いかぶさるように顔を覗き込まれ、視界が彰良だけになる。


「……っ…………うあっ…………」


「葵先輩……何か、持病でも……?」


 頬に添えられた手が震えている。


 不安そうな眼差し。


 ただ、ただ……葵を案じているだけの彰良。


「おっ……おねがいっ、だから……ちょ、ちょっとだけ……はなれて……」


「葵、先輩……?」


 躊躇いつつも、葵の言葉に従う彰良。


 葵は胸に手を当て、大きく深呼吸する。


「葵先輩……体は……?」


「た、体調が悪いとかじゃ……ないの……」


 薔薇のように赤く染まった顔。


 涙に潤む瞳。


「あ……あきら、くん……が、かっこうよすぎて……お、おどろいちゃった……の……」


 恥ずかしくて、恥ずかしくて。


 泣きそうな顔で視線を彷徨わせる。


「…………格好よすぎて……?」


「うっ…………」


「……自分が……その、格好良く見えたから……驚いた……?」


 目を丸くした彰良が、確かめるように呟く。


「あきらくんの……ばかぁ……!

 だって……しょうがないじゃないですか……!

 ……私、お兄ちゃん達くらいしか、男の人がそばにいたことってないですもん……!」


「っ…………それ、は……

 (……それは……葵先輩が、俺を異性として意識している……という……っ……!)」


 彰良の心に歓喜が渦巻く。


 葵に異性として見られている。


 しかも……本人が気が付かない心の深い部分に、"彰良"が根付いている。


「葵、先輩……泣かないで、ください……。

 (もっと……葵先輩の心が"彰良(オレ)"で染まってほしい……)」


 ソファの上に座る葵。


 その足元に、清廉な騎士のように跪く。


「……では……葵先輩……?

 ……練習ということで、自分に慣れてみては如何でしょうか……?」


 黒真珠のような瞳から零れ落ちる涙。


 許されるならば、無骨な指先で拭いたい。


「彰良くんに……?」


 意味がすぐには分からず、瞬きをする。


 両目から零れ落ちる銀色の雫。


「……はい。

 一応、自分も分類的には男ですから。

 葵先輩が、自分に慣れるということは、男性に慣れるということになるかと。」


「…………たしか、に……彰良くんなら……だいじょうぶ、かも……」


「……そうでしょう?

 自分は……絶対に、葵先輩が嫌がることはしません。」


 優しく、包み込むような眼差し。


「…………うん……彰良くんなら……ぜったい、しない……」


「はい……約束します。

 だから、少しずつ自分に慣れましょうね」


「……うん、がんばる……」


 優しく、優しく。


 雛鳥に刷り込む(インプリンティング)ように。


 彰良は混乱して涙する葵に語り掛けるのだった。

 

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