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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第四十ニ話



 プラダやヴィトン。


 わかりやすい高級ブランドのロゴではない。


 しかし、高級ブランドには及ばずとも、十分にブランドとしての価値を主張するロゴ。


「あ、あのね、彰良くん……!

 こ、こんなに高そうなお洋服のお金を払ったら……!

 一ヶ月分のお給料なんて簡単に吹き飛んじゃうのっ!

 そ、そしたら……も、もやしも買えない……!」


「…………何故、もやし……?」


「節約ご飯の強い味方だよ……!

 もやし、美味しいよ……!」


「…………」


 涙目で混乱している葵。


 ワタワタと慌てている。


「…………受け取って貰えないと……自分が、困るもので……」


「……え?」


 葵を静かに見つめる彰良。


「……実は、自分には獰猛な姉がいます。」


「…………獰猛?」


「葵先輩と同じ女性であり、人間とは思えない……獰猛かつ面倒極まりない存在です。」


 心の底から嫌だと言わんばかりの渋面。


「…………えっと……?」

 

 困惑する葵。


「……先日、先輩を泊めて帰したことがコンシェルジュ経由で姉に報告されました。」


「…………」


「若い女性を招いておきながら、着替えもさせずに帰すなど…………女心も分からない、無表情、鉄仮面の抜け作と罵倒されました。」


「……いやいや……え?

 あ、彰良くん……私のせいで、ごめんなさい……」


「良いんです。

 アレは、そういう生き物ですから。」


 謝る葵へ、彰良は苦笑する。


「自分は……常々思っています。

 …………姉とは弟を何時迄も子供扱いする上に、弄び、嘲笑する生き物だと。」


「彰良くんを子供扱い……ふっ……ふふ……」


「葵先輩、自分からすれば笑いごとではありません。」


「ごっ、ごめんなさい……!」


 まるで拗ねた子供のように。


 普段の理知的な彰良からは想像できない表情。


 あまりにも可愛らしくて、微笑ましくて、葵は笑ってしまう。


「……以前、葵先輩が兼子さんをシンデレラなどと言っていましたが……自分は、姉こそ意地悪な継母役がお似合いだと思っています。」


「……お姉さんが継母役なら……彰良くんはシンデレラ?」


「…………幼い頃、女装させられそうになったことは認めます。

 ……断固拒否した結果……王子役を好んだ姉の馬役、もしくはガラスの靴を持ってシンデレラを探し回る家来の役でした。」


「っ……?!

 お、お姉さん……強い……!」


 彰良の思い出話に、葵は紙袋の存在も忘れて笑ってしまう。


「……だから、葵先輩。」


「……うっ……」


「自分を助けると思って……受け取って貰えませんか?

 ……葵先輩が受け取って下さらないと、姉が"女性への対応も満足に出来ないのか朴念仁!"と飛び込んで来ます。」


 葵をジッと見詰める縋るような瞳。


「(……どうしよう……)」


 だが、受け取るには金額が高すぎることも事実。


「……宜しければ、此処に置いておく万が一の着替え扱いをしてください。」


「え……?

 彰良くんの家に?」


 キョトンとする葵。


 はい、と頷く彰良。


「……一度あることは三度あるといいますから。

 自分も、葵先輩にご飯を作ってもらえると……とても、幸せなので……。

 自分を助けると思って……是非、宜しくお願いします……。」


「…………それな、ら……良いの、かな……?」


「是非」


「……なんか、結局……丸め込まれた気もしますが…………ありが、とうございます……」


 多少スッキリはしないものの、彰良を困らせたくない気持ちもある。


 絶対に汚さないようにしようと、葵は固く誓った。


「……どういたしまして。

 葵先輩、シャワーを使ってください。」


「彰良くんは……」


「自分は朝一で浴びましたので。」


「……良いの、かな……?

 (彰良くんの……家のシャワーとか……言葉に出来ないけど…………変な、感じがする……)」


 葵の心に疑問が浮かぶ。


 異性同士。


 ただの先輩と後輩。


 ……そんな関係で、先輩が後輩の家でシャワーを浴びるだろうか?


「(……でも……彰良くんは、他の男の人とは違うし……。

 可愛い後輩に……変な警戒を持つなんて……変、だよね……?)」


 疑問を自分で打ち消す。


「……昨日は仕事が慌ただしかったですし、汗をかいたと思ったのですが……」


 他意はない。


 あくまでも、葵のことを考えてすすめただけ。


「そう言えば……変に緊張して汗をかいたような……」


「……新しい服を着る前に、汗を流すことをお勧めします。」


「……確かに……。

 彰良くん、迷惑をかけて申し訳ないけれど……シャワーをお借りします。」


 納得してしまった葵は、彰良へ申し訳なさそうに頭を下げる。


「……此方へ、どうぞ。

 備え付けの石鹸類は好きに使ってください。

 あと、紙袋の中に洗面用具一式も入っているそうです。」


「……重ね重ね、すみません……」


 眉を下げる葵。


 シャワー室を案内する彰良。


「…………」


 説明を終え、後ろ手に洗面所の扉を閉める。


「………………もっと、慣れてもらわないと……」


 葵の日常に、彰良という存在が溶け込むように。


 葵の違和感を一つ、一つ……消していく。


「…………」


 彰良は深くソファに座りながら、考えを巡らせるのだった。


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