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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第三十四話



 灰色だった空が黒い色に染まっていく。


 すれ違う車のヘッドライト。


 車道周辺の建物の明かり。


「……彰良くんは、エノキの豚肉巻き以外に食べたい物はありますか?」


 彰良の家に向かう途中。


 道路沿いにあったスーパーに二人の姿はあった。


「(彰良くんには悪いけど……彰良くんのお家の近くのスーパー……?

 スーパーって言って良いよね?

 ……なんか、彰良くんのお家の近くは普通スーパーじゃなくて、高級スーパーな気がするのは私だけかな?

 たぶん……高級スーパーだと買い物は買い物でも、私はウィンドショッピングになりそう。)」


 自分の考えに苦笑する葵。


 借りたお金に色を付けて払うぶんには問題ない。


 だが、お値段シールを確認するたびに、静かに撤退を考え始める自分の姿が想像できた。


「食べたい物、ですか……?」


 自分が立ち寄ることが時々あるスーパーとの違いを感じ、視線を走らせていた彰良。


「…………アンコ巻き、でしょうか?」


「……彰良くん、それはオヤツかデザートだと思います。

 今日は会見も見たいから、アンコ巻きは次回にしましょう。」


「……………」


「彰良くん……?」


「……いえ、何でもありません。

 (……無意識、か?

 次回もあると……葵先輩が、俺との次も考えてくれている……)」


 表面上は表情を変えることなく、内心で喜びを噛みしめる。


 少しずつでも……葵の心の中に自分(あきら)という存在を刻めていることに……。


「彰良くんは、好きな食べ物やアレルギーはありますか?」


「アレルギーは有りません。

 好きな食べ物………………一般的に普及している食材ならば食べれます。」


「…………そうなんですね。

 (……逆に、彰良くんが食べれない一般的に普及していない食材ってなんだろう……?)」


 真面目な表情で返す彰良に、葵は戸惑う。


「(……彰良くんって……ご飯にあんまり興味ない……?)」


 葵が思い出したのは、以前……彰良が準備した朝食。

 

 ホテルのように完璧に整えられた……手を加えた形跡のない食事。


「すみません、葵先輩……困らせてしまいましたか……?」


「……ううん、大丈夫です。

 一般的に普及していない食べ物ってなんだろうって考えていただけなので……。

 …………あ、コオロギとか、蛇……?

 それは、私も無理ですし、普通のスーパーには並んでいないので大丈夫ですよ。」


「……時々……葵先輩は、自分の予想の斜め上の答えを出しますね。」


「え……?

 私は……普通、だと思いますけど……?

 えっと……私、変なことを言いました……?

 (コオロギは粉末が売っている時代だし、蛇は……何かのテレビ番組で、外国に有るって言っていたような……?)


「ふっ……ふふっ……葵先輩は、本当に……」


 首を傾げる葵に、彰良は吹き出す。


「本当に……いつも、自分の予測を上回る人ですね」


「えっと……それは、褒め言葉ですか?」


「はい、素直に褒め言葉です。」


「…………ありがとう?」


「……どういたしまして?」


 スーパーの陳列棚の間を歩きながら交わされる会話。


 どちらともなく零れ落ちる笑顔。


「あ……鶏コマが割引になってる……!」


 豚肉を買おうと精肉コーナーに来た葵は、割引シールに目を輝かせる。


「……割引?」


「彰良くん、親子丼は食べれますか?」


「……食べれると思います」


 何処か不思議そうな雰囲気。


「彰良くん……親子丼って食べたこと、ありますか?」


「……商品名は聞いたことがあります。

 ただ、自分が注文したことは有りません。」


「…………親子丼は、やめておきます。

 (彰良くんの初めての親子丼が私作って…………ハードルが高すぎる……!

 あれ……待って……エノキの豚肉巻きも、アンコ巻きも……初めて、だったり……?)」


 気が付いてしまった事実に、葵は動揺する。


「……食べたいです」


「え……あー……初めて食べる料理を、私の手作りとか……び、微妙じゃないかなぁ……なんて、思うのですが……?」


「食べたいです。」


「……でも……」


 初めては荷が重い、と焦る葵。


「駄目、ですか……?」


「う……え、でも……」


「…………葵、先輩?」


「……駄目……じゃない、です……。

 (……ああぁぁぁっっ……なんで、彰良くんに……勝てないの、私……)」


 内心で頭を抱える。


「葵先輩」


「…………」


「ありがとうございます。

 自分は、とても……嬉しいです。」


 黒縁眼鏡の奥。


 幸せだ、と言わんばかりに細められた瞳。


 柔らかい口元。


「っ…………どういたしまして……」


 ドキリ、と。


 大きく脈打った心臓。


 頬に集まる熱。


 高まる体温。


「……葵先輩?」


「なっ、なんでもないの……!」


 どうして……と。


 どうして……彰良の笑顔に胸が苦しくなるのか?


 ……葵には、まだわからない。


「ぶ、豚肉も、買って……えっと、それから……」


「葵先輩、カゴは自分が持ちます。」


「う、うん……ありがとう……彰良くん……」


 赤く染まった頬が見られたくなくて。


 ワザと俯き、顔を向けない葵。


「…………」


 さらり、と流れた髪の隙間から、真っ赤に染まった耳と首筋が見える。


 少しだけ……悪戯心が湧いた彰良。


「…………」


 顔を背けたまま、彰良へカゴを渡そうとした葵。


 カゴを受け取る瞬間に……微かに指先同士を触れさせた彰良。


「っ……?!」


 漏れそうになった吐息を抑え込み。


 隠せなかった跳ねる肩。


「……次は、何を買いますか……?」


「…………お、野菜の方に……行こう、かと……」


「……分かりました」


 互いに視線を外し、無言で歩く二人。


「(……期待、しても……良いだろうか……?)」


 緩みそうになる口元を押さえる。


「(……葵先輩に……俺は……意識して、貰えている……と……)」

 

 気が付いた事実に、彰良の熱もまた高まるのだった。


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