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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第二十八話



 カサリ。


 凍り付いた総務課内に牛頭がデスクに置いた契約書類の音が嫌に響いた。


「ぶ、部長…………」


 祈るような、縋るような、鼠川の声。


「…………事態は、最悪と言える。」


「っ……そ、そんな……」


 深く息を吐き出し、眉間を押さえ、固く瞑った目。


 ヘナヘナと力なく座り込む鼠川。


 息を呑む周囲。


「……一刻の猶予もあるまい。

 最悪の展開(とうさん)を回避するために全容の把握と対策を進める。」


「……今日が金曜日というのも……痛いですなぁ。」


「うむ……休みを跨ぐ前に会見をしたい所だが……全容の把握もせずに会見を開いても致し方あるまい。」


 渋面で呟く吉村に対し、牛頭が重く答える。


「……発生した問題と経緯、把握できている情報を一旦社長へと報告する。

 即座に危機管理委員会を立ち上げよう。

 悪いが吉村課長、内線をお借りしたい。」


「此方をご使用ください。

 ……牛頭部長、総務も動き出して構いませんね?」


「是非もない。

 私は今から社長のスケジュールに割り込む。

 何か分かれば、その都度に共有して欲しい。

 ……欲を言えば、社長室へ行く前に真実の一欠片でも拾って行きたいのが本音だが……」


 元々の気難しそうな顔を、牛頭はさらに歪める。

 

「取り敢えず、佐山くん、犬飼くん。

 君達二人で今すぐに黒木のPCをネットワークから切り離せ。

 此処から黒木のPC内の情報とログを洗い出してくれ。」


 許可を得た瞬間に指示を飛ばし始めた吉村。


「すんません!

 もうやってます!

 切離しは終了して、中身を覗いてるんですけど……掃除してやがる……。」


「……直近の履歴や業務内容に関わるログの上書きと消去……やってくれますね。」


 自分のPCを前に憤る佐山。


 冷たい声音の彰良。


「待って下さい。

 警察に連行された日は、黒木はPCに触る暇など有りませんでした。」


 佐山と彰良の言葉に、有馬が眉を寄せる。


「……黒木のPCが立ち上がり、操作された最終ログは本日十一時前後……。」


「騒ぎに乗じて、黒木の悪行を知っていた奴が消去した可能性が高い。

 ……都合の悪い情報を消すのが精一杯で、自分の足跡までは手が回らなかったんだろうな。」


「そんな……営業部の中に、この期に及んで黒木の味方をする馬鹿者がいるということ?」


 営業部の主任として、有馬は頭を抱える。


「……あぁぁ……何ということだ……だが、まずは……先方の猿渡産業さんに連絡を取らなければ……」


 顔を青くした鼠川がフラフラと電話へと手を伸ばす。


「……兼子さん、手土産のストックは?」


「あ、はぁい!

 此方が今すぐに準備できる手土産のストック一覧です!」


 牛頭に契約書類を渡して以降、何やら自分のPCに向かっている葵を見守っていた華乃。


 吉村の声に顔を上げて、手に持っていた手土産のストックリストを手渡す。


「……今回の手土産にしては……軽すぎるな。

 誰か、手土産リストの最上位の店にひとっ走り行って買って来てくれるか?」


「はい!

 俺が行って来ます!」


 吉村の声に応えて、総務課の足自慢が走り出した。


「……これ以上は、現時点では何も進展なし、か……」


 重苦しい牛頭の一声に、それぞれの管理職達が行動を移そうとしたその時。


「……一つ、宜しいでしょうか……?」


 PCから顔を上げ、立ち上がった葵が声を出す。


「立花さん、何か分かったことが有るのかい?」


「……確証は有りません。

 しかし、彼が警察に連行されるまでの約三カ月間。

 不必要に話し掛けられていた内容で気になることがあったんです。」


「気になること?」


 葵の発言に管理職達の視線が集まる。


「彼との関係性を断ち切るに当たり、ハラスメントを視野に入れ、出来うる限りの証拠の確保と記録を行なっていました。」


 デスクのPCを操作し、録音していた音声を再生する。


『本当に葵って運がいいよね。

 この俺みたいな、営業部のエースの心を射止めちゃったんだから!』


『……作用ですか』


『葵とのね、結婚とかも考えているからこそ、特別に教えちゃうけどさぁ……この会社って、俺のこと絶対に切れない理由があるんだよね。』


『………』


『本当に大切なものってさ……誰にも見れない場所に隠しておくんだ!』


『……大切なもの、とは?』


『それは……秘密さ!

 まぁ……葵ともっと、深い仲になった時に教えて上げるかもね!』


『……大変申し訳ありませんが、課長からの指示で即刻対応せねばならない案件を抱えています。

 総務部に戻りたいので、手を離して頂いても?』


『えー……そんな硬いこと言わないでよ。

 もう、しょうがないなぁ……なになに?

 もっと特別扱いをして欲しいんだよね?』


『そんなことは一言も言ってませ……』


『一番特別な葵には、隠し場所だけ教えてあげるよ!

 それはね…………俺のデスクだよ。

 鍵付きの引き出しがあるじゃん。

 その引き出しの奥の上に貼り付けてんの。

 中身については…………ベットの中で話す仲になってから、ね?』


『謹んでお断りします。

 勤務中なので、失礼します。』


 PCを操作し、音声を止める。


「……以上です。

 あの時は、自分達が賭けの対象にした女性達の写真データのことかと思っていましたが……」


 冷静な葵の声が総務部に響く。


「……改竄した書類データの可能性も……ある、か……」


「……というか、碌でもねえ奴だな。」


「ハラスメント極まりない……」


「………………」


 管理職達は耳にした録音データに頭を抱えるを通り越して、虚無な気持ちになる。

 更に言うならば、鼠川に至っては白目を剥いていたが……。


「…………」


「………あのクズ……」


 彰良は無言を貫き、華乃は毒づくのだった。


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