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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第三十三話



 会社より歩いて十分ほど。


 大柄な彰良の歩幅で五分の距離。


「葵先輩、どうぞ。」


「……お邪魔します……」


 打ちっ放しの灰色のコンクリート。


 彰良が借りている月極駐車場。


 歩くだけで響く足音。


「(あ、相変わらず……車の種類はわかんないけど……なんかすごい……)」


 初めて彰良の車に乗せてもらった時も感じた高級感。


「(……この車って、乗用車……よりは大きい?

 でも……乗用車より大きい車って……ワゴン?)」


「……?

 葵先輩、何か気に障りましたか?」


「ふぇっ?!」


 高そうな車に乗る緊張。


 考え込んでいた思考。


 急に話を振られた葵は、ビクリとする。


「(……っ…………"ふぇっ"……って、なんだ……驚いて"ふぇっ"て……可愛いが過ぎるだろ…………!)」


 普段の真面目な葵からは予想できなかった反応。


 思わず口元を隠して、顔を横に向けてしまう。


「あ、えっと……ご、ごめんなさい……!

 考えごとをしていて……!」


「……いえ……自分も、急に声を掛けてすみませんでした……」


 羞恥心で赤く染まり、慌てた様子の葵。


「……葵先輩、何を考えていたんですか?」


「うっ…………」


 少しだけ逡巡する。


 しかし、隣から感じる彰良の視線におずおずと口を開いた。


「……私の方こそ、気に障ったら……ごめんなさい。

 あの……車に詳しくないから、この車って乗用車にしては大きいなぁって……思いまして……」


「ああ、自分も詳しくは有りませんが、車種はLEXUSと言うらしいですね。

 あまり車には興味がないので、自分の体格でも乗りやすいことを重点に選びました。」


「レクサス……?

 えっと……煌めきをあなたに……?」


「それは……何か、違う気がします……?」


 二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。


「あっ……彰良くん、これを……」


「……?」


 彰良が車を発進させる前に、と葵は鞄の中から小花柄の封筒を取り出す。


「遅くなってしまったけれど、バーのお会計を立て替えてもらっていたでしょう?

 注文した内容と金額はだいたい覚えていたの。

 (覚えていた額より少し多めに入れてるから大丈夫なはず……)」


「……………」


 葵が差し出した封筒。


 彰良はジッと見つめるだけで、手を出さない。


「あの、彰良くん……?」


「………………」


「受け取ってもらえると、嬉しいのだけど

……?」


 封筒を見詰めるばかりで、受け取らない彰良に戸惑う。


「あれは……自分が勝手にしたことですし。

 もともと葵先輩から頂くつもりは有りませんでしたので。」


「……クリーニング代も、受け取って貰えてないから……これ以上、甘えるわけには……」


 困惑した表情の葵。


「……一つ、提案なのですが……」


「提案……?」


「……今日、夕飯を……自分に、作ってもらえませんか……?」


「え……?

 夕飯……夕飯って……ゆうごはん?」


「……葵先輩が、宜しければ……ですが」


 まさかの提案に驚く葵。


 少しだけバツが悪そうな……だが、微かに期待するような彰良の眼差し。


「えっとね……私は一般人レベルの料理は作れるけど……フランス料理とか、フルコースとかはちょっと……」


「いえ、そういう系統の料理ではなく…………エノキの豚肉巻き、を……食べてみたい、です。」


「……エノキの豚肉巻き……?」


「……兼子さんに自慢されました、ので……是非、食べてみたい、と思っています……」


 彰良の予想外のリクエストに、葵はキョトンとする。


「(……ど、どうしよう……作るのは構わないけど……え?

 でも、夕飯って……言ったよね?

 お昼のお弁当、じゃなくて……夕飯……?)」


「……やはり、駄目……ですよね……?」


「っ…………」


 寂しそうな彰良の瞳。


「駄目、じゃないです……」


 寂しそうな彰良の瞳に拒めなかった……いや、受け入れることを選んだ葵。


「っ!

 本当ですか?!」


 花が咲き綻ぶように輝く笑顔。


「……うん……でも、その……」


「何か、問題でも……?」


 しかし、何かを言い淀む葵に彰良は首を傾げる。


「……どっちの……家で、作ったら良いのかな、と……」


「っ……あ……そ、れは……」


「……私の、家でも……良いですけど……ただ、彰良くんには……狭いかな、と思いまして……」


「…………っ」


「彰良、くんの……家だと……調理器具とか……。

 あとは……材料とか、調味料は何が有るかな、と……」


 微かに頬を染めながら答えた葵。


「それは…………盲点でした。

 ……自分の家は、調理器具は一通り揃っています。

 調味料は……おそらく、有ります……」


「……彰良くんは……エノキの豚肉巻きだけで、お腹いっぱいになりますか……?」


「…………」


 困ったように微笑む葵に、お腹いっぱいになるとは言えない彰良。


「その場合……別にもう一品、二品を作ると思うのですが…………味醂や料理酒、などはありますか……?」


「…………何処かで買い物をして、自分の家へ行きませんか……?

 流石に、急に女性の家へ行くわけには行きませんから。」

 

 そうですね……と苦笑する葵を乗せ、彰良はゆっくりと車を出発させるのだった。


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