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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第二十七話



 少なかった雲が広がり、太陽を覆い隠す。


 昼間にも関わらず、灰色がかった空。


「……牛頭(ごず)部長、お待ちしていました。」


 複数の足音が聞こえる。


 総務課の扉を開け、先頭に立ち入って来た人物。


「……吉村総務課長」


 ガッシリとした骨太な身体をシワ一つないスーツで決め、白髪混じりの髪を固めた営業部部長、牛頭。


 営業部の課長を含む管理職達を従え、気難しそうな厳しい目を吉村へ向ける。


「……ご要件は?」


「火急の要件だ。

 元営業部所属、黒木拓矢が関わった案件の中より、猿渡産業との契約書類を確認したい。

 もし、保存されているならば黒木が担当する前の契約書類も含めて、だ。」


 ドッシリとした声音。


「吉村課長っ!

 緊急の案件なんだ!

 今すぐに持ってきてくれ!」


 営業部課長が焦った様子で吉村へ叫ぶ。


「……困りますなぁ。

 火急の要件とは言え、規則は規則。

 まずは、契約書類の閲覧を求める申請書の記入から初めて貰いましょうか?」


「吉村課長!

 そんな物は後回しにして先にっ……」


「規則は規則、でしょうに。

 ……そちらの悪タレが、俺の部下にしたことを忘れたと思っているのかい?」


 吉村の目が細まり、声が一段低くなる。


「鼠川課長……以前、管理職会議で忠告しましたが、お忘れですかな?

 ……何が起こったか把握はしていないが、悪タレを野放しにした挙句、規則を遵守させなかった。

 アンタが作り上げた土壌で起きた問題で、此方の規則まで無視するような真似を総務課長として許すとでも?」


「っ……それ、は……だがっ!」


「だがも、ヘチマも無いんだよ。

 此方の縄張りまで荒らそうとしやがった、俺の可愛い部下にまでちょっかいを掛けたんだ。

 規則を捻じ曲げてまで、此方に譲歩を求めるな。」


 牛頭の纏う圧に真っ向から向き合い、鼠川の言葉を一刀両断する。


「だ、だが……本当に……か、会社の存続に関わる……」


「吉村総務課長」


 騒ぐ鼠川を無視して、牛頭が一歩前に出る。


「私の管理する営業部所属の部下が、総務課の社員へ行った卑劣な行為の数々。

 そして、それに気が付けなかったことを心より謝罪する。

 本来ならば、問題が起こって間を置かずに謝罪をすべきだったことも含め……本当に申し訳なかった。」


「ぶっ部長っ?!」


 立場が下の吉村に向かい、牛頭は深々と頭を下げる。


「……そして、立花くん……君にも、心より謝罪をしたい。

 営業部に溜まった膿を出す切っ掛けになったとは言え、君にとっては不快の限りだったと推測する。

 黒木の件は、管理職の一人としても至らずにすまなかった。」


 そして、デスクに座っていた葵の元へ歩み寄ると、再び牛頭は頭を下げた。


「っ……?!

 牛頭部長、頭を上げてください。

 黒木さんの件は……彼の人間性の問題であって、牛頭部長のせいではありません。

 確かに、不快ではありましたが……私自身が成長する切っ掛けにもなりましたから。」


「……そうか……」


 葵は牛頭へと曇りない瞳で答えた。


「……吉村課長、宜しければ自分が件の契約書類の原本を持って来ます。

 その間に、閲覧申請書の記入をお願いしては如何でしょうか?」


「……立花さんが、そう言うならしょうがないな。」


 真っ直ぐに吉村を見る葵の提案に、吉村は苦笑する。


「では、此方に記入をお願いできますかな?」


「わかった……」


 総務課内の重要書類保管庫に向かう葵の背後で、吉村は牛頭に申請書の記入を促すのだった。







「それで、鼠川課長?

 此処まで大騒ぎして、此方の譲歩を引き出して契約書類を閲覧したんだ。

 ……何が起こったか、此方も聞く権利ってモンが有ると思うんだがなぁ?」


「ぐっ……そ、それは……」


 葵が持って来た問題の契約書類。

 それを牛頭が目を通している間に、吉村が鼠川へと問いかけた。


「……鼠川課長、私が説明します。」


「あ、有馬くん……」


 冷や汗を流す鼠川に対し、前に出たのは有馬と呼ばれた女性。


「有馬主任か……それで?」


「はい、事の始まりは本日の午前中、取引先企業から届いた一通のファクスメッセージでした。」


 スマートな銀縁眼鏡のブリッチを押し上げ、手元の書類へ目を落とす。


「内容は、当社の担当者である黒木から、契約更新に関するメールを約一ヶ月放置されていることへの抗議。

 加えて、新任担当者(女性)に対する、契約更新を条件とした性的関係の示唆、つまりハラスメントの告発。

 前任担当者(男性)に対する、過去のキックバック要求の判明。

 取引先が保持する一年前の契約書類と、黒木が提示した内容に相違がないかの確認要求でした。」


「は……?」


 あまりの内容の拙さに、吉村の口がポカンと開く。


「……だから……言っただろう……うぅ……胃が、胃がぁぁぁ……!」


「いや……胃とか、それ以前にな……え?

 今日はエイプリルフールだったか……?」


 有馬から語られた内容に総務部は凍りつくのだった。


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