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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第三十九話



 固く閉じていたカーテンが、低いモーター音と共に開いていく。


 朝の柔らかな日差しが、大きな窓から差し込んでくる。


「…………ん……」


 掠れた低い声。


 差し込んだ光に、彰良は微かに身じろぐ。


「…………」


 覚醒と眠気の間で、目を開けることなく微睡む。


「(…………寝落ち、したのか……?)」


 シーツの肌触りではない感触。


 ソファで寝落ちなど初めてかもしれない。


「…………んぅ……」


「っ?!」


 目を見開く。


 飛び起きそうになった体を、意思の力で捻じ伏せる。


「なっ……っ……?!」


 混乱する思考。

 

 何故、葵が此処にいるのか?


 彰良の隣で……何故、眠っているのか?


「っ………ぁ……!」


 動揺する。


 思い出す。


 温かな味のする食事。


 頭を撫でる優しい体温。


「……っ…………!」


 全身の血が顔に集まる。


 至近距離で見える無防備な顔。


 微かな出汁の香り。


 触れ合っている布越しの体温。


 ――――朝日に照らされた横顔に、一瞬だけ見惚れる。


「っ………………」


 起こさないように慎重に。


 細心の注意を払って。


 葵の重心を移動する。


「っ…………はっ……!」


 音を立てないように。


 シャワー室へ駆け込む。


 ワイシャツも脱がずに、シャワーを全開にする。


「………………」


 頭からずぶ濡れになる。


 ワイシャツが、スラックスが、肌に張り付く。


「…………あおい、せんぱい……」


 手を出してはいない。


 まだ、奪ってはいない。


 まだ、帰せ…………もう、帰したくない。


「っ………」


 激情が渦巻く。


 理性が本音を認めてしまう。


 ……認めてしまった。


「……すみません……葵、先輩……」


 ……帰さないために……必要なものは?


 彰良の頭が急速に算盤を弾き始める。


「……手は、出しません……」


 葵が自分から帰る、と動くなら…………帰せる。


「……帰りたく、なくなる……ように……」


 だが……葵が帰るように促しは、しない。


「…………どうか……」


 時間を。


 状況を。


 雰囲気を、調整する。


「……ゆるして、ください……」


 彰良の熱のこもった懺悔。


 水音に掻き消され、消えていく。


「………………」


 額に張り付いた前髪を掻き上げる。


 上に向けた顔にシャワーの水圧を感じる。


「(まずは……)」


 シャワーを止める。


 肌に張り付いて不快なワイシャツとスラックスを脱ぐ。


「(葵先輩が起きる前に……)」


 髪を乱暴に拭きながら、思考を巡らせる。


「(……必要なもの…………着替え、か?)」


 彰良の部屋から帰さないために必要なもの。


 この部屋で、葵が快適に過ごすために……足りないもの。


 適当な服に着替え、葵がまだ眠っていることを確認する。


「(…………背広を……掛けておく、か……?)」


 静かな寝息を立てて眠る葵。


 打算込みで葵へ背広をかける。


「…………」


 安心しきった葵の寝顔。


 微かに罪悪感が湧き上がる。


 目を、逸らす。


 寝室へ移動し、スマフォを起動する。


「はい、コンシェルジュの二階堂です。

 犬飼様、ご要件は?」


「至急で届けて欲しいものがあります。

 ……急遽、来客がありました。

 若い女性用の着替えや洗面用具など一式をお願いします。」


「……畏まりました。

 犬飼様、サイズは如何いたしましょうか?」


「……サイズ……?

 サイズは……自分より……細くて、小さいです……」


 コンシェルジュの問い掛けに彰良は戸惑い……考えた末に何とも言えない答えに辿り着く。


「……承知いたしました。

 犬飼様、細かいサイズを女性は気になさると思いますので、フリーサイズでご準備させて頂いても宜しいですか?」


「……お願いします。」


「では、もう二点だけ確認させてください。

 お着替えは何日分ご用意を致しましょう?

 あと……下着もご準備されるならば、上はブラトップ付きのタンクトップなどフリーサイズも可能ですが……その……インナー、ショーツのサイズは如何されますか?」


「っ…………?!」


「一般的な日本人女性ならば、М〜Lサイズが適当かとは推測いたしますが……」


「…………着替えは、二泊三日分…………もう一つ、サイズは……ふつう……一般的な、平均で……」


「……承知いたしました。」


 はっきりと答えられない彰良の状況を察したのか、コンシェルジュは引き下がった。


「現在が七時ですので、九時までにはご準備できるかと。

 その他にご要件は御座いますか?」


「……朝食用に何かを用意したいが……若い女性が好む物を頼みたい。」


「……一般的には、サンドイッチ、アサイボール、ドライフルーツ入りのシリアル等かと。

 提携している三ツ星ホテルに依頼可能な品物となります。」


「……サンドイッチを二人分、頼む。」


「承知いたしました。

 此方は届き次第、お持ち致します。」


「わかった。

 だが、インターホンは鳴らさないで欲しい。

 玄関前に来たら、自分に連絡をしてください。」


「承知致しました。」


 電話を切る。


 彰良は静かにリビングへと戻り、珈琲を淹れ始めるのだった。


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