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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第四話



 何処にでもある中堅どころな企業。

 社員たちが利用する自販機前の小さな休憩スペース。


「立花さん、真面目で優しい君に惹かれました。

 俺と付き合ってください。」


「は……?」


 利用者が少ない時間を狙って無糖のカフェラテを買いに来た葵。


「何を言って……?」


 社内でも一二を争う営業部の花形エース、拓矢。

 そんな拓矢が現れたことに眉を寄せていたのに、平口一番に言われた言葉に唖然とした。


「今まであんまり話したこともない俺に言われても吃驚するよね。」


 戸惑う葵の様子に拓矢は苦笑する。


「えっとさ……総務部に行った時に、いつも真面目に仕事をしていて、後輩にも優しく接する立花さんが素敵だなって。

 絶対に後悔をさせないし、大切にするから俺の恋人になってくれませんか?」


 自分の顔面を知り尽くしているのか、自信満々な拓矢の告白。


「…………私は、黒木さんのことを知りませんし……今は仕事が手一杯です……」


「だったら、付き合いながら俺のことを知っていけばいいよ!

 絶対に俺のことを好きにしてみせるから!」


「申し訳ないのですが、私は恋愛願望が有りませんので。

 (……なんか……この、流れって……)」


 自信に満ちた笑顔で断られる選択肢が最初からないとばかりの拓矢の言動に、葵は既視感を覚える。


「取り敢えず三ヶ月!

 三ヶ月だけお試しで俺と付き合ってよ!」


『立花さん、半年以内に絶対に俺のことを好きにしてみせるから!

 だから、俺の彼女になってよ!』


「っ……」


 拓矢の言葉に葵の過去の傷だらけの記憶が重なる。


「じゃあ、これからよろしくね!」


「えっ……いや、私はっ……!」


 過去の傷の痛みに止まった葵を肯定と受け取ったのか、拓矢は言いたいことだけを言って去っていった。

 その背中へ手を伸ばし、拒否しようとする葵の声は拓矢に届かなかった。


「……彼女になって、か……」


 人気のなくなった休憩スペースには、瞳を伏せた葵と少しだけ冷めてしまったカフェラテだけが残された。

 




 拓矢の告白から数日。

 

「葵、名刺が無くなりそうだから準備して欲しいな。」


「…………職場内で名前呼びはやめて頂けませんか?

 それと、備品管理は私の担当では無いので担当者をお呼びします。」


「えー葵がいいんだけど?」


「……担当者に名刺の件はお伝えしておきます。」


 周囲の視線を背中にグサグサと感じながら、葵は遠い目をしながら拓矢に対応する。


「……先輩ってぇ……黒木さんとつきあっているんですかぁ?」


 拓矢が立ち去ったあと、葵は三徹したような疲労を感じ自分の椅子に座り込む。


「……兼子さん……そう見えますか……?」


「んー……微妙なところです!」


 キャピッと可愛い笑顔で答える華乃に、葵は疲れた笑顔を返す。


「兼子さん、ちょっとトイレに行ってくるわ。」


 ふらりと立ち上がりトイレへと向かう葵の背中に、華乃は何かを考えるような表情を浮かべるのだった。





 トイレの個室に入り、頭を抱える葵の脳裏に浮かぶのは十年近く前の記憶。


「(……強く、なったつもりだったんだけどなぁ……)」


 初めての恋人。


 純粋だった自分。


 ……傷付けられた心と体。


「(好きって言われて……一瞬でも嬉しいなんて、馬鹿みたい……)」


 あの頃から成長していない自分の心に嫌気が差す。


「……ん?」


 個室の中で頭を抱える葵の耳が、微かな音を拾う。


「華乃が一緒にって、メイク直しに誘うなんて珍しいじゃん」


「えーそおかな?

 私、梨花とはけっこう一緒に行動すると思うけど。」


「ふふっ、まぁね!

 でも、本音は噂のアレでしょう?

 総務の地味子さんと営業の黒木さん!」


 トイレに入ってきた華乃と梨花。

 二人の話題が自分だと気が付いた葵は、個室から出るに出れなくなってしまう。


「黒木さんって顔はいいし、営業部のエースだし。

 その相手が総務の地味子さんって絶対に遊びじゃん。

 顔も、性格も、真逆だよねー」


「(……当の本人もおんなじ感想ですよー……)」


 小馬鹿にするようにクスクスと笑う梨花に対して、葵は個室の中でから笑いを浮かべる。


「……てゆーか、華乃は黒木さん狙ってなかった?」


「(……え?)」


 梨花の言葉に葵は目を見開く。


「んー……?

 ああ……一回寝てみた。」


「マジで?!」


 塗り直したファンデのノリを鏡で確認しながら、どうでも良さそうに華乃は答える。


「ちょっと前の合コンで酔ったふりしてお持ち帰りさせたけど……アイツ、ヘタクソすぎてつまんない。

 突っ込んで腰振るしか能がないって感じ。

 性格もアレだし、お金もなさそうだし、セフレにも向かないから……媚は売ってもキープくんにはしなーい。

 ……それに、本命は別にいるしね。」


「(うわー……怖っ……)」


 男相手にはいつも笑顔な華乃の裏側を聞いてしまい、葵は頬を引きつらせる。


「それにぃ……」


 鏡に映った背後の個室をチラッと見て、華乃は口角を上げる。


「その時の合コンで面白い話を聞いたんだよね。」


「なになに?」


「恋愛に興味のなさそうな総務の地味子さんと黒木さんが、三ヶ月以内にセックス出来るか賭けるんだって。」


「(っ……)」


 楽しげな二人の会話に、葵はギュッと服を握る。


「黒木さんが地味子さんを落として、セックスすれば牛ごころの焼肉を奢って貰えて、失敗すれば黒木さんがみんなに奢るんだって。」


「えーっ!

 牛ごころって高級焼肉じゃん!」


「それだけ自信があるんじゃない?

 …………ほんと、つまんない男。」


 遠ざかって行く華乃と梨花の声を、逃げ場の無い個室で聞くことになった葵。


「……ははっ……やっぱり、そういうことか……」


『賭けだったんだよ!

 地味子が初めてかどうか半年以内に確かめるって!』


 目元を覆い、口元に歪な笑みを浮かべる。


「……何処に行っても、そんな奴らっているよね……」


 謎が解けたとばかりに嗤う葵は、誰を嗤っていたのか?


「……ほんとうに……馬鹿みたい……!」


 口元に浮かんでいた笑みを消し去り、唇を噛み締めた葵の瞳には、強い輝きが戻っていた。



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