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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第三十七話



 会社の大会議室に並べられた長机。


 一番前の机には、白テーブルクロスが掛けられている。


 社名と役職名のパネル、マイクずらりと並ぶ。


 ざわざわと揺れる空気の中に、数人の男達が現れる。


「…………」


 それぞれの役職パネルの前に並んだ男達。


「……この度は、弊社社員による不適切な行為により、関係各所の皆様、お取引先様、そして社会の皆様に多大なるご迷惑とご心配をお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます。」


 長机の真ん中に用意された社長のパネル。


 その前に立ち、居住まいを正した壮年の男が口を開く。


 社長、専務、営業部部長、法務部部長、営業部課長。


 五人が一斉に頭を下げるのだった。





 会見に臨んでいる五人が頭を下げ、白いフラッシュの光を浴びている頃。


 事件の発端となった営業部には、まだ光が灯っていた。


「兼子さん、お疲れさま。」


「あれぇ、有馬主任じゃないですか?

 良いんですか、他の人達みたいに会見のフォローに行かなくて。」


「課長達が出てるから、主任程度はお呼びじゃないもの。」


 営業部に並んでいるデスク。


 その中の一つに書類を並べ、整理していた華乃。


「……遅くなってしまったけど、立花さんから預かっていたの。」


「葵先輩からっ?!」


 華乃の目の前に差し出されたタッパー。


 その中には、ラップに一つ一つ包まれたアンコ巻きが二つ。


「葵先輩っっ……!

 んもうっ! 本気で愛してますっっ!!」


「…………」


 飛び跳ねるように喜ぶ華乃に、有馬は苦笑する。


「……彼女のこと、嫌っているのだと思っていたわ。」


「案外、見る目がないですねぇ……。

 ……興味ないフリをしていても、執着心の塊はもう一人いたでしょう?」


 有馬の言葉を鼻で嗤う。


「有馬主任だって……気にしていないフリをして、黒木に腸煮えくり返ってたくせに。」


「当然よ。

 遊び半分に人の気持ちを弄んで、傷付けるゲスを好きな奴なんていないでしょう。」


「……だから、あの日……私に協力してくれたんでしょ?

 黒木も夢にも思わなかったでしょうね……?

 有馬主任が、被害にあった女性社員をまとめ上げて……警察に被害届を提出するなんて……」


 アンコ巻きを幸せそうに頬張りながら、華乃は嗤う。


B()a()r() ()C()i()n()d()e()r()e()l()l()a()


「…………」


「有馬主任の叔母様がオーナーのBar。

 私が黒木に"気になるBarがあるんです!"って言えば、下見を兼ねて行くと思ったんですよね。」


「……彼処まで単純な男だとは思わなかったわ」


 くすくすと笑う華乃に、有馬はため息をつく。


「そうですか?

 単純だから他者を、会社を……裏切った先の未来を予想できない。

 ……媚を売る女の顔の裏も読めないんですよ。」


「……黒木は貴女もホテルに連れ込んだと、自慢してたけど?」


「寝るわけないじゃないですか、あんなつまんない男と。

 ホテルのバーで酒は飲みましたけど、私のグラスに何か入れたんですよ。

 ……だから、速攻でグラスを交換しときました。

 あとは、酩酊状態になったアイツをホテルのベットに放り込んでトンズラしましたよ。」


 くだらないと嗤う華乃に有馬は絶句する。


「アイツ……そんなことしてたの?!

 完全に犯罪じゃないっ!」


「キモいけど、寝てるアイツの服を漁ってお薬はホテルのベットの下に転がしときました。

 次に職場で会ったら、前後の記憶が飛んでたみたいですけど。」


 恥ずかしそうに"昨日の夜は素敵でした"の一言で、華乃を抱いた気になったかバカな男。


「……葵先輩に実害がなければ、どーでも良かったんですけど、ね?」


 口の端に付いた餡子を指で拭い、ぺろりと舐める。


 ……有馬には、指を舐めた舌が嫌に官能的に見えた。


「……怖い、()ね……。

 貴女に狙われている立花さんが気の毒だわ。」


「否定はしませんよ。」


「貴女、知ってるの?

 立花さんは、過去に同じような……」


「それ以上は言わないでくれますか。」


 威圧を含んだ低い声。


「聞くなら、葵先輩本人から聞きます。

 葵先輩の傷を他人から聞く趣味は無いです。」


 ピシャリと告げられた拒否。


 開いた瞳孔。


 縄張り(テリトリー)に足を踏み入れかけた人間へ獅子(ライオン)が牙を剥く。


「っ…………」


 獣の低い唸り声に、有馬は怯む。


「……何となく、ですけど……予測はしてますけどね。」


 有馬の強張った顔に、華乃は牙を隠す。


「私、葵先輩に無理やりキスしたんですよね。」


「……え、それ……ええぇぇっっ?!

 あ、貴女なんてことをっ…………!」


「……悪手だったと、今なら分かってますよ。

 たぶん……葵先輩って人間関係に対してPTSDが……いや、恋愛にも、か……」

 

 華乃は遠くを見るような瞳で呟く。


「無理やりキスされた割には、反応が薄いっていうか……。

 時間が経つに連れて、無かったように……それこそ、心を守るために記憶を健忘させてる……。

 その表現が一番……ピッタリかな?」


「…………」


 有馬の脳裏に葵の言葉が蘇る。


 十代半ばの多感な時期に友達と恋人、両方に裏切られた葵。


 他者との関わりだけでなく、恋愛からも逃避することは可笑しく無かった。


「だから……本当に葵先輩の心が欲しいなら、手を出しちゃダメなんですよ。

 手を出した瞬間に……恋愛以外のカテゴリーに移動させられちゃいます。」


 可愛い、と。


 母が子供を慈しむように……撫でられた華乃。


「……兼子、さん……貴女……」


「最初から……賭けでしたから、私の"恋"は……」


 負けを覚悟したような……愛しさと切なさが混ざった横顔。


「ま!

 最後の最後まで、諦める気は毛頭ありませんけれど!」


 明るく微笑む華乃の笑顔は、夜の闇の中でも輝いていた。


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