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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第四十一話



 ハイテーブルの上に並んだ美しい断面のサンドイッチ。


 真っ白な食パンの間に挟まれたレタスやハム。


 まさに写真から取り出したように、美味しそうに輝いている。


「……彰良くん……私より料理は得意なのでは……?」


「……誤解があるようなので訂正しますが、自分は作っていません。

 テーブルの上に運んだだけです。」


「…………お幾らですか……?

 (お、お財布に入ってるお金だけで足りるかな……)」


 あまりにも高そうな……美味しそうなサンドイッチに涙目になる。


「……葵先輩からお金を受け取る気はありません。

 これは、自分が必要と判断したものですから。」


「で、でも……」


「……サンドイッチは……嫌い、でしたか?

 では…………すぐに、何か別のものを手配します。」


 ニコリ、と。


 悲しげな顔を一転させて、スマフォを取り出す彰良。


「あ、彰良くんっ?!

 だ、駄目ですよっ……!

 これ以上、無駄遣いしちゃダメですっっ……!」


 慌てた様子で彰良の手を掴んで止めようとする葵。


「……サンドイッチ、食べてくれますか……?

 葵先輩が喜んでくれるかと……思ったのですが……」


「うっ……」


「葵先輩と、一緒に食べるときっと……味がすると思うので……」


 己の腕を掴む、葵の小さな手。


 彰良は捕まれていない反対の手を重ねる。


「……自分の我が儘に……付き合わせてしまって、すみません……」


「…………やっぱり……彰良くんの方が、卑怯だと思います……」


 彰良は重なった手を引き、葵をハイチェアへとエスコートする。


「……そうでしょうか……?

 自分は……葵先輩の方が、卑怯だと思いますが……。

 葵先輩の前だと…………弱さ、を……見せてしまいますから……」


 困ったように微笑む。


 寂しさが滲む。


「……彰良、くん……。

 (……彰良くんも……寂しいときが有るのかな……?)」


 葵の瞳が揺れる。


「……変な話をしてしまって、すみません。

 珈琲が冷める前に、サンドイッチもどうぞ。」


「…………いただきます。」


 寂しさを覆い隠すように、彰良が朝食を促す。


「……美味しい」


 一口食べれば、新鮮な野菜のシャキッとした食感。


 洗練された味付け。


 ジューシーなハムとトマト。


「…………」


「彰良くん?」


「…………葵先輩が作った料理の方が温かいです。」


 無感動にモシャモシャと口に入れる彰良。


 それは、食べるというよりは……必要最低限のエネルギーを摂取する作業に見えた。


「…………」


「葵先輩?」


「……えっと……食パンとか、有ったりしますか?」


「……?

 今週、補充された分が一枚だけ残っていたと思いますが?」


「……その食パンをもらえますか?

 あと、ちょっとだけキッチンも借りたいなー……なんて……」


 無感動。


 食べる、という行為。


 昨夜の食事風景とのあまりの違い。


「…………」


 キッチンに移動した葵。


 彰良がパンを取り出し、葵へ手渡す。


「フライパンと包丁……まな板も、借りても良いですか?」


「……葵先輩の好きに使って頂いて構いません。」


「ありがとうございます。」


 まな板の上に食パンを乗せ、パンの耳に沿って白い部分を四角に切り抜く。


「……穴が開きました。」


「ふふっ……彰良くんって、反応がなんか……可愛いときが有りますよね。」


「……成人男性に可愛いは褒め言葉ですか?」


「褒め言葉……だと思いますが……?

 一般的に女性の"可愛い"は、"大好き"も含まれているって聞いたことがあるような……?」


 フライパンに魚焼きホイルを敷き、バターを一つと四角い輪っかになったパンの耳。


「………………っ?!」


「あ、彰良くん?!

 顔、顔が真っ赤だけど……え、風邪?

 熱が出ちゃった……?

 お腹痛い……?」


「……じ、ぶんは……問題、ありま……せん……!

 どうか……気に、しないでください……!

 (本当に、無意識か?!

 ……天然……にしては、破壊力が……!)」


「(……珈琲よりも、蜂蜜と牛乳でホットミルクをすすめた方が良かったかしら……?)」


 林檎のように赤く染まった顔。


 潤んだ瞳。


 腕で顔の半分を覆い隠す。


「……体調が悪いときは、遠慮なく言ってくださいね。」


「…………ありがとう、ございます」


 点火してバターの香りが漂い始める。


 四角の真ん中に卵を一つ、粉チーズをパラパラと。


 パンの白い部分を、卵を隠すようにのせる。


「……彰良くん、なんちゃって卵トースト……食べますか……?」


「食べます。」


「……反応、早いですね」


 くすくすと笑う。


 二人でハイテーブルへと戻り、朝食を再開する。


「…………っ?!」


「あ、彰良くん、焼きたてだから熱いですよ……!」


 仕上げにケチャップを掛けたトースト。


 期待を胸に、大きく齧り付く。


「っ……ふっ……」


 熱い。


 半熟のとろりと流れる黄身。


 粉チーズのコク。


 ケチャップとバターの香り。


 流れ落ちる黄身が付いた親指を舐める。


「(っ……なんで、トーストを食べてるだけなのに……色っぽいの……?!)」


 一心不乱の鋭い眼差し。


 形のいい薄い唇。


 口の端についた卵を舐める赤い舌。


 嚥下する度に動く喉仏。


 骨張った無骨な手。


「っ…………?!」


 顔に集まる熱を誤魔化すように、サンドイッチへ視線を落とす。


「(…………サンドイッチの、味がしない……)」


 美味しかったはずのサンドイッチ。


「葵先輩……ご馳走様でした。

 ……温かい……熱かったです……」


「……よかった、です」


「…………?

 葵先輩は、もうお腹いっぱいですか?」


「お腹、と言うか……胸がいっぱいです……」


 頬を染めて視線を逸らす。


「……残りは食べましょうか?」


「……手を付けていない分だけ……宜しくお願いします……」


 不思議そうな彰良。


 残った数個のサンドイッチをさっさと口へ放り込んでいく。


「葵先輩……此方をどうぞ。」


 食器を纏め、キッチンへ。


 彰良に断って、皿を洗っていれば……急に姿を消したと思った彰良。


「…………?」


 姿がなくなったと思えば、すぐに現れた彰良が葵に手渡した三つの紙袋。


「葵先輩、もし宜しければ……今日は自分に葵先輩の時間を頂けませんか……?」


「時間……?

 それに、この紙袋は……?」


「昨日から入浴もしていませんから、必要かと判断しました。」


「必要って…………えっ?!」


 慌てて紙袋の中を覗けば……数着の女性用の服。


「彰良くんっ?!

 む、無理!

 私、お金を払えない!

 破産しちゃうっっ!!」


 見るだけで上質そうな布。


 葵には生憎とブランドなど、大した知識はない。


 ……だが、少なくとも葵が買う服とは桁が違うことは十二分にわかった。


「…………気に入りませんでしたか……?」


「違っ……そうじゃなくて……」


 可哀想な程に動揺する葵。


 そんな葵を、彰良は不思議そうに見つめるのだった。


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